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ルカとシオン

その後もしばらく押し問答が続いた。

いや、問答と言うのは正しくないな。一方的にこちらが話しているだけで、向こうは否定的な言葉に関しては「それでも良い」とばかりにコクコクと頷き、断りの言葉には「それはダメ」とばかりにフルフルと首を振るだけしかしていないからな。


単に断るだけでは効果がなさそうだと悟った俺は、探索者がリーダーをすることのデメリットや、果ては「俺は魔素不足を起こしたにもかかわらず探索者どまりだからパーティに入れないほうが良い」とまではっきりと伝えた。(正直に言って自分の口からこの件を説明したくは無かったのだが・・・)

しかし相手もさるもの。一歩も引かずに、それでも良いとばかりに頷いている。


2,30分ほど一方的にこちらが喋り続けていたため、最後にはこちらが疲れてしまい、とりあえずパーティ編成申請書を受け取る。

パーティ編成申請書にはすでに2人分の名前が書かれている。

「ルカ・ジ・スクトゥム」「シオン・ド・シルバーソード」ミドルネーム付きでミドルネームが一文字ってことは父や祖父が『一代爵』で、まだ継承できていないって事だったはず。

一代爵は、その名前のとおり国から「一代に限り」爵位を与えられるもので、領土が付いてくるような高い爵位をもらおうと思ったら簡単にはいかないが、低い爵位であれば、ダンジョン攻略の功績やレアアイテムの納品等で貰う事ができる。

爵位をもらうことである程度は出世も望めるので、立身出世を目指すものは爵位を目指している事が多い。『一代爵』は子や孫が継承することも出来る。継承するためには同様に国に対して功績を出せばいいのだが、わが国は『一代爵』が増えてきたためこのところ難易度が上がっているらしいという噂が学園内でささやかれていた。

爵位とか面倒ごとが増える予感しかしないので、個人的には当面どうでも良いのだけど。


「で、君はルカ・・かな?」

「(コクコク)」

ルカもシオンも男でも女でも一応通る名前だからなぁ・・。結局性別が分からん。

「シオンさんとも話させてもらって良いかな・・・?」

「(コクコク、クイクイ)」

袖を引っ張られて連れて行かれる。

なんと言うかなぁ・・甲冑なんだけど、立ち居振る舞いがまるで「犬」のように見えるんだよなぁ・・。子供のころイトコの家で飼われてたセント・バーナードを思い出させる。

かまって欲しいときはどこに行っても付いてきて、何かし始めると邪魔してきて、結局遊んでやるハメになる。そういった要求を押し通す謎のスキルを持っていた。

それは子供だったからあしらい方が分かってなかったのかと思っていたけど、どうやらそうではなかったらしい・・・。

あるいは俺が非情になりきれていないだけかもしれないが。


そう思っている間に中庭に連れて来られた。

そこには剣を傍らに置いて座っている女性がいる。頭にはペタンと下がった状態のネコ耳。

『ミュウ族』にしては珍しい黒髪をポニーテールのような感じでまとめている。和服の着流しに近い服装を着ているのもだいぶ珍しいな。胸の部分には胸当てを、手や足には小手や脛当のようなものを装備しているが、どれも申し訳程度であり、一般的に見てもかなりの軽装の範疇に入る。

切れ長の面差しは、クラスに必ず一人いる美人というレベルといっていいだろう。


ずっとつぶっていた目を開く。こちらも『ミュウ族』としては珍しく黒眼だ。

「ルカか。どうした。そちらの御仁は?」

ルカが走りよっていき、耳元で説明しているらしい。

「・・ほう。では、私はシオン・ド・シルバーソード。祖父が一代準男爵を拝命しております。こちらはルカ・ジ・スクトゥム。こちらも祖父が一代騎士爵を拝命しております。祖父達が同じパーティでした縁で幼少より親しくしております。」

「あ、ご丁寧にどうも。アキラ、探索者です。」

「ルカは事情があってあまり話せませんでな、お手数をかけましたでしょう。申し訳ない。」

「いえいえ。それで、パーティーリーダーについてなのですが・・」

「貴殿にてお願いしたい。」

ため息をつく。せめてこっちは多少難色を示してくれるんじゃないかと期待していたんだが・・・。

「シオンさんもご存知でしょう。探索者がリーダーと言うのはあまり・・。」

説得を始めようとした瞬間、傍らの剣をつかんで眼にも留まらぬ速さで切りかかってくる。

ガキン!と響く音。

ほとんど反射的だった。我ながら何をしたのか良く分からない。分かるのは、なぜか切りかかられた瞬間に景色が全てスローモーションに切り替わって、「避けれない」ことを知覚して短刀で受け止めた、と言う結果だけだ。

だが、もう一太刀来たら凌げないし、避けれない。

「何をっ!」

文句を言おうとしたときには既に太刀を納めようとしていた。反射的に文句を言おうとしてしまったが、あれは寸止めで、何も出来なくても切られる事はなかっただろう。

「ルカを疑うつもりはなかったが、流石だな。貴殿がリーダーだ。ダンジョン内では貴殿の指示に従うことをここに誓おう。」

「だからですねぇ・・」

「私の攻撃を・・しかも不意打ちを凌げる探索者なぞ、そういないぞ。」

苦笑いされながら言われる。

く・・ぐうの音も出ないな。へたに受けてしまっているから何を行っても言い訳にしかならない。

色々と考えたがどうにも説得できる気がしない。悩んでいるうちにルカが寄ってきて袖をぎゅっと握る。

しょうがないな・・色々と悪目立ちしてしまった自覚があるだけにしばらく目立つような行動を避けたかったのに。

「・・・そこまで言うなら分かった。リーダーを引き受けよう。色々言われるかもしれないから覚悟しておいてくれよ。改めて自己紹介だけど、アキラ、探索者(下級)で、4月に入学したばかりの新入生だ。」

「シオン、と呼んでくれ。1期生で剣術士(下級)だ。太刀を得手としている。だが私が祖父に学んだのは太刀での攻撃だけでな、守りには難があるし、魔法や弓にも弱い。ルカも1期生の戦士(下級)で、こちらは逆に盾しか学んでいない。守りには定評があるが、攻撃はまったくダメだし、防具に魔法耐性もないからやはり魔法には弱い。」

1期生となると、この場合10月入学で、今回の3月の実力試験で実力不足または単位不足で2期生になれなかったのだろう。ちなみに、学園では3期生で卒業試験に受かれば、冒険者の資格をもらえるのが普通だ。

「しかしまたずいぶんと両極端だな・・。」

「祖父の考え方でな、すべてを万能にこなせる者より、特定の何かに秀でているもののほうが良い、と言うのが口癖だ。そのおかげで、と言ってしまうと祖父に悪いがずいぶん苦労しているよ。」

「そうだろうな。」

しみじみと呟くが、確かにそれぞれに優秀だけど弱点もそれぞれはっきり持っている2人とパーティ組むのかぁ・・前途多難だなぁ、これは・・。

あまり進まなくて申し訳ない。今週はかける時間がほとんど取れなかった・・しょうがないので切りの良いところまで。

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