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遠い未来

「あの馬鹿部長!」

その後も思いつく限りの罵詈雑言を吐き捨てながら資料と格闘する。


「冒険者ギルドについて特集を組めとかまた急に無理な事を言ってくれるんだから!!」

毎度毎度無茶な要求ばかりしてくる上、私を見る視線が嫌らしい部長につき、再度思いつく限りの悪口を言い立てる。

ついでに、部長のそろそろ薄くなってきた頭頂部を思い出し、更に禿げ上がるように念を送りつつ、王立図書館であれにこれにと資料を漁る。


冒険者ギルドには謎が多い。

いつ頃に始まったか、最初はどのようなギルドだったのか、わからないことは多い。

更に、ギルド長は長期間行方不明にも関わらず、まだ交代したことはない。


これが発足して5年や10年といった組織であればまだ良い。少なくとも50年以上はたとうか、という老舗ギルドである。

代表がエルフであったとしても後進に譲るのが妥当な時期。


聞いた話では迷宮挑戦中に未帰還になったらしいが、「ギルドとしては帰ってくることを信じている」という立場なのだとか。

更に不思議なことに、多くの冒険者はこの姿勢を支持している。


今では未帰還者になったときどうするかというルールも定められており、そのルールにそって運用されているが、ギルド長の時代は定められていなかったためそのままとなっているのだとか。

そういう融通の効かない所が逆に「ルール通り運用してくれる」と評価されているのだから不思議だ。

昔と比べると格段に帰還率が上がったとはいえ、いつ未帰還者になるともわからない冒険者にとって、未帰還になった時、適切な処理が行われるというのはとても大事なことで、そこには妥協したくない冒険者はとても多く、また細やかな要求にも答えてくれるため評価が高い。


冒険者ギルドは商人ギルドから独立してできたと推測されている。

それ以外にこのような大きなギルドが何処の国家からも干渉されずに成立するはずがないからだ。


最初は依頼を受けてその依頼を回すだけに過ぎなかった冒険者ギルドだが、まず最初に成立したのは研究部門だというのは定説になっている。

研究部門が研究・開発することで今まで二束三文にしかならなかった魔物のドロップ品が価値が出るようになった。

また、様々な便利なアイテムが生まれ、冒険者の迷宮攻略を楽にした。

ここで面白いのが、冒険者ギルド員でなくなるとそれらのアイテムも効果がなくなるということだ。

どのように判定しているのかは定かではないが、冒険者ギルド員でなければ利用できない。

特に貸出されているアイテムについては、紛失するとペナルティがとても厳しいので皆管理には気を使っていると聞く。


最も最初に開発されたとされるのは退避石だ。

いつでも迷宮から迷宮前に置かれたゲートまで転移できるというこのアイテムだけでも、冒険者にとっては価値が大きい。最初はかなりの高額で一部の冒険者、一部の迷宮にしか利用できなかったらしいのだが、今では新規の迷宮以外はすべて利用でき、初心者パーティでも頑張れば手に入れれる程度の金額だ。

魔力の干渉の問題で1パーティーに1個、かつ転移可能なのは退避石の周辺5メートル程度とされているが、これにより劇的に生存率が上がった。

これ以外にも敵の弱点を表示できる鑑定板など、一度手に入れたが最後使えなくなるなど考えたくも無いようなアイテムばかりだ。


今では迷宮に入るものに冒険者以外は存在しない。かつては国家に専門の軍隊が合った国も有るらしいが、そのようなところへのアイテムの貸出は一切行わないため、すでに絶えて久しいと聞く。少なくとも知る限りには存在しない。


また、出自に一切の考慮を行わないことでも有名だ。考慮出来ないため、貴族は受け入れないとしている。

とは言っても、冒険者でありつつ貴族の娘と結婚することはできるし、親から勘当されていれば冒険者にもなれる。

冒険者をやめた後で貴族に復権する等という裏技は有るらしい。


ただ、冒険者ギルド滞在中に一切の考慮は行われない。

平民出の冒険者と全く同じ評定、同じ扱いになる。


以前親ばかで有名な貴族が圧力をかけた所、その貴族領内の依頼が一切取り扱われなくなった。

当然冒険者ギルドに管理責任不足として追求が行ったが、その席で冒険者ギルド代行はこう言い放ったという。


「わが冒険者ギルドに対し、不当な圧力をかけられたためその抗議活動の一環として行っている。その人物からの謝罪及び当ギルドに及んだ被害について弁済がない限り今後取り扱う予定はない。また、現在もさらなる抗議活動の準備をしている。我がギルドに対して言う前に、その人物に賢い選択をするよう、ご助言されることを推奨する」


現在では冒険者ギルドが取り扱っているのは迷宮での魔物退治だけに限らない。

山の中にある薬草の収集や、人出のいる力仕事まで依頼として成り立つものならなんでも受けてくれる。

もちろん、価格設定が適切で無いと誰からも見向きされずに終わってしまうが。


その後、冒険者ギルドが商人ギルドに対し、その領主の領内に対して迷宮産の物流を止めるという抗議活動に出た為、親ばか貴族は折れた。

親ばか貴族はとんでも無い費用を要求された上、この顛末が国に報告されたので爵位も剥奪されて、現在では辺境の村の一領主に甘んじていると聞く。

なお、溜まっていた依頼はすべて緊急クエストとして扱われ、ほぼ即日で解決されたらしい。親ばか貴族には緊急クエスト分の費用がすべて請求され、請求額を見て泡を吹いて倒れた、と言う逸話は今でも語りぐさだ。


今では冒険者ギルドに圧力をかけようと考える馬鹿な貴族は存在しない。


そもそも、私たちが親の時代にはとても信じられないような便利な生活を送れるのも、迷宮から産出される様々なアイテムが合ってのことだ。

私が今作っている雑誌のような媒体も、30年ほど前までは何の価値もないとされていたドロップアイテムのお陰で成り立っている。

今後も迷宮から様々な利益や娯楽が生まれるだろう。


戦術の研究にも余念がない冒険者ギルドは、新しい戦術を学園に対しほとんど見返り無く提供している。

これにより以前に比べ明らかに冒険者の生存率は上がったが、不思議なことに迷宮が全て枯れてしまうということはない。

もちろん、今日もどこかで迷宮が攻略済になっているだろう。ただ、それと同じ数の迷宮、あるいはそれ以上の迷宮が新しく発見されていることも疑いはない。

最近ではどの辺りに迷宮が出来るかというのも冒険者ギルドである程度絞れるようだ。


「やっぱ資料と机上だけじゃ無理ね」

ある程度文面を書いた私は、インタビューも含め冒険者ギルド本部に向かうことにした。


この大陸のほぼ中央にある冒険者ギルド本部まで、昔なら馬車を乗り継いでも1ヶ月以上は掛かっただろうが、今では冒険者ギルドの支部から転移門でだれでも行けるご時世だ。

このような転移門を管理しているのも冒険者ギルドあってのこと。

冒険者ギルドはこのような仕組みを活用すればいくらでもお金を稼ぐことが出来るだろうが、一切それをしない。

万一している人物が見つかると直ちにギルドから追放され、このような便利な仕組みを一切受けられなくなる。


物理的な商品の持ち歩きは出来ないが、私たちにとっては頭のなかとメモに記載できる情報がすべての武器だし、十二分に利用させてもらっている。

転移する距離によって利用料は変わり、本部へは往復で一律金貨5枚だが、領収書を切ってもらうことを忘れなければそこまで痛くもない。


早速転移し、取材を申し込む。

冒険者ギルドは手続きこそ面倒だが、基本的に取材を断ることはない。

ただ、教えてくれない……というか冒険者ギルド職員ですら成り立ちとかは知らない人が多いだけだ。


まずは初心者教習用の武道場に行く。

冒険者ギルドの初代師範代とされる人物が使っていたとされる刀と盾が飾られている。


「しかし、刀とか明らかに両手持ち武器だと思うのですが?」

疑問に思ったことを対応してくれた現師範代に尋ねる。

「そうですね、もともと刀は『切り返しの刀』とよばれる名品ですし、そもそも盾を必要としません。そのため、それぞれ別人が使っていたものではないか、と考えています」

「それだと初代師範代というのは?」

「おそらく攻撃担当の師範代、防御担当の師範代で別にいたのではないですかね?なんといっても当時の詳しい資料は残っていませんし、あくまで口伝としてあれは初代師範代のものだ、と伝わっているだけですから」

「現在はお一人だけに?」

「いえ、あくまで私も師範代の1人、というに過ぎませんよ。本部だけで良ければ20人近くはいますね。全支部を含めた正確な人数となると私も……」

「そんなに?」

「ええ、学園を出たばかりのヒヨッコをせめて半人前まで仕立て上げないと、安心して迷宮には送り出せませんからね」

「あんなふうに飾っていて盗難の危険はないんですか?」

「ああ見えて最新の盗難防止対策がされてますよ?盗み出す事は不可能ではないでしょうが、翌日には犯人は捕まっているでしょうね。……五体満足かは分かりませんが」

「へぇ……」

「別にあれだけに限りませんよ。冒険者ギルドの物品はすべからくそうだ、と思ったほうが良いですよ」

「それは記事にしても?」

「ええ、是非。冒険者ギルドからなにか盗もうとする不届き者が減ってくれれば良いのですが」

「そんなにいるんですか?」

「……まあ、ゼロではない、と申しておきましょうか。1週間を超えて逃げ延びた人物もいませんがね」

にこりと笑っているが、その笑顔には揺るぎない自信が見える。怖い怖い。この話題はこの辺りにしておこう。


その後も色々と案内してもらった。

最後に、初代冒険者ギルド長が利用していた、とされる部屋を見た。

私の部屋より狭いのには正直に言って驚いたが、掃除はされているものの当時のままにされているとの事。

机の上には80年以上前の書類がいくつも今もまだ処理を待ち続けていた。

当然のことだが、それらはすべて代行により処理されているそうだ。


「仮に、ですがギルド長が帰ってきて処理を変えろ、と言われたら?」

「……おそらくひっくり返るのではないですかね?無論、昔の書類ですし、ほとんどは現状では意味のない書類になっていますが」



業務日誌の端に個人の名前とおぼわしきスペルが有る。

古い日誌でかすれて読みにくいが……アキ…ラ?名前だけ、ってことは初代は貴族ではないことは確定なんでしょうね。

商人のしがちなサイン的な記載でもない。

冒険者ギルドという存在そのものを発案し、現在に至るまで利用されている依頼というシステム、そして冒険者としての大体の強さの目安とされている1から10までの等級というシステムを編み出したとされる人物。

ただの平民出と言うのは昔から言われていることであるが、にわかには信じられない。


現在では冒険者カードに10の等級と得意な相手を記載するシステムだが、様々な迷宮も増えたため20辺りまで等級を増やすべきではないか、という議論が活発だと聞く。

特に4から7辺りが非常に立て込んでいるらしい。まあ、長く続いているのだ。当然、システムにも問題は出てくるだろう。

逆に言うと、多少の改変だけで50年以上もの長きに耐えれた、とも言える。


あの行き当たりばっかりの部長にも爪の垢でも飲ませたいところだ。

関係ない所でムカツキが襲ってきたので、再度禿げ上がるように念を送り直しておいた。


……インタビューまで含めてようやく指定された枚数は何とかなりそうだ。

「でも、結局初代ギルド長はどうしてるのかしらね」

ようやく書き上がった原稿を前に、温かい飲み物を飲みながらひとりごちる。未帰還だとはされているが、どの迷宮に挑んだのかは知られていない。

ふと、冒険者についての最新の研究結果が目にとまる。


……人族の冒険者1000人を対象にした経過観察によると、明らかに一般人のそれと比べ平均寿命が長い傾向にある。

魔物との戦闘を続けることで、魔素を体に取り込み、一種の肉体改造を行っているのではないかと推察される。

これは、昔から言われている冒険者同士の子供は長生きしやすいなどと言った俗説にある程度の信頼性を付与するものではある。

私の仮設になるが、1級の冒険者が相手にする魔物、あるいはそれ以上に強いとされる魔物だけを常に退治可能な環境にある場合、理論的には不老に近い事も可能だと推察される。

なぜなら、特に城の魔物には生物として生きるにあたって必要な行為であるハズの食事や睡眠といった行為について不要としているからだ。

そして概してそういった上位の魔物には寿命が無い。そういった魔物をかりつづけることができれば不老になると推察できる。

おそらくであるが、この方法で不老になった場合睡眠や食事、休憩すら必要としないだろう。その代わりに魔素を常に取る必要があるというだけで。

更に仮説を重ねることになるが、おそらく本人達にとっては体感的な時間が非常に遅くなるのではないかと推察される。

しかし、そうなった場合、それは人として定義可能なのだろうか?……この点に関しては、上記が仮説にあるに過ぎないため、わが研究に置いては結論を避ける事とする。



この研究も結構過激な報告なんだけどな。うーん、そうね、このくらいならいいかな。

そう思った私は一文を追加して私の記事の締めくくりにすることにした。


しかし、冒険者ギルドの長は今どこで何をしているのであろうか?……もしかして迷宮でまだ戦い続けて居たりなんてするのだろうか?まさか、と思われるかもしれないが、冒険者を極めれば極めるほど迷宮での体感時間は遅くなる傾向にあるらしいし、可能性はゼロではないのだけど。


---


深き、深き、光届かぬ迷宮の闇の中。

赤龍が息を吸い込んでブレスを放つ。


会話する事無く散会し、避けるパーティ。

氷の魔法が赤龍の後ろ足を凍らせ、雷の魔法が赤龍を撃つ。


軽装の男が、龍の鉤爪を避けつつ懐に入り、短刀を突き刺す。

横合いからは刀を持った女が龍の首に一刀を入れ、まるで抵抗を感じさせること無く首を落とす。


首を失った龍はしばらく気がつかないように身動きした後、素材を残しつつ魔素に帰る。

「まだまだ先は長そうだな」

軽装の男はそう呟く。


付き従う5人は軽く頷く。歩みを止めること無く先に進み続ける。

伝説に語られる迷宮、「光届かぬ迷宮」の更にその奥へと。

長らくのお付き合い、本当にありがとうございました。

ある程度書き始めたあたりからこういったエンディングにすると言うのは決めていました。


こういう所に小説を投稿するのは初めてでしたが、色々と経験になりました。

この話が完結までこぎつけれたのも読んでいただいた、また感想いただいた方々のお陰です。本当にありがとうございました。

完結じゃないじゃん、打ち切りじゃん、という意見もあろうかと思いますが、作者的にはこれを持って完結となります。


次の作品も、読んでいただけると幸いです。

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