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レスティア老は真っ黒(公爵視点)

ふむ……。

色々とワシにとって利点になるであろう事を上げつつ冒険者ギルドなる構想について語るアキラを、白くなって久しい顎鬚を撫でながら見る。


決意を定めた眼を見ながら、如何にしてこの決心を折るかを考える。


色々と我にとっての利点をあげてはおるが、結局のところ冒険者ギルドなるギルドが成立するかどうかもわからぬ現状では儂にとっては「あの山を掘れば金が出るかも知れない」という話でしかない。

なるほど、金が出れば確かに利益になろう。しかし、その金の純度もわからぬ、埋蔵量もわからぬでは話にならぬ。


商人ならば、その話に乗るものもいよう。

だが、貴族はそうではない。確実な投資が得られるものに必ず掛け金を張る。

貴族に投資させたければ、その山に金がどの程度眠っていて、その純度がだいたいどのくらいかを示さねばならない。

それで利になるとわかれば、100年でも投資する。それが本物の貴族だ。

最近はそうでない貴族がおるのも嘆かわしいことではあるが。


無論、赤字になり過ぎない程度であれば投資することは全くやぶさかではない。だが、博打に乗るにしても、せめてもう少し実現可能なものであれば良かったのだが。


そもそも実現方法に考えておる手段は目算が甘いにも程がある。

冒険者として有名になることで発言力を得ようと考えている辺り、まだまだ青い。冒険者としての腕を認められるほど、上からは失う事を恐れられ、下からはやっかみと嫉妬を受ける。誰しも理想に燃えて学園を出るわけでもないし、冒険者を取り巻く厳しい現実は数年で心を折るには十分な環境と聞く。


冒険者ギルドにある程度理解を示しつつも結果の出ぬ投資は長くは続けられぬとし、5年程度を期限に区切り、それを過ぎても成立の目処が立たぬできぬようであれば爵位を受け我がもとで働け、というあたりが落としどころじゃろうかな。


そうなればノーラは21、貴族の娘としてはやや遅いが嫁がせるには良い時期であろう。

我らは未確定の得れるかどうかもわからぬ利益より、はっきりと分かる利益を取る。この程度のことをノーラやミランが理解していないとも思えぬのだが。


パーティ―内で相談していない、あるいはノーラが判断を儂に投げた可能性はあるか。軽く見ても成立に10年はかかろうが、成立できるようであれば確かに様々な利益は見込めよう。

アキラとしては貴族の影響を排除して中立な機関を作りたいのであろうが、そもそも我に相談している段階でそれは無理なことじゃ。アキラを敵にはっきりと回すのは問題じゃが、名を取らず実を取れば問題はなかろう。


話の方針を定めた所で、まだ色々と話しておるアキラに向かってさっと左手を降って止めさせる。

「話は分かったわい。しかしながら正直、儂にとってはお主の言う冒険者ギルドが設立可能とはにわかに信じられぬのだ。正直な所そのような利益を得れるともわからぬ話には乗れぬ」


何か言おうとするアキラを更に押し留め、

「こちらとしても全く考えてもおらぬことよ。まずは色々と調べねばならぬことも有る。……このような話が即断で決まるとは思ってはおらんだろう?お主の提案は分かった。ひとまずは下がって良い」

ひとまずはこんなところかの。全く信じてもいないという立場から少しづつ歩み寄ったかのように見せればよかろうて。

もう少し突き放しても良いかもしれんが、他に話を持っていかれるのも困る。まずはこの程度でよかろう。


アキラが部屋を出たことを確認してから執事長に視線を転じる。

「元冒険者としてはアキラ殿の言には頷ける場所もあるのですが……」

「やはり実現は?」

「お考えのとおりかと」

「高名な冒険者が声をかけることで実現できる、とアヤツは考えておるようじゃな」

「高名であれば有るほど、逆に難しいでしょう。……アキラ殿は冒険者を少しばかり理想的に見すぎておられるのです。それは学生ゆえの特権とでも申しましょうか」

なんとも言えぬ深い表情で語る執事長。ま、そういうところだというのは理解しておったが。


「お主の経験則か?」

「恥ずかしながら」

椅子から立ち上がりつつ、

「……水は低きに流れるもの。多くの人が集まれば理想より現実に合わせる道を選ぶか、当たり前のことではあるが」

一歩足を踏み出した後でふと思いついて聞く。


「お主なら仮に成功させるとすればどうする?」

「……先ずは商人ギルドの業務の一環として彼の言うところのクエストを発行してもらい、達成すれば金を払うとすれば良いでしょう」

顎鬚を一度さする。

「まずは利を見せると。で、ある程度回るようになった時点で商人ギルドからは独立し、冒険者ギルドとするか」

「御意。すべてがうまくいく前提ですが、いずれ業務的に商人ギルドのみで回すのは難しくなりましょう。商人ギルドは利は欲してもそのような瑣末事を抱えたくはないはず。もともと迷宮に関しては門外漢であることも十分承知しておりましょうし」


「しかし、それでは何年かかるかわからぬな」

「御意。……独立まで早くとも5年、独立後に冒険者達を取り込むのに更に5年というところでしょうか。アキラ殿の言う段階まで冒険者ギルドを育てるには更に10年はかかりましょう」

「作ることが我らの利に繋がるかどうか、早急に調査し、報告書をまとめよ」

「御意」


奴の提言にそって冒険者ギルドを作っても、その実現が遅いのであれば困ることなど何もない。

生い立ち上仕方ない部分もあろうが、アヤツは義理難い面がある。チャンスを与え、それで出来なかったとなれば諦めもつこう。

諦めきれぬのであれば、成立した冒険者ギルドに登録させても良いだろう。

読みが正しければ冒険者ギルドが軌道に乗る頃にはすでに子なりは生まれていようしな。



それから2年近くが立ち、冒険者ギルドが我らにある程度利があることも確認できたので、商人ギルドの適切な人物に話をつけて種を巻き始めてすぐの時期に問題が起きた。

ファーランティアが最後の賭けに出たのだ。


これは全くもって予想外だった。

4代爵位の一角が弱まりすぎるのも良くはない。ある程度部下を削り、その影響力を排除できたので奴にとっても悪く無い話を提案してやろうとしたさなかだったので、正に予想外だった。

良くも悪くも奴を信用しすぎていたかもしれん。奴も貴族なれば、勝算の低い勝負に全額をかけるなどということをするとは思っていなかった。


素早く対処することで我が陣営への影響は最小限で済んだ、が、復讐もあるのだろう。打たれた手からアキラたちを守るのはどうやっても困難そうであった。

……守れないのであれば最初から守らなければよい。

それより早く割り込んで、アキラたちには死んでもらうことにするか。


死ねば、更に殺すことは出来ぬ。

それは書類上であっても同様。避けれないのであれば相手に手出しができない状態にするが最善。

こちらとしても当面アキラを正面切って使えなくなるのは多少痛いが、この件が解決してほとぼりが冷めた頃に戻ってきてもらえばよかろう。


ファーランティアはどうせその頃に文句を言えぬ状態であろうしな。


アキラたちには冒険者ギルドをやるにあたって中立性を担保するためにすべての関係を切る必要がある。故に死なねばならぬ、と説明すればよかろう。これは奴らへの借りになるな。少しばかり商人ギルドに働いてもらうよう発破をかけるとするか。

読んでいただければわかると思いますが、完結は年越しとなりました。

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