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黒騎士団長との会談

席に着いてまずシルヴィアさんが再度礼を述べる。

そして、「このようなものでは礼にもなるまいが」と、ジャラリという音と共に袋を机の上に置く。


中身を聞くまでもないだろう。確実にお金が入っている。

断ろうと口を開こうとした瞬間。


「ありがたく頂きます」

ノーラがすっと手を出して袋を受け取り、俺の前まで持ってくる。


つい非難めいた視線を向けてしまうが、これは仕方ないだろう。

断ろうとしていたのは分かった筈。


クスっとシルヴィアさんが笑う。

今までとは全く違うずいぶんと砕けた口調でノーラに話しかける。

「ノーラ、君が付いていながらこのようなこともまだ説明していないというのか?」


ノーラもまるで姉にでも話しかけるかのような口調で、

「まだ2期生ですから。3期生になってからでも間に合うと思っていたんです。まさかこんな事になるとは思っていませんでした。……更に言うなら、貴女が出てくるのもだいぶ誤算ですね」

困ったかのようにシルヴィアに微笑み返す。


「セラフィはまだ目通りさせていなかったか。准男爵に上がったのは最近だからな。しかし、学園に入った時期から言うともう3期生なのではないか?」

「ファーランティアのボンボンに目をつけられて、半年ほど無駄にしました。……でも、無駄じゃなかったですよ」

俺の方を見ながらにこりと笑う。


俺は、と言うとノーラが今までとは声音含め全く違うしゃべり方をしているのにかなり驚いている。

「悪いが、場所や相手によって話し方を変えるのは私たちの世界では当たり前の話なんだ。ま、正直そういう世界に嫌気が差さないわけでもないのだが」

ノーラがこちらに向かって今までの声音と口調で悪そうに告げる。


「……誤解しないで欲しいけど私はコレが素よ?ノーラたち4大爵が特殊なだけ」

リーゼが私まで巻き込まないでよ、とばかりに横合いから弁明を入れてくる。


「時々どれが素なのか分からなくなることが有るのが難だが」

「それは同感」

ノーラが自嘲めいた苦笑いをすると同時にシルヴィアさんが笑いながら頷く。


「しかし、予想外だったか?」

シルヴィアさんが笑いながらノーラに話しかける。

「だってまだ学生ですよ?一足飛びに貴女が出てくるとは想像外だったですね」

「レスティアが損得度外視で勢力圏に置こうとしてるんだ。どれほどの実力者かは知らないが、レスティア老の目に適うのであればまず間違いはあるまい」

俺の方を見ながらシルヴィアさんは笑いながら言う。そしてノーラに視線を移し

「こちらもまさか貴女がいるとは予想外。これは難易度の高い交渉になるかと思ったら、最大のキーマンはその自覚がないと来る。まだ何も話していないというのも意外だったな」

再度俺の方を見る。非難めいた視線ではなく、かなり好意的、どちらかと言うと羨望すら感じられる視線。


自覚がないというのをある種羨ましく感じているのか?

自覚がないというのはどちらかと言うとマイナス寄りの評価だと思うんだが。


「正直、自覚のない相手を手練手管で引き込んでも後日問題になるだけなのでな」

シルヴィアさんは懐から別の袋を出す。

ジャラリと取り出したのは6つ分の指輪。

「取り敢えずこれを受け取ってくれる辺りで決着したということにしたいんだが?」


俺から見るとただの黒い指輪にしか見えないそれを見てノーラは悩む。

「少しそちらに有利な取引ではないですか?……まあ、ここは妥協しておきましょう。こちらに利になる点もありますし」

ノーラが受け取った時、シオンが少しだけ息を吐き、ミランがいつもよりニコニコになる。


「学生なのに准騎士爵ですか。収入が入らないみなし爵位だとしても、実に有り難いですね」

ミランがいそいそと自分用に一つ取り、眺めながら言う。


「一つ荷が降りたな」

シオンは小声で呟くと2つ取り、一つをルカに渡す。


知識にはないけど爵位を証明する系統のアイテムか。

騎士爵が一番下の爵位だと思っていたがまだ下があるらしい。


「さて、肩が凝る話題はこの辺りにしておいて、だ」

シルヴィアさんはにこやかな表情でこちらを見る。


「少しばかり本音の話をしておきたい」

「それは!」

ノーラが声を挟む。


「貴女からは話しにくいのであれば、私から話してしまうだけのことだ」

ノーラにそう言い放ち、俺の目を真っ直ぐに見ながら問いかけてきた。

「貴殿はどうなりたいのだ?」


意図がわからない。

「……どう、とは?」


「冒険者として身を立てる、それ自体は悪く無い。……いや、むしろ推奨されるべき話だ。そこまでは良い。で、その後どうするのだ?」

「どうする?と言われても……?」

何が聞きたい?いや、何の話をしたいのかが読めない。


「割と直裁的な話だよ。爵位を取って貴族になりたいのか、冒険家業で得た金を使って商人でもするのか?つまり、5年いや、10年後にどうしたいという話だ」

ああ、そういう話か。

漠然とだけど考えては居た。


「どうしたいか、はある程度考えては居ます。……まあ、どのようにしてそれを行うかはまだ考えても居ませんが」

まあ、まだまだ漠然としてるからな。どうすれば出来るかというところから考えないとダメだろうな。


「是非、教えてほしいな」

シルヴィアさんはにこやかな表情のまま、こちらに答えを促してくる。

他の皆は探るような表情。まあ、まだ話せるような段階にまとまっている話ではなかったから話してもいないしな。


「そうですね、あえて言えば現状を変えたい、ですね」

この世界に来て、この世界の常識や現状を自分で把握できてきて、思ったことは多い。

この人相手に言ってしまってもいいのか、と思うところもあるが、いきなり排除されたりすることはないだろう。


「どのように変えたいのだ?」

多分、この世界では爆弾発言なんだろうな。そういう自覚はある。

……黒騎士のトップとしては許容できない話かもしれないが。


「冒険者の立ち位置そのもの、と言ってもいいですかね。……例えば、ですが現状では我が国には黒騎士がいてくれるから冒険者にとって不味い迷宮でも処理されるわけですが、周辺諸国を見渡した時、どうですかね?」

この国はまだ良い。黒騎士がいることで迷宮に対してのセーフガードが働いている。

それでも黒騎士で対応できない場合は?複数の迷宮で魔物が漏れる事態になったら?という部分に少し危うい感じも受けてはいるが、ないよりは断然マシだ。


しかし、他の国でこういった軍隊の話を聞いたことがない国もある。

もちろん、その国に直接行ったわけではないし、はっきりと明示されてないだけであるのかもしれない。

ただ、魔物が溢れてくることがある迷宮という存在自体に対して無防備にすぎると感じている。


何より、優秀な冒険者を貴族がある程度囲ってしまっているという現状も問題があると感じている。

この国内でさえどの位優秀なチームが何チーム存在するのか、はっきりとした情報を持っている人物はおそらく居ない。


「他の国のことはその国に任せるしかあるまい?」

シルヴィアさんが意外そうに返す。

無論、これがこの世界の一般常識であることは理解している。


「まあ、それはそうですが。しかしながら、ある程度単純な予測として、国境近くにできた迷宮を意図的に放置するという戦法を取られた場合どうですかね」

基本的に迷宮というものは人の暮らしがあまりない所に出来る。

以前遭遇したように学園にできた迷宮のように例外もあるが、多くの迷宮はそういった所に出来る。

そして放置されると迷宮は魔物を生む。

その魔物が自らの領土を荒らすから冒険者は国内では優遇されがちだ。ただ、だからこそ優秀な冒険者は国によって管理され、他の国に行くというのもままならない。

しかし、ゆえにこその危険がある。


すっとシルヴィアさんの顔色が変わる。

「なるほど、心配していることは分かった」

「……可能か不可能かの話だけをしますね。迷宮の場所次第でしょうが、沸いた魔物を意図的にこちらに流す事は」

「皆まで言うな」

鋭い口調で言葉を遮られる。


「当然退治のための部隊が組まれようが、国境は超えれぬ。外交問題とするしかあるまいが、……解決には時間がかかろう」

黒騎士隊長モードの話し方になってるな。懸念は十分に伝わっただろう。


「まあ、そういう意図的に発生したものであればまだ救いはありますが、例えば辺境の国に強大な迷宮が発生したら?」

「なるほど、な。懸念事項は分かった。……ただ、それを改善するには並大抵ではできまい。しかもどのようにして行うつもりだ?」

シルヴィアさんからの当然の質問。


「学校の延長上に完全中立な冒険者を管理する存在……まあ、冒険者ギルドとでも仮称しておきますか、を作り、冒険者の立場を確立させ、国家ごとの争いには一切関与せず、迷宮処理のためだけに冒険者を派遣する、と言ったあたりが妥当な落とし所ではないかと」

そもそもこの世界にこういった存在がないのがむしろ驚きなんだよな。冒険者ギルドでランクの管理とか行われているのがある程度当然だと思ってたんだが。


「……発想は悪くない、ただ多くの反発に会うのは疑いないな。何より、成立過程で何処かの国の援助を得ねばなるまい?」

当然の疑問点だよな。国の援助を受ければもう中立とはいえない。

複数の国から同額の援助を受けるという手もあるが、その数カ国を説得するだけでも時間がかかるだろう。


「難しいということは理解しています。妥当な線としては商人ギルド辺りから支援を受けるのが現実的でしょうけどね」

国家が難しければ商人を頼るしか無いが、自分の利益にならぬことはしないのが商人だ。

冒険者ギルドが発足できれば素材などの安定供給の面で利益はあろうが、実現するかどうかもわからないものに投資はしてくれないだろうし。

知る限りの知識に置いては商人ギルドであればある程度中立のようだし、支援を受ける相手としては国よりはマシだろう。


「どちらにせよ、まずは冒険者としてある程度の評価を得たいと考えています。……この国のみで事をなすのであればともかく、そうでない以上、一旦こちらはお返し致します」

俺の分の指輪をピンと弾いてシルヴィアさんの手元に落とす。

惜しい事をしているのかもしれないが、正直貴族なんかになる方がめんどくさい気がするんだよな。しがらみだの何だので。


レスティア老にもいずれ話をする必要はあるだろう。

いろいろと借りは多い気がするし、多分あの爺さんは借りで俺を縛るつもりだろうから先ずは借りを返すところからになるか。

ぼんやりとした考えでしかなかったが、いざ口に出すと思っていたより方向性を持っている話になったな。


シオンが少しだけ惜しいような表情をしたが、指輪を机の上に返す。

ルカは表情がわからないので良く掴めないが、シオンからもらっていた指輪をこちらも机の上に置いた。


事前に話していたわけでもないのに賛同してくれるのか?


「いやはや、アキラさんは流石というべきなんですかね」

先程以上にニコニコとしながらミランも机に戻す。


逆に、悩んでいる風ながらも指輪に手を伸ばすのはリーゼ。

「……私は逆に貰っておかないと、この学園を卒業した後に冒険者を続けれるのかが微妙なの。私個人の想いとは別に、ね」


「私がもらうと言ってしまった以上、私が返すわけにも行かないでしょ」

同様に受け取るのはノーラ。


「全く、私も若いつもりだったが、夢を追えると言うのは羨ましい事だ。そうは思わないか?」

シルヴィアさんが横に控えるだけでずっと喋ってなかったセラフィさんに話を振る。

「そうですな。……ある意味では羨ましい事です。しかし、よろしいのですか?」

「何、冒険者として優秀な者と軍人に向く者と素質は別。冒険者として優秀だからといって全てを引き抜いている現状にこそ問題があろう?」

「……御意」


その後は引き抜きの話題が出ることもなく、実に和やかな雰囲気のまま終わる。


「もし何か困ったことがあればいつでも頼ってきて欲しい。貴殿の目的が達成できれば我々にも利点はあるしな」

黒騎士としても人員の関係も有るだろうし、軍隊である以上国の意向に逆らえない部分があるだろうからな。

仮に軌道に乗ったとしてもライバルとなるうるのは随分先になるだろうし、今はこういった知己を得れたということに感謝すべきなのかもしれないな。

迷宮は基本的にうまく利用して稼ぐもの、というのが一般常識で、意図的に軍事利用しようとした国家は現状では存在しません。まあ、狙ってやるのが難しいというのもありますが。


色々と悩みましたが、基本的にはこの話で終わりです。

予定では後2話ほど後日談的な物を上げ、そちらを持って完結となります。

主人公がどうしたいかをハッキリとさせた時点で、後はもうそれに突き進んでいくだけでしょうから、そこを書くのは蛇足になってしまうと感じたためです。


当初の予定とは少し違った形とはなりましたが、決して打ち切りというわけではありませんので。

今しばらくおつきあいいただければ幸いです。

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