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本日の迷宮探索は終了

少しだけ呆けていたような戦士はすぐに気を取り直したかのようにこちらに向かって礼をする。

「支援痛み入る。まさか倒してしまうとは」


少しだけ肩を竦めながら、

「まあ、それは無事に帰り着いてからにしてくれればいいさ」

と告げる。


最も難敵だった相手を倒したことは確かだが、けが人に肩を貸しているためノーラが欠けている状態だし、助けたパーティ側はこの戦士以外現状戦力にはなるまい。

リーゼが回復したと言っても速く戻ってもっと腕前の高い神聖魔法使いに見せたほうがいいだろう。


戦士はふと我に返ったかの様に、

「これはしまった。恩人に名乗りもしていないとは!私はセラフィ・ジン・パルノフ。一応准男爵を拝命している。そちらも一角の冒険者と見受けられる。是非にもお名前をお伺いさせて頂きたい」

黒髪黒目のスラっとした人族の戦士。精悍な顔立ちは20代後半といったところか。


ノーラをちらりと見るが、なんとも言えない表情。敵か味方かははっきりしない人物か。

まあ、貴族はかなり多い上旗色がはっきりしていない貴族も多いと聞くし、冒険者をまだ現役でやっている人物は誰かの子飼いということもありうる。

わからないのもある程度当然か。


冒険者は騎士爵を取ると引退してしまうケースも多いから、もし実力で准男爵になったのであればかなり腕前のある人物だろう。

……あるいはさっきの部下発言から軍隊関係なら指揮権の関係で爵位が上なだけ、という可能性もなくはないか?


言うべきか言わざるべきか。嘘をついても良いのだが、ここで嘘を吐くと後々面倒なことになる予感がする。

「……残念ながら、まだ冒険者じゃないんですよ。俺はアキラ。学園都市ルーミルで2期生です」


「……は?」

正直、その表情は笑えるほどに間が抜けていた。

そして我に返ったかのように、今までの冷静さをかなぐり捨てて慌ててにじり寄ってくる。

「いやいやいやいや……さすがに冗談だろう!?」


「そう言われましても」

苦笑を返すしか無い。


「大体、君のその武器と良い、そちらの剣闘士の刀と良い、学生の装備じゃないだろ?」

一瞬、疾風の短刀を見られたかと思ってしまったが、視線は戦士の鉤爪に向いてる。


「これは前の迷宮でボスを退治できる機会がありまして。そこでドロップしました。あっちは彼女の家の家宝といったところです」

こちらはまだ冒険者見習いという立場だ。相手の貴族階級を慮って敬語モードに切り替えている。

俺らのような学生が行ける所でボスを退治できる機会があるというのも苦しければ、そのドロップが希少というのは更に苦しいけどな。

ただ、熟練品の武具というのはどちらかと言ういわゆる名工が作るもので迷宮からはあまりドロップしないので、ボスドロップで希少品と言うのは苦しいが言い切れなくはないという世界だ。


シオンの武器は名品と確かに学生が持つには不釣合いな武器ではあるが、家宝と言うならばギリギリ通せなくもないだろう。


「そうはいうが!」

まだ噛み付いてこようとする戦士さん……いや、セラフィ准男爵。


「ここはまだ迷宮内です。……出てからにして頂けませんか」

呆れたような声音で一方的に話を打ち切る。

まだ言いたいことはあるようだったが、向こうのパーティにはけが人もいる。


「……そうだったな。失礼をした」

言いたいことを飲み込んで自分のパーティの現状を確認している。

まあ優秀な人ではあるんだろう。さっきのゴーレムの攻撃も避けれていたしな。


長い時間ではないが話こんでしまった。迷宮のど真ん中でやる行為じゃないな、全く。


ドロップした盾に鑑定を通す。

防具名:『重装の盾』 分類:盾 品質:希少 スキル:『重装』


結構大型の丸盾だが、ルカが以前持っていた半身を覆う様な盾よりはかなり小さめ。

重装スキル自体は重戦士で取得できるスキルで、物理的な攻撃ダメージを軽減する効果がある。


こっちが占有権を主張できる気もするが、最悪持って行かれても痛くはないか。

さっさと懐から折りたたんでおいた中身が空の大きな袋を取り出して他の素材も一緒に入れる。


いわゆる戦利品袋と呼ばれるものであり、学園で支給されている。

この戦利品袋は「迷宮内で配分で揉めそうなアイテムを一時的に保管して後で中身を分ける」という前提として使うもので、セラフィ准男爵も冒険者なら見知っているだろう。


「で、すいませんが転移門はどちらですか?案内してもらっても?」

セラフィ准男爵に聞く。


「……あ、ああ、すまない。こっちだ」


俺達の来た方向とは明らかに違う道を帰る。

准男爵が案内する形なので前方偵察はあまり出来ていないが、来た道を帰るだけならある程度敵は排除されているだろうし、リスクは低めだ。


一度だけゴーレム3体と出会ったが、さほど苦労なく処理し、転移門が設置されている部屋まで来た。


ここまでくれば魔物よけの結界もあるしな。


「そちらは速く回復に戻られたほうがよいでしょうが、先ほどのドロップ品だけ分前を話しますか」

少しだけ意外そうな顔をする准男爵。しかし、即断で返答してきた。


「……救っておいてもらって占有権など主張できん。そのようなものでは礼にもならないだろうが、全てそちらのものとしてくれて構わない」

「よろしいので?」

「ああ。それとは別に再度礼には伺わせてもらう」

存外義理堅いのか?……いや、引き抜きに来るつもりなのかな。


「いえ、当然のことをしたまでです。こちらをいただけるのであれば礼など不要ですよ」

と話を打ち切り、皆に準備を促す。


「では、これで失礼します」

「……ああ、貴殿に感謝を」


その後、遠回りになることはわかっていても一度通った道をたどって帰る。


重装の盾はルカに装備させたとはいえ、大きさがだいぶ変わっているからな。無理はさせられないだろう。


途中ウルフハウンドやゴーレムを主体とした編成と遭遇したものの、それは苦労なく捌いていた当たりさすがはルカだとは思うが。


こちらも問題なく学園に帰り着く。

今日は朝から迷宮だったため、遅めの昼食を取ってから訓練所でルカの盾防御の練習を行う。


まあ、俺が一方的に練習用の短剣で二方向から一方的に攻撃し、ルカには受けてもらうだけだが。


防具や武器の大きさが変わるのは結構取り扱いの印象も変わると思うのだが、ルカは特に問題なく捌いていた。

最低限の動きだけで攻撃を止めるあたりはさすがはルカだ。

足技まで使えば崩せなくはないだろうが、両手で攻撃しているのに盾をすっと動かして受けている。


小一時間ほど汗を流すが、特に盾でのガードに問題が発生しているような印象はない。


「どうする?盾に問題はなさそうか?」

コクリと頷くルカ。


「……これで問題ない」

「大きさが変わっていても?」

「……関係ない。中央で受けるだけ」

うーん。そう言われても心配なんだけどな。

大きさが変わるというのは結構なインパクトだと思うんだけど、ほんとに問題ないのかね。


ノーラに一方的に攻撃されることで回避を磨いていたシオンに声を掛け聞いてみる。

「ルカが問題無いと言っているならば心配はないさ。ルカの祖父殿は盾が変わっても受ける基本に変わりはない、と常々言っておられたし」


「……ならまあ明日も一応確認してからかな」

実戦で問題が見つかったら事だしな。

心配性すぎる感はあるが、明日の午前中あたりは確認に当てて、午後から少しだけ迷宮に潜るくらいでいいか。


それからもルカを防御に専念させてシオンとノーラのタッグを挑戦させてみたり、今日は主にルカの盾防御の確認に費やした。


ミランとリーゼはいつもどおり魔法の発動練習を行い、少しだけイレギュラーの有った日、として一日が過ぎた。

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