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巨人たちの庭

結局のところ、2週間という時間が必要だった。

何って犯人の特定に、だ。


クルトの力を借りてこれだというのだから、1人で調べるというのは難しかっただろう。結果論だがノーラの祖父に力を借りたのは正解だったな。


予想通り、事務員の中に犯人はいたが、犯人が行ったことはカードを入れ替えて説明の書類を別の書類と差し替えただけ。

それが俺たちのところに行くとは思っていなかった。……いやこういう言い方は正確ではないな。


そいつは俺達の存在すら認識していなかった。

脅迫されてその意味もわからずに交換しただけ。

交換されているとは思いもしない事務員がその資料を元に俺達に説明をした、という形だ。


さすがに相手もさるものだと思ったね。

これはそう簡単には特定できない。


更に言うなら、その人物を脅迫していた人物は既に掃除されてしまっていた。

……ある程度は予想していたが、蓋を開けてみればこんなもんだな。


下から上に上がっていくより、上から下に芋づる式に釣り上げて掃除していった方がそりゃ確かに早いか。組織ってのはえてしてそんなもんだけど。


入れ替えられたカードについても、脅迫されていたその人物に責任をもって対処してもらい、正しいカードを手に入れることができた。

その人物が紛失した扱いになるらしく減給は免れないみたいだが、むしろその程度で済むんだから感謝して欲しいところだ。


ようやくもらえたカードで元々行く予定の迷宮に入り、その後も1期生としては難易度の高めの迷宮を選んで挑戦し、日々が過ぎていった。



気が付くと2期生になっていた。

とは言っても、何かが変わるわけでもない。


もうパーティ本申請書を出してしまった上、学園迷宮での上限数である6人パーティである僕らはメンバーを入れ替えることも出来ない。

完全にパーティとしての戦闘方法も確立されてしまっているし、変更があっても困るといえば困るんだけどな。


それを知らない元2期生から勧誘が結構多くあったようだ。

……主に俺以外のパーティメンバーに対して。


が、パーティ本申請書が提出されていると聞いて皆引き下がって行ったようだ。

ただ、それが知れ渡るまでにある程度の時間が必要だった。


その間最も勧誘攻勢の多かったシオンがご機嫌斜めにつぶやいているシーンが良くあった。


「まったく、バカバカしいことだ。本質が全く見えていない」


端から見るとほぼ一刀で敵を処理するシオンがこのパーティのキーのように見えるようだ。

学園では特に前衛で敵を倒せる能力が高い人物の評価が高くなりがち、という事情も有るのだろうが。


勧誘の多さから見て評価が高いのは次いでミラン、リーゼ、ノーラという順のようだ。


防御する事が多く、直接敵を倒す能力が低いと見られがちなルカと、元々パーティ内の評価が低くなりがちな探索者ということで俺は勧誘攻撃で苦労することもなかった。

何で俺がリーダなのか本気で不思議がっている奴も結構いたしな。


単位の関係で共通の学園迷宮に入ることも多いし、そこで戦闘は割と見られがちなので、まあ分からなくはない評価だけどな。


学園迷宮に入るのは出来る限り最低限にし、出来る限り外の迷宮にアタックするようにしていた。

正直、学園迷宮じゃもう難易度が低すぎるんだよな。


2期生の挑戦する迷宮は1期生よりはやや難易度が高めにはなっているものの、いちばん難易度の高い迷宮でも2、3日で完全に攻略できるレベルで正直、歯ごたえがなさすぎる。

いや、今までの迷宮の難易度が高かった分余計にそう思うのかもしれないが。


ただ、外部の難易度の高い迷宮は最初からは入れずにいくつかの迷宮を問題なく踏破出来なくてはならない。

そのため、できるかぎり無駄が出ないように迷宮を踏破していき、ようやく、新しい迷宮への通行許可が出た。


この辺りからは俺達にとって適正よりやや弱いという程度になってくれるだろう。

既に初めてのことではないが、この迷宮は他の冒険者も入っている迷宮になるので、その点も注意は必要だが。

まあ、滅多なことではトラブルにはならない事も既に学習済みなんだけどね。


ようやく許可をもらえた迷宮「巨人たちの庭」は名前通りかなり広い。

通路一つを取ってみても俺達の横に6人パーティが更に一つあっても問題なく戦闘できるだろう。それ程に広い。


現れるのも迷宮の名前通り5メートル程度は標準サイズのゴーレムが主流だ。

それより小型にはなるが、大型犬の様なウルフハウンドを始めとして複数の魔物も存在する。


早速、ゴーレム1にウルフハウンド2の敵と接触。

ゴーレムは挙動が遅い代わりに一撃のダメージが高く、ウルフハウンドは動きが素早く手数で攻撃するとなかなかいやらしい組み合わせだ。


ウルフハウンドにのみ集中していたらいつの間にかゴーレムから攻撃を受けてしまったり、あるいはゴーレムに意識を取られすぎるとウルフハウンドの餌食になるという感じの迷宮なのだろうが、俺達にとっては特段苦労もない。

ルカと俺がウルフハウンドを処理してシオンがゴーレムに相対する。

シオンはまだやや回避には難があるものの、相手は基本大振りになりやすいゴーレムだ。

特に苦労なく攻撃を見切り、すっと間合いを詰めて足に攻撃を行っている。


ルカも危なげなく攻撃をさばいている。合間合間に上手く相手の体勢を崩してメイスでの攻撃を命中させている。

ダメージは十分とはいえないが、少しずつ累積させている感じだし、悪くはない。


俺は、と言うと、飛びかかってきたウルフハウンドを苦もなく避けその胴体に左腕に装備した戦士殺しの鉤爪をクリーンヒットさせたところだ。

疾風の短刀はさすがに目立つ為、外の迷宮内じゃ専らこっちを使っている。


右手にも短刀は持っていて、そっちで攻撃することもタイミング的に問題なく出来たものの、左腕での攻撃になれるため最近は意図的に左手ばかり使っている。

最初のころは思ったとおりに攻撃を命中させることが出来ず苦労したが、最近では右手に比べればやや精度は悪いものの、思っているとおりの攻撃が出来るようになってきている。


弾き飛ばされたウルフハウンドは距離をとったままこちらを伺って居るが、そんなに時間も掛けれないしな。

さっと間合いを詰めて再度、胴体へともう一撃を放つ。

黒い煙となって掻き消えるウルフハウンド。


その横ではシオンがゴーレムの左足の破壊に成功したようで、音を立てて横に倒れるゴーレム。

ゴーレムにミランの魔法が突き刺さりこちらは素材を残して消滅する。


ルカが対峙していた方のウルフハウンドはと見るが、こちらも結構ダメージが累積されているようだ。

ルカの後ろからタイミングを合わせてノーラが攻撃しているのも大きいな。


放置してもすぐに処理できるだろうが、俺が向かうまでもなくシオンが横合いからバッサリと切りつけそれで終わる。

今回はオレたちにとっては楽な組み合わせだったな。

特殊スキルを使わずに直接攻撃してくる敵は苦労がなくて良い。


しばらくは何事もなく進んでいく。

何度か敵と戦闘になり、その中でもリザードパピーという全長2メートル程度で空を飛びつつ火のブレス攻撃をしてくる敵には少しだけ戸惑ったが、飛ぶといっても2,3メートル程度の高さで攻撃が届かない距離ではなかったため上手く叩き落として解決した。

1体だけで出現してくれた上、ブレスもそこまで致命的という攻撃ではなかったのでそこまで苦労はなかったが、コイツが複数体出てくるとちょっと面倒かな。


迷宮にアタックしてから3時間程度、より大きな道に出たため、その道を歩いていた時に正面から大きな音が聞こえてきた。

かなり大きな音と人の声。


ゴーレム?それにしては音がでかい。

かなり先だがゴーレムより更に一回り大きな敵と戦闘を行っている冒険者パーティーの姿が見える。


切れ切れと聞こえてくる声。

「……引き受け……下がれ!」


遠見のスキルで見る限りあまり状況はよくなさそうだ。

1人がゴーレムの前で攻撃を引き受けている。


周りには倒れ伏している戦士と思わしき人物が2人。

回復魔法を一人がかけ、倒れている人物をそれぞれ1人が抱えてジリジリと下がっているが、ゴーレムから離脱にはまだまだ時間がかかるだろう。


放置するのも寝覚めが悪いな。

支援に入る旨のハンドサインを出して急ぎ距離を詰める。

その間に通常より一回り大きな上、攻撃速度も比べ物にならないほどに早いゴーレムに鑑定を通す。


魔物名:『シュターキ・ゴーレム』 魔素:過密(変異) 弱点(下級):神聖 スキル:『連続攻撃』『吹き飛ばし』『頑丈』『機敏』『通常武器無効』『状態異常無効』


変異型とはまたレアな魔物だな。

極稀にしか発生しない魔物で、この種にはふだんの魔物の常識が通用しない。ヘタするとこの迷宮のボスより強いんじゃないだろうか。


ゴーレムとはとても思えないスピードで連続攻撃を繰り出している。

中央で攻撃を引き受けている人物は割合余裕を持って回避しているようではあるが、前衛がほぼ壊滅状態でまだ撤退できていない状態だし、持っている武器ではダメージが通せないのだろう。

かなりやりづらそうだ。


「ノーラとリーゼはあっちに手を貸してやってくれ。……ルカ、あいつの攻撃を受けるなら全てシールドガードだ」

スキルで防御しないと多分吹き飛ばされる。


指示を済ませ、更にスピ―ドを上げた。

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