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夕食にて

夕方、いつもの食事処で皆で食事を食べる。

公爵のところでおいしい食事に慣れてきたせいか、ここの食事処の食事ですら普通に感じるようになってきている。


一度高級なのに慣れるとダメだな。しばらくは粗食に戻らねば、などと益体もないことを考えながら食事をする。


「なんだか、そんなに時間は経っていないはずなのにずいぶん久しぶりな気がするな」

シオンがしみじみとつぶやく。


「そうね、今考えるとたった1日のことなのよね」

リーゼが同意する。


「学園がずいぶん平和だな、とそう思ったことは否定出来ないな」

ノーラが苦笑する。


「……何があったというのじゃ?」

クルトが一人だけ目を白黒させている。


「一言で言うと行った迷宮が違った」

俺は簡潔かつストレートに答える。


「多少の難易度の迷宮ではお主らには苦労はないじゃろ?……つまり、よほど高難易度の迷宮、といったところじゃな」

一言でピンときたのか。察しがいいな。


「まあ、な」

そういえばあの迷宮の名前を確認しなかったな。

ま、当分は行くこともないだろうし、ここで名前を伝えたところで知っているとは限らないしな。


「よくぞ無事に帰ってきたのう」

しみじみとクルトが呟く。


「私としてはまだ貴方の方を心配していたんだが、な」

ノーラがそういえば、という感じでクルトを見る。


「ワシが心配されることなぞあったかの?」

心外な顔をするクルト。


「もう、お目付け役としては首になってるんじゃないかってね」

ノーラはニッコリと微笑む。


「……やれやれ、かなわんのう」

首を振るクルト。


なるほど、お目付け役か。確かに迷宮に入る以上ある程度危険はあるからな。

公爵の孫というならついていても不思議はないか。


「まぁあまり隠すようなこともしておらなんだしな。気が付かれて困ることでもなし」

あっさりと白状するクルト。

そしてこちらからの鋭い視線に気がついたのだろう。慌てて付け加える。


「あらかじめ言うておくが、あくまで迷宮内でのトラブルを事前に防ぐのが目的であって、政治的な兼ね合いはワシの本業ではないぞい」

顔の前で手をひらひらとさせながら言う。


「今回の件もそうじゃ。ゴタゴタに巻き込まれたのであろうことは容易に推測がつくが、具体的になにが有ったのかはワシは知らん」

嘘は言ってなさそうだな。


知っていたらボンボンの時のようにせめて忠告はしてくれただろうし。


「ま、知っていたらこうやって顔を見せに来ることもないだろうしな」

知っていて黙っていたならタダじゃ済まないということぐらいは理解しているだろうし。


「全く安月給の割に合わん仕事じゃて」

肩をすくめながら苦笑いのクルト。

「知らないとはいえ、全く情報がないわけではないんだろ?……ちゃんと掃除はされたのか?」

気になっていることを聞く。

「……完全な掃除は出来なくはないが意味が無い。どうせまた作られるだけじゃからの。ただ、もうあのような大掛かりな工作は出来ぬようには掃除されておるし、現時点でかなり強く監視されておる。……もはや死に体じゃ」


なるほど、な。

完全に潰すよりはある程度残すことで監視も容易な状態に置く、と。

正直、この辺りはイタチごっこな部分もあるんだろうが、割合望ましい状況にはなっているようだ。


「当分は安心できる、という理解でいいのかな」

できれば卒業まで手出しがなければ最も有り難いんだけどな。


「取り敢えずは卒業までは大丈夫じゃろ。今回はさすがにやり過ぎじゃよ。学生を罠にはめて殺す等、どこかに漏れようものなら外聞が悪いにも程があるわい」

クルトが堂々と請け負う。


更に少し悪い顔をして続けて言う。

「確実に殺す為の罠じゃったはずよな?……それをたかだか学生に無事潜り抜けられたと知られるようなことがあれば、外聞が悪いというレベルでは済むまい」

悪い笑顔だな。


確かに、そういう側面もあるか。

だからこそ余計にメンツを守る為に色々してくる可能性もあるとは思っているのだが。


と、いっても活動するための拠点はだいぶ整理されているようだし、当面の間は油断はできないが意識しておく程度でよさそう、と自身の中での指標を軽く定める。

それにここで仮定をもとに話をしても意味が無いからな。


「まあ、そこには色々思うこともあるんだが、いいさ。取り敢えずは無事に帰ってこれたことだし」

切実な感想を口にする。


もっとレベルが上がってからでないととても行きたいとは思えない。

学生で行く難易度の迷宮じゃないことだけは確かだ。


「しかし、あれだな。もう行きたくはないが、あれほどに難易度の高い迷宮の後だと、学園内の迷宮では腕試しにもなりそうもないな」

ノーラが苦笑を交えながら言う。


「それは俺も気にして居るんだがな。とは言っても、まだこのカードを返すわけにも行かないし」

カードを見せながら話す。


「それが行った迷宮のカードかの?」

「そうだな」

経緯を軽くクルトに説明にする。


「確かに返すのはマズイといえばマズイか。いずれこのカードが正規の迷宮には行けないことは判明しようし、その時がいつ来るかわからんというのも頂けんのう」

こちらが懸念していることをそのまま言ってくれた感じだな。


「ワシの方で調べても良いぞ?なんじゃったら、正規の迷宮のカードを手に入れてきても良い」

悩むな。自分で調べたいところもあるが。


と言っても、このカードを持ってることで調べれることは多くはないだろうしな。

なくても調べる事は可能か。


「……じゃ、頼めるか?訓練場でしばらく鍛えるのは悪くはないが、やはり迷宮に入らないとできないこともあるしな」

カードを渡す。


「ま、正直ヒマじゃしな。腕の立つものの勧誘などもないわけではないが、ワシ自身の腕前が錆びぬ程度に訓練する程度で仕事も少ない。本業は現在お主に任せてしまったせいで開店休業状態じゃしの。任せておくことじゃ」

わかったらまたここで報告を受けることにし、食事会はそこでお開きとなった。

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