舞台裏(公爵視点)
「で、どうじゃ。首尾の方は」
最も信頼する人物である執事長に尋ねる。
先代執事がこの手のイロハを叩き込んでいるため、最も適任な人物でもある。
「は、順調に推移しております。既に学園内に影響を出せるほどの勢力は残っておりません。向こうも、コチラが本気だということを理解したのでしょう。なかなか速やかに撤退していっております。もはや問題が起こることはないでしょう」
6日での結果としてはまずまず、じゃな。
全ての学園に手のものを回してはおるが、どうしても優先度というものは出てくる。
力を入れれる学園とそうでない学園というのは当然出てきてしまう。
学園都市ルーミルはこちらの勢力範囲から外れることもあって順位は高く無かった。
ノーラが行くため多少は順位を上げたはずでは合ったが、それでも、より順位を高く設定している相手には及ばぬというのは仕方がない。
「排除の方法は?」
「今まで通りであります。まずはこちらから使者をだし、相手の親を処理しました」
学長宛に使者をだすことでこちらが本腰を入れたとあえて知らせる。
こういったことは相手にはっきりと知らせる必要がある。コソコソとするのでは逆効果だ。
親というのは当然隠語、元締めに当たる人物を適切な方法で処理したのであろうな。
大体、真の意味で何処かに所属している人物など少数。
大抵は義理であったり、金であったり、脅迫であったり、何らかの方法で弱みを握られているだけで、それがどんな意味を持つかも知らずに協力しているというものが大半だ。
故にこそ、その大本となる人物を2,3人排除するだけで相手が出す影響というのはかなり限定的に絞れる。
「むろん、上手くやっておるのじゃろうな?」
「御意」
別途確認する人物は出したほうが良かろうが、はっきりと足がつくような愚かなことはしてはなかろう。
国内の事ゆえ、誰がやったかなど相手には一目瞭然、ただそれを責めるにははっきりとした物的証拠がない、という辺りが最も望ましい。
当然のことながら、排除した場所にこちらの息が掛かった人物を配置しておるくらいはしておろうしな。
「さて、もうひとつの案件じゃな」
「は、先日もご報告させていただきましたとおり、あのパーティが分裂するのは望ましくありません」
冒険者のことは畑違いじゃしよく分からんが、既に完成したパーティと言うのは1人欠けるだけで実力を発揮できなくなるものらしい。
これは体の何処かが動かなくなったとして、今までできていたものができなくなると思えば、と説明を受けた。
で、あれば分からぬでもない。
執事長に目線を動かす。
「は、そちらも既に手は打っております。ルカ殿とシオン殿はどちらも大将軍閣下の閥ですが、新興の下級貴族ということもありこちらに取り込むことに苦労はありませんでした。むしろ苦労したのはリーゼリッテ殿でしたが」
「確か辺境伯に嫁ぐ予定があるのであったか?」
鉱山を多数持つ有力な貴族。港町を持つアーゼルハイト伯としては結び付きを強めて鉱物の販路を獲得したいというところだろう。ま、面白くはないが手堅い選択ではあるな。
「御意。もともと内務卿が目をつけている大物でもありますゆえ、当方の持つ情報を幾つか内務卿に流して影響力を削ぎます。この点においてはアキラ殿の持ってきた情報も役に立ちました」
内務卿は敵じゃが、敵だからこそ使いようもある。あれで有能な男でもあるしな。
惜しむらくは有能すぎたという点に尽きる。……あの件を強引に進めようとさえしなければ今までどおり中立の立場でも良かったのじゃが、な。
「引退まで持っていけるか?」
「残念ながらそこまでは難しかろうかと。ですが、新しい妻を取るような余裕は無いでしょう。さらに言うならば、アーゼルハイト伯には既にこの情報を伝えております。アーゼルハイト伯は何をなされるにも手堅い方、巻き込まれることを避けて既に結婚を取り下げる準備に入っておりましょう」
軽く頷く。ま、悪くない展開じゃな。
「アーゼルハイト伯にはよろしく言っておくように」
ノーラは対外的にはワシのお気に入りとして通っておる。
しばらくはお気に入りの孫が望んでおるから、という理由で冒険者を続けさせることができよう。
さらなる実利が必要であれば、外国の貴族なり商人なりを紹介してやればよかろうし。
外務卿たるワシにとっては苦労もないこと。実際に何人か紹介できる人物の顔も浮かぶ。
紹介するならばあまり力を付け過ぎない程度の相手である必要もあるか。
アーゼルハイト伯は先々代から大司祭の閥でもあるし、あまり力をつけすぎるのも困るしの。
「で、6日見てどうじゃ?」
再度執事に尋ねる。
「……先日のご報告は訂正させていただく必要があるやも知れません」
「4,5年で次代を担える、そう申しておったな」
さらに時間が必要か?20代前半で一流というパーティはそうはいないからの。
「……2年必要ないやも知れません」
「更に短く済む、と申すか」
「御意。交渉事に関しては経験が必要でしょうが、単に迷宮に入るだけであれば、その程度の年数で十分でしょう」
「一体何が合った、というのじゃ?」
さすがに驚きが消せぬ。
「10年鍛えた技術を1日で盗まれました。……無論、モノにするのには多少時間はかかりましょうが。何より、現時点で全盛期だった私でも、勝利は難しかろうかと」
「それほど、か」
頭を深々と下げて同意の意を示す執事。
「是非にでも、我が閥に招かねば、な」
今回持ってきた資料でいくつかの爵位は飛ばせようし、飛ばした爵位を割り当てる程度であれば造作もなかろう。
格が足りぬようであれば、爵位を統合して上の格にすれば良い。伯爵、いや、まずは子爵位あたりが良いやも知れぬな。
爵位が煩わしいタイプであれば名目だけで良いし、いざとなればノーラを嫁がせれば良い。
合図して執事を下がらせ、思考にふける。
爵位を飛ばすのは良いが、タイミングは測る必要があるな。もっともよいタイミングは?何処で切るべきか、最適な解などはないが、最善を目指すには思考を重ねるしかないから、の。




