祖父との会話(ミラン視点)
翌日、朝も早い時間から領地に戻った。
一旦アキラさんたちには宿屋で待ってもらう事にし、本邸にノーラ姉と入り、忙しい祖父になんとか時間を作ってもらい、これまでの経緯を説明した。
……最初のうちは特に問題はなかったと思う。
転移して出れなくなったという件あたりから急に空気が重くなる。
すべてを説明し終え、アキラが力を借りたがっているという話をしたあと、祖父は大きなため息とともに一言。
「……バカモンが」
頭を軽く振って椅子から立って部屋を出て行く。
ドアを開けて、こちらを振り返り、横にずっと控えていた執事に対し、
「そのバカ者どもに、どれだけの思い違いをしておるかを教えてやれ」
と言葉を残して部屋から去る。
学園に入学するまでの間、先生として色々と教えてくれていた執事を見る。
「許可をいただきましたので。……では、まずはそこに座っていただきますかな」
有無をいわさぬ笑顔。このモードの先生は久しぶりに見る。
どうも考えていた以上に大きな失敗をしているようだ。
姉とともに直ちに姿勢を正したまま正座する。
「……ずいぶんと思い違いをされていらっしゃるようですが、何処に問題があるか、わかっていらっしゃられますかな?」
必死で考える。
何処にミスがあるのか、いや、思い違いというのだから、考え方に問題があるということ。
だとするとどういった点が?
執事はやれやれ、と首をふる。
「冒険者にありがちな勘違いではありますが、その中でこそ常に俯瞰的な立場で見れねば貴族として意味は無い、とずっと申してきました。わかっていただけていなかったとは、実に痛恨の思いであります」
「しかし、私達は!」
ノーラ姉が反論しようと声を上げる。
「そこで御座いますよ」
即座に手短な指摘が帰ってくる。
「なるほど、確かに生きて帰ってこれたのは重畳と申し上げましょう。それで、何故帰ってこれたのですかな?」
「無論、アキラさんのおかげもありますが、僕達もよく力を発揮できたから、ではないのですか?」
口に出してから、ふと違和感を覚える。
「まだ気がついて頂けないとは、返す返すも残念でなりません。どこで教育を間違えましたでしょうか」
呆れ返ったかのように首を振られる。
どこだ?生きて帰るために必要だった事の中で、何かを見落としている。
つまり、当然のこととして受け入れているところに何か問題がある。
アキラさんの能力が必要だったのは当然のことだが、問題にされているのは多分そこではない。
ぴん、ときた。
「……そうか。本来は僕らは生きて帰れてないのか」
「冒険者は自身の力で敵を倒してしまうゆえ、勘違いしやすいことですが」
「……どういうことだ、ミラン」
ノーラ姉はまだわかっていないようだ。
「計らずとも姉さんが追求していたことですよ」
「あの鎧がどうし……!!」
途中で察したのだろう。言葉が止まる。
「功罪を問う場合には私見を出来るだけ排除し、公平な判断を下す事こそ貴族の義務の初歩とずっと教えてきましたでしょうに」
深くうつむく。
本来はこの件でアキラさんに貸しを作るつもりだったが、借りを返すことになるのか。
しかも、この程度ではとても借りを返せてはいない。
「話を聞きますに、そのアキラ殿は1人なら何とかしてしまえるのでしょう?……失礼な申し方になりますが、あなた方という足手まといを抱えて、明らかに格上の迷宮から、よくもまあ全員生還という結果を出せた、と申し上げざるを得ません」
あの鎧を自分が装備して僕らをすべて見捨てるという選択肢も彼にはあった。
推測でしか無いが、彼1人ならば戦闘を回避して先に進む事はできただろう。ボスを倒さなくとも他の出口から出れた可能性は大いにある。
回避に難があるシオンさんが装備しただけであれほどに変わったのだ。元々回避が上手な彼が装備していれば、多少の敵では彼に傷付けることすら難しいだろう。
「リーダーとして素晴らしい判断、と申せましょう。弱点を補強し、強敵に備える。鎧を持っていたという幸運はありますが、はたして同じ状況で、同じアイテムを持っていたとして、同じ行動が取れるか、と考えますと難しいでしょう」
確かに、あんな高品質の鎧を誰かに貸す、というのは難しい。
永続爵も夢ではないアイテムだ。たとえその価値を正確に把握できていなかったとしても、金で買える様なアイテムでないことは理解していたはず。
姉さんたちは持っていたという事自体を知りたがっていたようだったが、あの時問題とする点はずれていたのかもしれない。
「さて、理解していただけたところで、少しばかり性根を鍛えなおさねばなりませんね」
ぎくり、とする。
この人これで昔はかなり腕の立つ冒険者だったらしいからなぁ。
その後、夜中までノーラ姉と一緒に絞られた。
アキラさんたちは途中で迎えが行ったようだが、僕らはそれどころではなかった。
本来ここで再度ミラン視点を書く予定はなかったのですが、電撃的にこの話を思いついてしまったので。少し敬語が怪しいかもしれません。




