今後の話
「で、問題が無いようならこれからの方針に移りたいんだが?」
質問が一段落したのを見計らって切り出す。
「待って欲しい」
これまで完全に無言を通してきたシオンが口を出す。
すっと立ち上がると、あぐらをかいて座っている俺の横にやってきて、刀を鞘ごと腰から外す。
そして俺の前に置き、片膝を付いてかしこまったような姿勢を取る。
「一体、どうした?」
思わずそちらを向いて座り直す。
「我が剣を受けてもらうことは出来るだろうか?」
驚いた、というべきだろうか。
剣を受けるというのは儀礼的な行為だ。戦士にとって己の武器を預けると言うのは命を預けるのと同義。
殆ど忠誠を誓う行為に近い。
要は今後も俺の横に立って敵を切り続けてもいいか、と聞いているわけだ。
「ちょっと」
「ずるい!」
ノーラとリーゼから同時に上がる抗議。
その横にルカもするするとやってきて
「ん」
と、盾を置く。
「ルカ。ちゃんと口に出さないと」
「わが盾ですべてを受けん?」
そこ、なんで最後疑問形なんだ。
シオンはしょうがないなぁ、という表情になる。
「なんだか締まらないな。……まあ、私達の決意表明でしか無いんだけど」
「別にこんなことしなくても……」
「お前一人なら何処ででも生きていけるだろうし、私達がいることはむしろ足手まといなのかもしれない。……それでも私達を連れて行って欲しい。」
俺の言葉を遮ってシオンが言葉を挟む。
「ついてく」
この2人はたとえダメだと言ってもついてきそうな雰囲気だな。
「どうしてここまで?」
理由を聞く。
「おいおい、あんなものそう簡単に人には貸せないぞ。私だったら、と考えると……多分無理だ。だからこそ、受けた信頼には信頼で返す、ただそれだけだ」
シオンが呆れたかのように返す。
ルカに視線を転じると、「なんでそんな当たり前のこと聞くの?」という感じの瞳が帰ってくる。
ルカは前々から思うのだが、理屈とは別の判断で動いている気がする。
直感的なものなのだろうか?
まあ、最初はこの3人だったわけだからな。
刀と盾を一旦取って、反対にして返す。
「……これからもよろしく頼むよ」
途端に、ホッとしたような顔になるシオン。
ルカは特に喜んでいる風でもない。彼女にとってはコレは当たり前の結果になっただけなのだろう。
ノーラとリーゼは悔しそうにしているが、特に切り出すことはないようだ。
ルカとシオンは一代爵だからな。最悪品質が高いアイテムさえ用意できればお家断絶ということはないだろうし、そういう意味では自身で行末を決めれる立場なのだろう。
逆にリーゼとノーラはそうではない、と。
「……さて、話を続けてもいいだろうか」
ここまで予想外の話ばかりだったので、ようやく本題に入れる。
「これから、のことですよね。……色々と考えましたが、祖父の力を借りるのが最も良いと思いますよ」
ミランが切り出す。
ちらり、とみる。
なんとなくわかってきたが、いつもニコニコしているミランだが、いつも以上にニコニコしている場合は大抵裏がある。
ま、祖父経由でも俺に借りを作らせておきたい、といったところか。
あんまりお前の思惑通り流れるのは好きじゃないんだが、それ以外に手が思いつかないのも事実だしな。
「そのつもりだ。ノーラには迷惑をかけるが、祖父君に話がしたい。……先日渡した資料が何なのかは見ていないが、土産くらいにはなるだろう?」
一瞬で表情が変わるノーラ。
「……そうね、ウルムがどの程度の敵か次第では支払いが足りるかも。私としては有能な敵であってほしいところね。何だか変な感じだけど」
最後には苦笑も交じる。
「そういえば肝心なことを聞いてないな。ノーラ、君の祖父にこの問題を解決できる力はあるんだろうな?」
元々力のある貴族だというのは推測していたし、あのタイミングで選択肢として出すという事は解決力がある前提で聞いていたが、それがないようであれば作戦を練り直す必要がある。
何を当然のことを言っているんだ、という顔を一瞬するノーラ。そして、次の瞬間しまった、という表情に切り替わる。
「……まいったな、これじゃあお前の事を責めれないな」
「そういえばそうよね。なんとなく推測はしてるでしょうけど、改めて話したことはないものね」
リーゼも得心したかのように頷いている。
「済まない。冒険者になるからには家の力は借りない、そう決めていたから、な。別に隠していたつもりはない……こういう時に家の力が役立つというのが皮肉だが。改めて名乗ろう。ノーラシュナット・ラウル・レン・レスティア。今後もノーラと呼んで欲しい」
「レスティア家の継承権12位の前には霞むけど、リーゼリッテ・フォン・アーゼルハイトよ。私もリーゼでいいわ」
「リーゼ!!……継承権は卒業時には放棄する予定だ」
ミランを見る。
「あ、僕は継承権はもともと無いですよ?エルフですしね」
「……なんだか、いろいろ考えたのがバカバカしくなるな」
レスティアって、4大爵筆頭じゃないか。
予想していた以上に強力な後見者だ。
アーゼルハイトもアキラでも知ってるほど有名な港街だ。
なら、迷惑をかける云々で遠慮することもないか。
「じゃあ、早速明日行くから。……案内を頼めるか?」
ノーラはミランと視線をかわし、ミランがハッキリと頷く。
ため息をひとつついてノーラは
「……わかった」
と答えた。
根本的なポカミスをやらかしてしまったので、以前の「王都にて」に一部修正が入っています。




