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王都にて

部屋で朝食を食べ終わると、皆に外套を着せ、少しだけメイクを施す。

変装というほどではないが、ぱっと見の印象を替え、そこそこの腕前の冒険者っぽく見せる。


「なんだか奇妙な感触ですね」


ミランがくすぐったそうに言う。

まあ、女性ならともかく男性だとあまりメイク慣れしていないのかもな。


準備が終わったので早々と宿を引き上げる。

見送りに来てくれた少年にはこれからも頑張って這い上がって欲しいところだ。


そのまま転移門に向かう。朝早いこともあり余り待たずに転移門に通される。

通行書がなくなっていることにはまだ気が付かれていないのか、チェックも実に簡素なものだ。

転移門を通過し、王都に到着した時、皆揃って安堵の溜息を漏らす。


王都の転移の間はかなりの数がある為、場所場所で区画分けされており、一旦チェックのために部屋の外に出される。

と、言ってもご禁制のものを持っていたりとかしないかというチェックで、一通り身体チェックをされるだけだ。


今は誰もいない待合室のような所で

「さて、これからどうする?」

と問いかける。


まずは安全第一で王都には来たものの、敵がいるであろう学園になんの準備もなしに戻るのは少し抵抗がある。

何とかして学園に知らせ、排除してもらわないと。


「学園に戻るだけなら、すぐに戻れるわよ。ま、そういうわけにも行かないんでしょうけど」

リーゼがひらひらと通行書をかざしながら言う。


学園行きの転移門の通行書か。

変装して一人だけ戻るという手もあるな。

敵の洗い出しには時間がかかるだろう点が難点か。


ノーラが困ったような顔で別の通行書を取り出す。

「……あまり祖父を頼りたくはないのだが、この状況は私の手には余る」


ノーラの祖父を頼る手もあるか。

ノーラの祖父がどの程度力のある貴族かは知らないが、派閥の中で更に上の貴族を紹介してもらう事もできるだろうし。

あの書類がなんだったのかは見ていないが、一応手土産としての能力はあるだろう。

この場合、支払いとして十分なのかが問題になるだろうが。


そこまで話したところで別の利用者がやってきたので話しは止まる。


「ここではなんですし、場所を変えますか」

ミランの提案で移動することに。


外に出るが、予想以上だった。

白亜の都と通称される王都リュースティア。

中心に王城があり、八方はすべて区画わけされている。

レンガの建物だが、白い色の建物がズラリと立ち並ぶ。


ここが大通りということもあるのだろうが、汚れも殆ど目立たない。

塗り替えたりするような余裕が有るということだろう。


ミランに聞いた所、ここは転移門があり、多くの冒険者や商人が訪れるため、扉地区と呼ばれる場所らしい。

そのせいか人が多く行き交っているが、明らかに冒険者風の人物や商人が混じっている。


「……正直王都には来たことがなくて土地勘がないんだよ」

何が何処にあるのか分からないので、なんというか落ち着かない。


「王都の図書館に何度か来たことがあるので多少ですが。でも丁度良い様な場所までは……」

どうもミランが一番詳しい様だ。


「昨日あまり寝れてないし、少し仮眠を取りたいところかな」

食事というには早過ぎるし、今後のことを検討するためにも時間がほしい。


王都というだけあって宿屋もピンキリという感じなのだろうが、割とすぐ近くの安めに泊まれるような宿屋に案内される。


「何度か利用した事がありますが、特段問題は感じませんでした。王都にしては安めですよ」

安いとはいえ、個室を頼むと金貨3枚ほどの金額が取られる。

ま、王都にしては安いということなんだろうな。学園都市なら1枚で取れるだろうが。


「悪いが少し休みたい。……安全地帯には戻ってきていると思うが、あまり油断しないように」

少しだけ釘を差して部屋に入り一端休みを取る。

実際はそこまで疲れてはいないのだが、判断能力が低下している印象がある。

重要な選択肢だという予感がするだけに一旦一人で考えたい。


まずは一人で潜入するという選択について、だ。

悪くはないが、確実に時間がかかるだろう。

最も疑わしいのは書類を持ってきた事務員だが、説明によどみがなかったし、違和感も無かった。

あれが工作員だというのは出来過ぎだ。

彼は本当のことを言っていただけ、ただ知らされていた場所が違った、と考えるのが筋だろう。


彼の後ろにいるはずの何者かを見つけ出して排除できたとしても、それで終わりとは限らない。

調査するためのノウハウを何か持っているわけでもないし、すべてを見つけ出すのにどれだけの時間がかかるか想像もできない。排除している間に敵側に増援が来る可能性だってある。


「……やはり一人で潜入するのは難しいか」


時間だけかかる割に得れる結果に確実性が低すぎる。

学園長に支援を求める手はあるだろうが、学園長がどこまで俺たちに力を貸してくれるかはわからないし。


次にノーラの祖父に保護してもらうという選択肢だが、ノーラの祖父の力次第だが、貴族ならば人手もあればノウハウもあるだろうし、解決はしてくれるだろう。

良くも悪くも権力の庇護を得られるだろう。……むろん、だからこそ余計に狙われるという可能性もつきまとうのだが。


問題は対価として何を要求されるかがわからない所、か。

先日のアレでは手土産にはなっても対価として支払うには少し弱い気がする。


しかし、他に何か良い手が浮かぶわけでもない。


「あまり面倒なシガラミに縛られたくはないのだが」

冒険者という仕事に憧れたのは、その活動が自由であるからだ。

その生き様までもが自由であるかのように感じられたのだが。


……誰もが自分一人だけでは生きてはいけない。

戦士に魔法を使うことが要求できないのと同様に、自分の力だけで何もかも切り開くというわけにも行かないか。


まあ、しょうがないのかな。


ふっと気が緩んだのだろう。

そのまま、夢の世界へと引き込まれていた。

ノーラやリーゼが王都では土地勘がないのは、直接王城のある中央区画に向かい、基本的にそこから出ることが無いためです。ミランが土地勘が有るのはノーラにひっついて来た時に、図書館通いをしていたからです。

シオンやルカはそもそも来たことがありません。

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