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閑話 ミラン視点

また、だ。

また眠ってしまった。


他の種族の人ならば寝るつもりはなかったけど寝てしまう、ということは有るだろう。

でも、僕らエルフは違う。


僕らエルフは他の種族と違って睡眠間隔がとても長い。

僕はまだエルフとしては青年としては認めてもらえる年代ではないが、それでも一週間程度なら寝なくても問題はない。

昨日は睡眠間隔からして、まだ寝なくても問題はない時期だった。


にも関わらず、昨日は話し合っている最中に眠ってしまった。


エルフではこの予期せぬ睡眠は福音として知られている。その福音の名は「昇級の訪れ」。

ちゃんとした施設で確認する必要はあるけど、確実に物理魔法使いとして1つ上の級になっている。


まだ一期生なのに上級かぁ。3期生で特に優秀なパーティでもない限り学生のうちに上級というのは難しいし、少しだけ感慨深い。

……前回の福音はあの変な鎧を着ている敵を倒した時だったっけ。


最も上がりにくいことで知られる魔法使いが上級になったということは、他の人も全て昇級しているはず。

なら、全員が眠ってしまったのも仕方がないかもな。


昇級は寝ている間にしか行われない。

戦闘中や迷宮の中で睡魔が来ることはないが、宿屋などに入って十分に気を緩めると、まるで魔法でも掛けられたかのように急激に睡眠に引きこまれる。


僕ら寝なくても済むエルフが寝てしまうのだから、他の種族の人だと意識することすら出来ないだろう。


昨日のことを思い出していると連鎖的に姉さんたちのやりとりを少し思い出してしまう。

……僕から言わせるとノーラ姉もリーゼ姉も焦り過ぎなのだ。

もう少し時間を掛けてゆっくりと仲良くなるなり、彼にとって必要とされる存在になるべきところなのに、そういう段階を飛ばしている感が強い。


もちろん、姉さんたちが焦る事情もわかる。

ノーラ姉はまだ相手が決まっている話は聞かないが、リーゼ姉は有名な狒々ジジイのところに嫁としてもらわれていく予定があると聞いている。

貴族に生まれた女性なら、そういった未来を変えるなら方法は正攻法だと2つしか無い。


自身が冒険者として有名になるか、腕の立つ冒険者を見つけるかの2択だ。

冒険者として有名になる、ということは国家としての戦力としてみなされるようになる、ということとほぼ同義だ。

そうなればある程度わがままが通る。……せめて結婚相手を自分で選べる程度には。


腕の立つ冒険者を見つけた場合、その相手を国家に縛る名目でその人物と結婚する、という方法がある。

この場合、結局相手を選ぶ自由が無いように見えるが、選択肢があるというだけでも格段な進化なのだ。

顔も見た事もない相手に嫁ぐなど珍しくもなんともないのだから。


何より、腕前の立つ冒険者は誰しもが欲しがる。

その冒険者が直接的にもたらしてくれるで有ろう迷宮からの貴重なアイテムや素材だけを考えても利点は多い。

冒険者として第一線を離れたとしても、教育・指南役や護衛として考えるなら十分な戦力になる。


冒険者を取り込むために色々と考えだされたものの、現在では直接親戚になる方針が主流だ。

有名になってからでは遅いことが多々有るため、自身の子供を冒険者にして、早い段階から知り合わせようと、冒険者になることを推奨している貴族は多い。

高位継承権を持っている子供はともかく、さほど高位でもないなら迷宮に入って強くなることを望まれる。


貴族だと最初から武器や防具で差別化ができるので、そこまで神経質にならなくても挑戦する迷宮さえ間違わなければ早々死ぬことはない。

冒険者に向かないようであれば見切りをつけて帰ってこさせる。

階級が下級から中級に一つでも上がっていればそれだけでも価値が上がる。子の能力が高くなりやすい、という理由で。


姉さんたちも、運が良ければ自分が有名に、それがダメでも有名な冒険者を探そうとしていたはず。

最終的にどうにもならなかったとしても、せめて自身の階級を上げることで少しでも条件の良い相手になるように努力しただろうけど。


そんな状態で入った学園にいた鬼才だもんなぁ。

それはもう、是非にでも捕まえておきたいというのは分かる。


でも、あの人には少なくとも「まだ」姉さんたちとどうこうという意識はない。

ただ仲間として付き合ってるだけだ。

現時点では同じパーティとして仲良くなるのが最善だと思うんだけど。


余り追求し過ぎると離れていく可能性もある。

……いや、それはないかな。


自分で思っておいてなんだけど、あの人はいい人すぎる。

同じように孤児の環境にあった人も何人か知己にいるけど、比べるとハッキリと必死さが違う。


迷宮探索に関しては妥協はないけど、それ以外のことに興味が薄い。

明日の食事すらままならない状態だってあっただろうに、身にまとう雰囲気は穏やかなものだ。


決定的な溝ができないように上手く姉さんたちを誘導しつつ、あの人をうまくフォローする必要はあるだろうが、余程のことがない限りパーティ分裂の危機ということはないだろう。


……あの人の人の良さに甘えてるところはあるけど、僕だって知りたいし。


不思議な人だよ。アキラさんは。

寝なくても済む、というのと活動できるというのはイコールではなく、エルフは夜は魔素の循環(瞑想的なもの)を行っているため、ぱっと見だと寝ているようにも見えます。

高位の冒険者の子は他の子よりやや打たれ強かったり、病気にかかりにくかったりしますが、下級と中級の子供ではほとんど大差はありません。(あくまで俗説として信じられている、という程度です)

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