異世界着
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白い光の奔流は前回同様、唐突に終わった。
正面の窓からは赤いレンガで造られた高い城壁が見え、アーチ状の城門が人々を飲み込んでいる。
今どこで何をしていたのか、ということが情報としてスッと入ってくる。『学園都市ルーミル』にちょうど付き、入学手続きを終え、与えられた個室からまだまだ続いている行列を眺めていたところだ。
例年、入学時期が近くなると入学志望者が集まってくる。
俺のように推薦状をもらっていれば入学試験は免除されるが、多くは入学試験を受けて入学することになる。孤児である俺は一人で乗合馬車を乗り継いで着ているが、普通は本人だけでなく両親も付添ってくる場合が多い。
人が集まれば当然、それを目当てに商売をしようと商人達も集まってくる。
学園都市ルーミルは特別に入都審査が厳しいわけではないが、この時期は常に混んでいる、と門番が愚痴っていた。
俺は個室をもらえたが、大抵は4人部屋になる。学園都市ルーミルは実力主義であり、「常に安定した実力の冒険者」を輩出することで名高い。その仕組みは単純明快で、「実力のあるものには特典を与える。つまり特典がほしければ実力でつかみとれ。」と言う方針だ。
俺もあまりうかうかはしていられない。あと半年は個室を利用できるが、半年後に行われる実力試験にて結果が出せないと4人部屋になるだろう。そして、さらにその半年後の実力試験の結果が悪ければ退学だ。
これから1ヶ月は座学や実技として「自分がつきたい職業」の「基礎」を学ぶことになる。
そして「転職の儀」を経て職業につき、それからはもう実地学習だ。
入学のときに渡された手引書にもその旨がしっかり書かれている。
実地学習と言っても、「学園」が作り出した「擬似迷宮」での実地となるが、こんなに早くから実地学習を行う学園都市は他では聞かない。
このあたりが高い質を維持している理由なのだろう。
改めて個室を見る。古いつくりだが、頑丈な作りの木製ベットに机、こじんまりしたクローゼット。風呂やトイレは共同だ。
部屋の広さを日本風に表現するなら、六畳位だろうか?一人で暮らすなら充分に広いうちに入るだろう。とはいえ、それ以外のものは本当に何もない。細かな生活必需品を購入してくる必用はあるだろう。
入学手続きの際に貰った分厚いパンフレットを読んで日常規則や他の特典、授業内容などなど確認する必要はあるだろうが、まだ昼を過ぎた位で十分に時間的な余裕はある。今のうちにギフトとして指定したアイテムを確認しておこう。
まず、『初期所持品』として指定した魔法の袋を確認する。魔法の袋の中に『初期所持武装』として選択した武器や防具や、所持金が入っているようだ。
魔法の物品は他人から盗まれたりすることを避けるために『固定』化が可能で、魔法の袋が俺の所持品として『固定』されていることを確認する。これで魔法の袋が取られることは無いので、今後貴重品はこの中に入れて持ち運ぶことにしよう、と固く誓う。
次に『初期所持武装(逸品)』として指定していた武器と防具を出すが、知識としてみた事がある武具ではない。あえて言うならば武器は「短剣」系、鎧は「革鎧」系と言うことぐらいか?
この世界の武器はその希少度合いにより『品質』分けされており、『粗悪』『一般』『熟練』『希少』『名品』『逸品』『固有』『伝説』と区分わけされている。市場に一般的に出回るのは『熟練』まで、それ相応のルートを使って『希少』あたりまでならなんとか入手できるレベルだ。もちろん、値段は張るが。
『名品』以降からはぐっと流通が少なくなる。物はあっても国が管理しているため物理的に手に入れることが出来なかったり、個人で所有している人物が居たとしても手放す人が居ないためだ。『逸品』級のアイテムともなると優秀な冒険者が一生かけて1、2個手に入れる事が出来ればいいほうだし。
武具の性能に期待しつつ、早速『鑑定』を使ってみる。
武器名:『疾風の短刀』 分類:短刀 品質:逸品 効果:『退魔』 スキル:『武器熟練/短刀(上級)』『追加攻撃』
防具名:『傷知らずの皮鎧』 分類:皮鎧 品質:逸品 効果:『状態異常耐性(中級)』 スキル:『回避上昇(上級)』『攻撃予測』
これは・・・強すぎるな。さすがに『逸品』級だ、と言うしかない。
ちなみに効果は武器単体での効果であり、『退魔』は通常武器無効の敵にも傷をつける事が出来る、という「武器の能力」だ。スキルは武器を持つことで利用できるようになるスキルをさす。職業スキルと比べると熟練度があがりにくいものの、熟練度を高めれば個人スキルとして利用できるようになる。
物理的に攻撃回数が増える『追加攻撃』はかなり強力なスキルと言えるのだが・・・。
冒険者として名を立てていくにはとてもありがたいアイテムだが、学園生活で使うのは強すぎてむしろ弊害になりかねない。これは当面封印するしかなさそうだな・・・。
学園がいくら実力主義を標榜したところで、学生には貴族も混じってくるわけで、あまり敵視されるような目立つ事はしたくない。
いくらこの世界での記憶(ついでに地球での記憶)があると言っても、それで妬み嫉みを回避するのは困難だ。なんといっても権力はたやすく人を殺す。
実力で跳ね返せるようになればともかく、こちらに来たばかりでまだこの世界に慣れていない俺としては、リスクを極力避けたほうがいい。
そういう意味では、個室と言うのも危険かも知れないが、「アキラ」は孤児と言うこともあり冒険者になるためにはこれしか方法が無かっただろう。
「アキラ」は、半年間『魔法』を学習して、個室から共通部屋に移るまでの間にせめて『下級魔法』を習得するつもりだったらしい。ある意味では手堅い選択だったのだろうな、と思う。武具を『固定』化して、魔法の袋の中に入れなおす。
そういえば、初期所持金が増えてるはずだった。
もともと「アキラ」が持っていた所持品として所持金袋があったので、そこを覗くと、金貨が32枚、銅貨が53枚、白貨が5枚だ。
物価が違うから一概には変換しにくいが、日本円で例えるなら金貨:1万円、銅貨:100円、白貨1円と言うところだろう。どの貨幣も100枚で上の貨幣に交換できる。銀貨は存在しない。銀は武器にすれば通常武器無効の敵に効果があり、防具にすれば魔法耐性が付くということで硬貨としては出まわってないのだ。
魔法の袋から貨幣を取り出す。金貨が100枚、白金貨が10枚入っていた。白金貨1枚は金貨100枚になる計算だから、日本円で言うと・・・一千万というところか。・・・家ぐらいは買えそうだな。生活費が無理だが。このボーナス分にはあまり手をつけずにつつましく生活しますか。当面は「アキラ」の生い立ちどおり、「お金が無いので頑張って勉強して推薦状を手に入れた」という方向で生活していくのが良いだろう。
そう考え、取り出した貴重品を全て魔法の袋に入れ、魔法の袋を懐の隠しにいれ、生活必需品や当面の授業で必要になりそうな武具やアイテムを購入しに町に出た。
ずっと説明のターンと言う感じになってしまいました。
鎧が品質以上に強すぎるので、『状態異常無効』から『状態異常耐性(中級)』へ訂正いたしました。