街中にて
夕闇が迫る。
予想よりやや時間はかかったものの、街の入り口が見えてきた。
街の入口には急遽建てられたような柱が有るだけで、そのまま大通りにつながっている。
見張りらしき兵士は立っているが、行き来する住民をチェックしたりはしていない。
遠くに城壁はあるものの、その城壁の周りに家が乱立し、城壁としては意味が無い状態になっている。
大通りだけ何とか確保した感じで、どこにどうつながっているかもよくわからない小道が直ぐそこに乱立しているため、おそらくチェックをしたところで無駄なのだろう。
「本来は小さな城塞都市、迷宮の発見により急に栄え始めた、というところですか」
ミランがつぶやく。
「特段珍しくもないわね。あれ以外にも迷宮があれば余計に」
ノーラが他の冒険者らしきパーティを見ながら言う。
そのパーティーは魔物の肉を複数個吊るしている。
戦果と、帰ってきた方向から見て明らかにうちのパーティとは別の迷宮に潜っている。
「この街がどこか分かるか?」
全員に問いかける。
「……こういう街は多すぎるわ。特定は難しいわね。」
ノーラが即答する。
別のパーティがこちらをかなり珍しそうに見ている。
装備といい、年代といい明らかに学園都市の学生っぽいというのは見て分かるだろう。
学園都市の学生は迷宮内にいることはあっても、学園都市以外の都市にいることはかなり珍しいからな。
声をかけられたりしない内にそそくさと街中へ進む。
大通りにある宿屋を兼ねている酒場兼食事所といった風なところに入る。
皆疲れているし、食事と睡眠がまずは一番だ。
この店を選んだのはただの経験則だ。
大通りにあって、盛況している食事処に食事が不味いところはない。……少なくともこの世界では。
ざわざわとした喧騒の中だが、皆それぞれの食事や酒に忙しいようで、こちらにいきなり絡んでくるような輩はいなかった。
なるべく隅の席を確保し、お任せで食事を注文する。
食事を持ってきてくれた明らかに雇われと言う感じの男の子を呼び止める。
「少し変なことを聞くけど、忘れてくれると嬉しい。……この町の名前は?」
すっと手のひらに金貨を握り込ませながら聞く。
軽く手を開けてそこに金貨が有ることを見た男の子は何気ない風を装ってズボンのポッケに隠し、
「ウルム。シューベルト地方」
手短に答えてくれる。俺の知識にはなかったが、ミランとリーゼが得心したかのように頷く。
場所は判明した、と。
「このへんで転移門を使おうと思ったらどこに行けばいい?」
「迷宮以外なら領主さんの館かな。通行書がないとダメだよ。」
「ここの領主さんは?」
「一代爵だよ。モーリッツ・ド・ウルム」
ノーラが苦い表情に変わる。敵側の可能性が高いってことかな。
とりあえず最優先で聞きたいことは聞いた。
「部屋は取れるかな?最悪大部屋1つでも構わないけど」
「……角部屋を用意する」
さすがに賢いね。事情までは察していないんだろうけど、面倒事を持っている事だけは察している。
そういう場合、どうすれば喜ばれるのかを経験則として把握している。
アキラとして同じような境遇だったからよく分かるよ。
十分に働いてくれた彼にもう一枚金貨を握らせ、
「多分足りないから追加で料理を更に持ってきてくれると嬉しい」
と、頼む。了解とばかりに頷いた彼はさっといなくなった。
まずは飲み物が行き渡っていることを確認し、
「色々あるだろうが、まずは生還を祝して」
「「「乾杯」」」
一息で飲むと、熱々の食事に手を伸ばす。
肉メインという感じだが、おそらくはさっき見た魔物肉なんだろう。
素材が何でもあまり気にはならない。味だけが全てだ。
さっき色々聞き出した男の子が要所要所で注文を取りに来てくれてずいぶん助かった。
ただでさえ大食らいのルカは居るし、皆が皆空腹だったからかなり食べたと思う。
周りはお酒が入ってきてかなり騒がしい中、早々と部屋に案内してもらい引きこもる。
絨毯床が敷かれた12畳程度の部屋。
毛布と枕が用意されていて、荷物を置けば6人が寝るスペースしか無いだろうが、初めての街だし、この手の急速に発展した街はえてして治安が良くない。
個室で休めるような宿屋があればともかく、そうでない以上は全員で集まっていたほうが安全だろう。
入り口のドア近くに座る。
万一近づいてくる人がいればここで分かるだろう。
「念のため交代で寝ずの番をした方がいいかもしれないな。この手の街は余り治安が良くないし」
ドアに開いたら音がなるような仕掛けを取り付けつつ言う。
「迷宮内よりはマシだろうが、外に出たら今度は人が怖い、とはな」
シオンが自嘲気味に言う。
「やはりこの格好はどうしても目立ちますね。武具の汚れも傷も目立ってない。いかにも学生か、最大限好意的に見て卒業したばかりという感じです。」
ミランがあちこちを引っ張りながら言う。
「ここはまだ敵地、という認識でいいのかしら?」
リーゼが尋ねる
「迷宮内よりはよほど安全ね。我々が生き延びていて、既に脱出しているとは敵は現時点ではまだ予想すらしてないでしょうし。でも、余計なトラブルで目立つのは避けたい、そんなところでしょ?」
ノーラが俺の意見を簡単にまとめて説明してくれる。
「生きていることを知られれば殺しに来かねない。変なトラブルで兵士にしょっぴかれたりするのも現時点では不味い、かな。」
この街の領主が敵側であればなおのこと。
「で、ノーラ。敵は誰なんだ?」
簡易型だけど設置は終わったので聞き出す。
「確証はないけど、最も疑わしい人物は分かっている。皆もそうでしょ?……ファーランティアよ。」
「小説家になろう大賞2014」に応募してみました。
タグが増えていますが、応募にあたり必要でしたので追加しております。




