知らない場所
暑い体に地面の冷たさが心地良い。
……いつの間にか倒れ伏してしまっていたようだ。
あたりを見渡すが、全員似たような状況だった。
今のこのパーティを全滅させるのにはボギーキャットどころかインプが一匹いれば十分かもしれないな、と苦笑を漏らす。
ある意味で「まつろわぬもの」より苦戦した。
うちのパーティは上手く戦力を集中して撃破することにある程度特化しているのだが、今回のように戦力を集中できない相手は最も苦手とするジャンルだ。
正直、クイーンより弱点も多く、最初から一体しか出てこない「まつろわぬもの」のほうがよほど戦いやすい相手だったといえるだろう。
あいつはあいつで戦力をなかなか集中させてくれない嫌らしい相手ではあったが。
今後は少なくともボスはまず鑑定を通すべきだな。そう、心に決める。
とはいえ、こんなに苦戦する相手と当分やりあいたくはないが。
10分ほど休み、ようやく立ち上がれるようになる。
まだ皆は無理そうか。
ボス部屋を見渡す。
ボスのいたところに魔石が幾つかと、爪のような武器が落ちているのはとりあえず見なかったことにする。
その他にはこの先に進むための扉と、おそらく迷宮出口に繋がるのであろう滑り落ちていくことしか出来そうにない縦穴。
縦穴を調べたが、風がこちらに吹き込んできているし、罠もなさそうだ。
とりあえず出口に繋がると確信を得てホッとする。
さほど大きくはない部屋だし、他には何もなさそうだ。
少しだけ覚悟を決めてボスの残したドロップアイテムを調べる。
握りこぶし大程度の魔石が1つと、その5分の1程度の魔石が6つ。
それと金色の宝石が1つ、鉤爪のような武器が1つ、ボギーキャットを倒すとまれにドロップする素材アイテムである猫の髭と尻尾。
とりあえずは宝石を鑑定する。
物品名:『キャッツアイ』 分類:装飾品 品質:希少 スキル:『暗視』
ボスからとはいえ、このクラスが出てくる段階でこの迷宮の難易度が分かるな。
鉤爪も鑑定する。
武器名:『戦士殺しの鉤爪』 分類:鉤爪 品質:希少 スキル:『鎧通し』
少しだけゾッとする。
これ、俺がたまたま正面に立つ形になっていたからよかったが、もしルカが担当していたらかなり危険だった可能性があるな。
魔物を倒して手に入れれるアイテムは、大抵の場合その魔物が使えるスキルや能力がつくというし。
とはいえ、うちのパーティで使える人はいないか。
せめてスキルを覚えるまでの間は使いたい感もあるが、希少アイテムを学園で使うわけにも行かないか。
そこでふと、学園での俺達の扱いがどうなっているのかが気になった。
そういう心配ができることに気がついて苦笑してしまう。……こういう心配をできるほど余裕はなかったからなぁ。
ようやく皆が立ち上がってくる。
「大丈夫か?」
最もきつそうなシオンに声を掛ける。
未だ荒い息のシオンだが、
「まあ、なんとか、な。……回避できるようになったのはいいが、ずっと回避だけというのは流石に堪える……。」
攻撃にこそ真価を発揮するシオンにとって、ずっと回避だけというのは精神的にも苦痛だっただろう。
出口から出ようとした時に一つだけ問題が出た。
ルカが鎧を着ているままでは通れそうにも無いということだ。
とはいえ、出口に魔物はいないはずだし、一旦完全鎧を脱いでもらい、鎧は魔法の袋に入れることで解決する。
……何度見ても魔法の袋に明らかにそれより大きい物が入っていくのを見るとなんだか違和感があるが。
まず俺、ルカ、リーゼ、ミラン、シオン、ノーラの順で脱出することを手早く決め、ひらりと滑り台のようにも思える縦穴に入る。
かなりツルツルしているし、とりあえず危険はないだろう。
しばらく久しぶりに感じる滑り落ちる感触を楽しむ。途中で他の出口とも合流しているようで、いくつかと合流する。
ふっと景色が広がる。
山の中腹あたりだろうか?周りにはゴツゴツとした岩が目立つ。
おそらくこの出口から出てくる人を保護するためであろう干し草が置いてあるが、それに突っ込むことなく上手く外に出る。
既に日はずいぶんと傾いている中だが、素早く周りを見渡す。
300メートルほどだろうか?さほど遠くないところに山小屋があり、その近くに迷宮入り口と思われる洞窟がある。
おそらくは山小屋にこの迷宮の管理をしてる人が住んでいるのだろう。
山小屋の窓からは明かりが漏れている。
一瞬、迷う。偵察に行くべきか。
しかし、先ほどボスで判断ミスをしたばかりだし、万が一ではあるものの発見された場合のリスクも高い。魔物と違って倒してそれで終わりというわけにも行かないし。
とりあえずこの山小屋には寄らないほうがいいか。
敵だという確証はないが、味方になってくれるという保証もないし。
必要であれば後で一人で来ればいい。
と、そこでルカが滑り落ちてきたため、さっと手をとってうまく外に出す。
少し時間を置いて一人ずつ出てくるので、滑り落ちてきた勢いを利用して上手く外へ出す。
たたらを踏んで転びそうになったりしているが、干し草に突っ込むよりはいいんじゃないだろうか?
干し草は長期間放置されているようで、余り綺麗な状態ではないし。
全員が揃ったところで、とりあえずここから離脱することにする。
さっきチラリと山の麓に大きな街の光が見えていた。
距離は大雑把にしか測れないが、大目に見て1、2時間程度もあればつくだろう。
まずは街にたどり着いて、ここがどこなのかの情報を得なければな。




