クイーン
甘かった。
油断していた?それとも慢心?……結局のところ、出口の確保を焦りすぎていたということになるだろうか。
ボス部屋に入って、ボスを見た。
ボギーキャットより更に一回り大きく、全身が黒い。尻尾まで含めれば2,3メートルはあるだろう。
その左右にさらにボギーキャットが1体ずつ付いている。
その時にコレならなんとかなるか、と簡単に判断してしまった。
……今から考えるとそれが失敗だったのだが。
ボスの正面に立つ形になった俺が攻撃を引き受けることになったが、ボギーキャットより一段階は確実に早い攻撃に回避し続けるのがやっとだった。
とは言え、シオンが担当していたボギーキャットを倒した後で側面から攻撃してくれればダメージは与えられるだろう、と考えて回避に専念していた。
予想通りシオンが担当のボギーキャットを倒す。
問題なのはそれからだった。
シオンがボスの側面に進もうとした所、どこからともなくもう一体ボギーキャットが出てきてシオンの前に立ちはだかる。
そのボギーキャットを再度切り捨ててもやはり変わりはない。新しくボギーキャットが出てくる。
さすがに疑問に感じたのだろう。
シオンが一歩下がり、俺の横に来る。
疑問に思っていた俺もこの段階で初めて鑑定を通す。
魔物名:『ボギーキャットクイーン』 魔素:過密(上級) 弱点(下級):火、水 スキル:『連続攻撃』『致死攻撃(下級)』『武器熟練/爪(下級)』『回避熟練(下級)』『直掩2』
しまった、と思ったのはこのタイミングだった。
本来なら、ボスと戦う前にこの能力を見ておくべきだった。
とはいえ、戦わないとこのスキルはハッキリと分からなかっただろうが。
おそらくは、スキル直掩2というのが、2体まで常に護衛のボギーキャットを用意するということではないのだろうか。
そうであるとするならば相当に辛い。
俺とミランだけでクイーンを何とかしないと行けないということだ。
「シオン、倒しても意味がなさそうだ!部位欠損はいけるか!?」
倒しても補充されるのであれば戦闘力を奪って放置すれば良い。
補充されるタイミングは読めないが、今のところ倒してしまわないと補充されていないようではあるし。
「試してみる!」
刀だからできる技とでも言うべきか、シオンはスキルとして「部位欠損」が使える。
必ず成功するわけではないし、倒してしまったほうが早いので余り使うこともないが、ここは使い所だろう。
しかし、結論から言うと、この方法も上手くは行かなかった。
両手を切ったところで消滅、再度新しいボギーキャットが補充されたし、苦労しつつシオンが何とか足を損傷させた所、こちらはすぐに消滅し、新しくボギーキャットが出てきた。
「……シオン、もういい!せめて片手だけ欠損させてしばらく倒さずにいてくれ!ルカも倒さなくていいからそのまま維持。」
シオンとルカに指示を出す。
「ミラン、厳しいと思うがコイツには火が効くらしい。火で重点的に狙ってくれないか?」
「タイミングを指示してもらえますか!?そうしないと命中は厳しいです。」
「……難しいが、なんとかしてみる!発動待ちにして止めておいてくれ。」
回避だけならんとかタイミングを計れるようになってきたし、魔法のタイミングを合わせれるかは難しいところだが少しずつでも削っていかないとこっちが持たない。
こちらからの積極的な攻撃を挟むのは相手のほうが早いため難しいが、攻撃に合わせて少しずつダメージを与えていくことはできるだろう。
ぎゅっと疾風の短刀を握りしめる。
早速襲ってきた右腕による攻撃を上手く回避しつつ斬りつける。
連続攻撃として襲ってくる左腕をギリギリで回避する。
それを何度か繰り返し、クイーンが右ではなく左から攻撃するように少しずつ時間を掛けて誘導する。
左から攻撃してきた時は回避のみに留め、右から攻撃してきた時だけ右腕に傷をつける。
しっかりと深く攻撃はできていないため、さほどダメージとしては与えてはいないだろうが、クイーンが右からの攻撃を敬遠し始めた。
それが狙いだが。
「ミラン!」
左からの攻撃を回避し終えるとともにミランに指示を出す。
炎に包まれるクイーン。
予想以上に上手く嵌ってくれた。
初めて与えれた大ダメージと言ってもいいだろう。
クイーンは甲高い声で一言啼いたものの、まだまだ十分なダメージとはいたらない様だ。
このままだとずいぶん時間かかるな。
火魔法は雷魔法と比べミランは未だ熟練とは言いがたいし、雷のほうがダメージが通るかもしれないが……。
いずれにせよ長期戦は免れないが、このまま戦い続ければ勝機は見えそうではある。
以前倒した「まつろわぬもの」よりは弱いみたいだしな。
あの時よりダメージソースが少ないのと、弱点が少ないから時間がかかっているだけで。
「まだ行けるか!?」
前衛に声を掛ける。
ルカもシオンも問題はなさそうだ。
結局、その後30分程度を掛けてクイーンが甲高い鳴き声とともに倒れ伏し、消滅した時は危うくそのまま座り込んでしまうところだった。
だが、まだ戦闘は終わっていない。
油断せずに最後に残っていたボギーキャットを倒し、増援が来ないことを確認すると同時に地面に座り込んでしまった。
クイーンは「まつろわぬもの」より1段階弱い魔物ですが、お供を引き連れて入る上でそのお供が補充可能というあたり、総合的には「まつろわぬもの」より強いんじゃないかという気はします。




