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どことも知れぬ迷宮にて

まずは目を瞑って息を大きく吸い、止めてお腹に力をぐっと入れる。

腹圧を内臓にかけるイメージでそれを数回繰り返す。


以前、動揺したときに行うと落ち着けると会社の先輩から教えてもらったことだ。


皆の視線がこちらに集まっていることを感じる。

何か言葉にしないといけないが、どのような言葉を発するべきか悩んでいるかのような表情。

視線も落ち着かずにあちこちを見ている。


こちらに話しかけようとしているノーラに手をかざし、言葉を止める。


「色々言いたいことが有るのはわかるが、全員まずは大きく深呼吸だ」

混乱したままでは能力を十全に発揮することなど出来ない。

全員を落ち着かせる為に時間を取る。


その間に少し思い返してみるが、特にここに来るまでの間に違和感を感じるところはなかった。


細かく言えば事務員の人は初めて見た人ではあるが、学園指定の身分証も見たし、説明におかしなところもなかった。

転移門は許可証をかざすことで転移可能で、許可証がなければ転移は出来ず、許可証は門ごとに割り当てられているため、間違って別の門に入ったということもない。


あまり意識しては居なかったが、後ろからついてきているような人物も居なかったはずだ。

にも関わらず、転移してから破壊されるまでの時間は10分はかかっていないだろう。

手際が良すぎる。用意周到すぎると言ってもいいが。


……いや、犯人を特定している場合でもないか。まずはここからの脱出を考えるべきだ。

そこまで考えて全員の顔を見渡す。ずいぶんと落ち着きを取り戻してきたようだ。


「まずミラン、聞きたいのだがここの魔物よけの魔法は機能しているのか?」


ミランがはっとした表情になって目をつぶって魔素による調査を始める。

「僕は専門ではありませんが、今日の明日ので切れるような状態ではないです」

安全なゾーンが有るというのは良いニュースだと言える。かと言ってここで待っていたところで助けはこないが。


「ま、迷宮は攻略する予定だったんだ。少しばかり予定が早まったと思えばいいさ。ここは安全なようだし」

あえて意図的に何もなかったかのように気楽に振る舞う。


「……そう、だな」

ノーラが色々と言いたいことがあるが、無理やり押しこんだような苦しそうな表情のまま無理矢理に微笑む。

もちろん、色々と不安は有るだろう。


皆に向けて再度話しかける。

「色々と言いたいことが有ることは分かっている。しかし、ただ座して死を待つよりはまず行動すべき、だろ?」

我ながら無理やりに微笑む。そしてそれぞれに声を掛ける。


「シオン」

シオンは大きく息を吐きだし、迷いを振りきったような顔で

「押し通る、さ」


「ルカ」

「ん。」

フルプレートは表情が見えないのだが、いつもと変わらない返事。


「ミラン」

「ええ、わかっています」

額の汗を拭いながら、杖を掲げるミラン。


「リーゼ」

「いつもどおり、回復は任せておいてよ。」

少し声が震えているか。


「ノーラ」

「……分かっている」

ノーラは兜を脱ぎながら答える。

兜は足元に無造作に放り出す。


「行こうか。」

全体に声を掛ける。


どうにもならないような問題に直面した時、まずはすぐに片付けれる目前の問題から片付ける。

全体を見ると立ち止まってしまうが、目の前の問題を一つ一つ解決していくことで問題の解決につなげる。

単純だが真理だ。


皆が萎縮してしまう前に状況を前進させてしまわないと。


ドアを開けて細い通路を歩く。

しばらく細い一本道を進んで行く。大きな部屋につながっているようだ。


先行して確認する。

……まあ、そう甘くないか。


見覚えのある凶悪な猫の顔。ある意味で懐かしいな。

戦士殺しと恐れられるボギーキャットが3匹。

そういった難易度の迷宮ということで、間違っても学年の一期生が来るようなところではない。

つまるところ、確実に嵌められたということだ。


ボギーキャットは未だこちらには気づいて居ないようだが、排除しないと先には進めないだろう。


とりあえずミランの魔法でまず一発入れてから、だな。

頭の中で作戦を組み、ハンドサインを利用してミランに魔法を準備させる。


ボギーキャットの隙を付いて石を全く関係ない方に投げ込む。

そちらの音にボギーキャットの意識が取られた瞬間に、俺のいるところまで全員をこさせる。


ルカの鎧の音があるので気づかれないというのは無理だが、陣形は整えれた。

ボギーキャットが散開する前にミランの雷魔法が入る。


ボギーキャット自体は訓練場でも相手をしたことがあるが、やはり偽物と本物とでは受けるプレッシャーも攻撃の重さも違う。

疾風(はやて)の短刀を惜しまずに利用して攻撃を続ける。


しかし、さすがにボギーキャットの攻撃をシオンがさばくのは限界があったようだ。

鋭い蹴りを避けきれずに蹴り飛ばされる。


リーゼの回復魔法が直ちに飛ぶが、陣形が崩されたのは確かだ。

このままではシオンの後ろで槍攻撃に参加していたノーラも長くは無いだろう。


ノーラが崩れると後衛に攻撃が届く。

ボギーキャットは意図的に後衛を狙うほど賢くはないが、この状態でリーゼが落とされると勝ち目がない。


素早い動きでこちらを翻弄し、なかなか思い通りの攻撃をさせてくれないボギーキャットの間合いに無理やり入り込む。

「刺突!」

カウンター気味に攻撃してきた左腕を身を捩りながら回避しつつ、首筋に連続攻撃。

……ギリギリだったな。


首筋から血を吹き出しながら倒れ伏す一匹のボギーキャット。


ちょうど倒したタイミングでノーラも吹き飛ばされていたので、シオンとノーラを吹き飛ばしたボギーキャットを引き受ける。

ルカは危なげなく守り抜いているが、倒すのは期待しないほうが良さそうだ。


ノーラとシオンは回復魔法を受けて何とかといった体で立ち上がる。

とりあえず即死ではなかったのを感謝するしか無いか。


その後、ノーラの槍による支援を受けて時間はかかったもののなんとか退治した。


倒せたとはいえギリギリな綱渡りだ。

あまり何度もしたくはないが、そう思い通りにも行かないだろう。


この大きな部屋からはいま来た道を除いて3つ道が伸びている。

予想通りだがもらっていた地図とは全く違い、軽く見る限り3つの道の先にすぐに出口が有るようなこともないようだ。


さて、予想はある程度していたが、あたってほしくなかった悪い予想がことごとく的中している。

どうすべき、か。

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