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虎口を逃れて竜穴に入る

金髪碧眼の整った顔立ち。一言で言えばかなりのイケメンだといってしまって良いだろう。

 ただ、眼にやとる光は異常なまでだ。狂気的といってもいいだろう。

 「自分は完全に正しい」と思い込んでいる・・・、いや信じてしまっている者に共通した眼といっても良いだろう。


ここはどう出るべきか。

 正直なところ、偉い貴族に目をつけられるなんて冗談じゃない。

 これが「良い意味で」目をつけられたのであればともかく、「悪い意味で」目を付けられてしまっている。


しかも相手は良い意味でも悪い意味でも『権力を行使することをためらわない相手』だ。

 少なくとも、ノーラから聞いていた印象ではそうだった。

 会ってみてその印象はかなり強まった。・・・残念ながら。


できれば関わり合いにならないでいたいのだが、関わってしまったからにはせめてこの学園を卒業して冒険者資格を得るまでの間は敵対したくない。

 こいつなら、気に食わない奴を何らかの難癖を付けて学園を追い出すくらいは簡単にやるだろう。

 他の人は分からない。だが孤児である俺はこの学園から追い出されるような事があれば次の学園に入るのは非常に困難だ。

 推薦状は一度限りだし、入学には金の有無にかかわらず後見人が必要だ。

 院長(じっちゃん)はもう当てに出来ない。そういう約束でここにきているからだ。


背中越しに目立たないように「交戦は避ける」のハンドサインを送る。

 「・・・クッ」

 シオンか?ノーラか?あるいは両方?戦闘して勝ったところで何のメリットもない。

 むしろ敵対が確実になるだけで、それは最も愚かな行為だといっても良いだろう。

 流石に自重してもらわないとな。


ノーラが貴族だといっても、どの程度の貴族か知らないがさすがに公爵家の息子相手となると分が悪いだろう。

何とか敵対せずにうまく話を持っていくことは出来ないだろうか。


本来『交渉』とは、お互いに譲れない範疇を見極め、どこまでなら妥協可能かを探り、お互いの妥協地点に接地可能とするための戦略的な読みあいである。

チェスや囲碁、将棋のように「相手の次の言葉を読んで」自分に有利な妥協点に引き込むために言葉を選ぶ。

 その事前準備として、相手の性格や優先順位を把握するために普段からさまざまな会話を行って情報収集しておく事が必要となる。

・・・なんて学生のころに読んだ本に乗っていた気がする。


ただ、それは相手に譲る気があって初めて成立する。

 こちらが譲って解決すればそれでも良いのだが、おそらく下のものから何かを譲られるなんて屈辱と感じるタイプとみた。


 ならばこういう方向ならいけるか?・・ええい、出たとこ勝負だ。なるようになれ!

「いやいや、そちらも見ただろう?たしかに何とか倒せたけども。とても勝ったとはいえないよ。」

 落ちたままになっているカードを拾って、魔素を通す。

 奴の目の前で燃え落ちる。


「これではとても倒したなどと報告は出来ないからな。」

少し敵対の色が落ちたか?

「ほう・・・なかなか身の程が分かっているではないか。」

「当分は別の入り口で腕を磨かないとな。そっちのパーティほど強くなれないことは分かってるが、冒険者学園に入った以上腕は磨いておきたいからな。」

 少しばかりあからさまか?・・いや、何を当然のことを言っているんだという表情だな。


「すまないな、見苦しい戦いを見せてしまって。邪魔にならないように早くココから引き下がりたいが、いいか?」

「まあ、良いだろう。そうだ、言い忘れていたな。私はミハエル・フォン・ラウル・レン・ファーランティアだ。」

 ギリギリだな・・・。今回は見逃すけど次はない、ということか?しかも「フォン」って高位継承者だとはっきりと前面にだしてくるのか。はっきり圧力だと分かりやすいな。

いかにも驚いたかのような表情をつくる。うまく出来ていれば良いが。

「大変失礼いたしました。・・ファーランティア卿、知らぬとはいえ失礼をお許しください。学のない身ゆえ正規の挨拶も知らず、申し訳ありません。アキラと申します。お見知りおきのほどをよろしくお願いします。」

 正直、すぐに忘れてくれてかまわないけどな!という本音をまったく見せないようにしながら、第一種礼装としてこの身の知る礼をする。周りにも促す。

 一部は不承不承と言う感はあったが、皆同じ礼を取る。


ちらりと、ミハエルが全員を見渡す。

 リーゼで一瞬視線が止まった気がしたが、一言もない。


隣に控えていた銀色装備の騎士がすっと何事か耳打ちする。

「・・そうだな。わかった。その方ら下がれ。貴様らのようなパーティにこの入り口はまだ早い。もっと他の入り口で腕を磨くのだな。」

 手に持つ刀につい力の入ったシオンの手の上にさりげなく手を重ね、

「ご忠告のほど、ありがとうございます。・・・早速別の入り口に向かいます。」


パーティの皆を促してボス部屋から出させる。

 最後に一礼したタイミングで

「多少は骨のあるパーティがいてくれて、こちらもうれしいよ。・・競技祭が楽しみだな。」

にやり、といかにも黒い表情で笑顔を浮かべる。

 くそ、競技祭で叩き潰す、と。・・分かりやすいが、面倒毎がもう一つ増えるな。

「・・力量の差に今からめまいがするほどです。」

くそ、鼻で笑ってやがる。・・・何とか叩きのめしてやりたいところだが、勝つわけにも行かない・・。


迷宮に入ったときにもっと警戒しておけば・・・、いや今更行っても詮無いことか。

むしろ問題は・・・。

「・・・アキラ。」

「色々言いたい事があるのは分かっている。迷宮を出ていつもの飯屋についてからで頼む。」

シオンが怒っているところは初めてみるが、コレはずいぶん怖いな。

他のメンバーも大なり小なり怒っているようだな。


コレを説得しないといけないのか・・・。

やれやれ、なんと言うんだっけ?そうそう、これぞまさに虎口を逃れて竜穴に入るといった感じだな。


はぁ・・。誰にも気が付かれないようにため息をこぼす。

この上で競技祭では負けるように説得しないといけないのか・・気が重いな・・・。

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