閑話 クルト視点
時系列的に少し戻ります。
「ふう、ぶっつけ本番にしてはよく出来たわい。」
いつもの酒場のいつもの席で酒を飲みながら、ひとりごとを呟く。
アキラと言う人物は最初からある程度眼をつけていた。人間の中でも探索者の各スキルの腕前が高く、その上で補佐魔法と両立させている点を評価していた。
わざわざ学園に入りなおしているのは、前の学園でトラブルに巻き込まれたノーラシュナットお嬢のお目付け役と言うこともあるが、腕の立ちそうな冒険者を洗い出し、青田買いするのも目的の一つだ。
タイミングを見計らって仲良くなっておき、他のスカウトに声をかけられる前に声をかけようとは思っていたのだが。
あの戦闘を見てしまった以上、そう悠長なことも言ってられない。
しかも、あの武器だ。
探索者をやっていると、『お宝を鑑定するスキル』と言うのは必須になってくる。
それゆえ、武器鑑定、防具鑑定、宝物鑑定、それぞれ全て下級はマスターしている。
にもかかわらず鑑定できないのだ。
少なくとも名品以上。
・・・もっと上かもしれない。そうなってくるとアヤツが何者であるかは関係ない。是非、スカウトせねばならぬ。
スカウトするならば、どんなものを好むのか理解しておかねばならない。
金か?権力か?あるいは女?・・・しかし、それを知るには知り合ってからの時間が短すぎる。
ならば最後の手段。『義理』で縛るしかない。
学園内で組んだパーティは途中入れ替わることもあるが、卒業時に組んでいるパーティがそのまま冒険者としてのパーティとなることが多い。
1期生から変わらないパーティと言うのも少なくはない。
ゆえに、ノーラお嬢のパーティから抜けることにして、人数的にちょうどよくなるようにした。
うまくパーティを組んでくれるかどうかは賭けでは合ったものの、その賭けには成功したと言える。
あとは、何か問題が起こるたびにフォローして分裂を防げば良い。
そう思った矢先に、「あの発想」だ。
正直なところ、驚いた。
あの場では知らない風を装ってはみたが、冒険者として最前線で戦っているパーティで少数ながら「あの発想」を実践してるパーティはある。
それらのパーティは現時点では有名な迷宮を攻略したわけでも、希少度の高いアイテムを発見したわけでもないが、生還率の高さだけは異常だ。
トップ冒険者の情報は原則非公開の方向にある。
なぜなら、冒険者は『国家の戦力』でもあるからだ。
わしは公爵の子飼いの冒険者として飼われているから知っているが、普通は知らない。
まあ、知っていてもなかなか出来るものではないらしいが。
なんといっても、一人で先行して情報を調べると言うのは言うほど簡単なことではない。
敵に気づかれてはならないから「忍び足」は必須だし、「聞き耳」も高いレベルで必要となる。
万が一だが、敵と接触してしまったときのために一定の戦闘能力も必要だ。
結果として、「思いついたところで早々出来ることではない」のだ。
それを事もあろうに、学園の1期生がやっておると言うのだから、現役冒険者に爪の垢でも飲ませてやりたいところだ。
更にいうなれば、あのハンドサイン。
あれだけは本当に聞いた事がない。
実践しているパーティにであれば、情報として高く売りつけられるだろう。
国でもあの発想は取り入れることが可能かもしれない。どちらにせよ、報告は必須だろう。
この信じられない能力表と一緒に。
学園長から受け取って、その場で見たとき一瞬学園長を疑ってしまった
これほどの能力があれば、直ちに一代爵に任じてでも国に縛り付けてほしいところなのだが。
何の功績もない学生に爵位を与えるわけにも行かないからな。
いや・・・奴ならば裏まで理解して爵位を受け取らない可能性はあるか。
爵位は功績を残せば爵位がもらえる、と言うことになっているが、それはあくまで挑戦者側から見たメリットに過ぎず、国としては「高い功績を残すような個人」を「爵位」という紐でくくりつけているだけだ。
他の国に引き抜かれたりしないために。
奴がどう考えようと、国と言う単位がかかわってくると個人の意図は通らなくなってくる。
その辺まで理解してとりあえず「受け取っておけ」、といずれ説得しておく必要はありそうだな。
そこまで考えた時に隣に男が座る。
誰にも気づかれないようにスッと紙をわしのほうに渡し、何事もなかった風にウエイターに注文を頼む。
近寄ってきたウエイターにエールのお代わりを注文し、ウエイターが立ち去った後でやはり何もなかったかのようにこちらから手紙を渡す。
人の多い酒場であればあるほど、他人のことを気にしている奴等いない。いつもの連絡手段だ。
いかにも最初から持っていた風を装って紙を見る。
・・・声を出さなかった自分をほめたい。
またあのボンボンがくるのか。
早く手を打たねばな。
一気にエールを飲み干すと、勘定を払って慌てて酒場を後にした。
ボンボンは次回登場予定。




