新パーティ
先週は体調不良で寝込んでしまいました。皆様も体調管理にはくれぐれもお気をつけください。
『グォォォォォォ』
部屋にストーンゴーレムの叫びが響き渡る。
何のバッドステータスもない叫びなんてただ耳障りなだけでしかないが。
敵の攻撃力は高いものの、大振り過ぎて当たる気はしない。
攻撃をうまく避けて、体勢が崩れたところを見計らって、
「ミラン、頼む!」
「『来たれ、電撃』!」
合図するや否や、ストーンゴーレムに雷撃が突き刺さり、その雷撃によりストーンゴーレムは崩れ落ち、カードがひらひらと落ちてくる。
シオンがパシッと取り、
「なかなか良い感じだったな。」
上機嫌そうにそう告げる。
3人増えて6人になったため取れる戦術は倍どころではなくなった。
最初は思い通りに行かないことも多かったが、パーティを組んで3日目の今日になってようやく形になってきて、うまくパーティとして動き始めてきた。
今は強い敵が多く、あまり他のパーティが近寄らない8番入り口で戦っているが、新しいパーティで挑み始めて3日目にもかかわらず、結構なスピードで探索が進んでいる。
・・・というか、楽に戦いを進める事ができるようになっている。
やはり、あの『まつろわぬもの』を倒せたと言うのはこのパーティの中で大きな「自信」となっているらしく、この入り口の中の魔物も「あいつに比べればまだまだ弱い」という気持ち的な部分も大きいのだろうが、皆の動きが随分良い。
故にこそ最初はややかみ合わずにチグハグな所も会ったが、ようやく歯車がうまくかみ合ってきている感じがする。
「今の感触を忘れない内にもう一戦だな。」
そういいながら先に進む。
意図的に地図はまだ売っていないし、ポイントに変換している魔物カードも限定的だ。
ポイントを稼ぐというより、パーティとしての質を磨いている形となるだろうか。
この方針には反対が出ると思ったのだが、特に反対者もなかったことには少し驚いた。
「明日からは意図的に一人戦闘できないと仮定した戦闘も混ぜていきたいところ・・・か。」
「・・・それはどういうことだ?」
ノーラが独り言のつもりでつぶやいた台詞を聞きつけ、訊ねてくる。
「今日の反省会で話そうと思っていたことだけどな。・・・例えば、ミランが魔素不足だったと仮定した場合や、前線・・・まあ誰でも良いが、シオンやルカ、俺やノーラ含め戦闘不能だったと仮定して戦闘するのさ。」
「・・・なるほど、実際に起こりうる事を想定してあらかじめ対策を考えておくと言うことか。」
このところの毎日の反省会で俺の考え方を理解してきたのか、納得が早い。
「そういうこと。いざその事態になってから困るのは馬鹿らしい。あらかじめそういうときの方針や戦闘方法を考えておくのも手の内だろ?」
「・・・本当に底が知れんな・・・。」
「うん?何か言ったか?」
考え事をしていて聞き取れなかった。
「いや、なんでもないさ。」
「それならいいが。」
その後、5、6体ほどの魔物を倒し、時間的にもちょうど良いためいったん今日は引き上げとなった。
引き上げた後、クルトから紹介してもらった食事どころで反省会をしながら食事をするところまでは、最近のテンプレといっても良いほどに固定されている。
本当は学生が使うには少し割高なんだけどね。学割を店主さんが効かせてくれているおかげで、晩御飯に寄るだけならまあ何とか妥協できるレベルになっている。
案内された先には、既にクルトが座ってまっていた。
少し驚くこちらの面々を見て愉快そうに笑いながら、
「久しぶりじゃの。」
と挨拶してくる。
「少し驚いた、と言いたいところだけど、ここは元々クルトのお勧めだからなぁ。店の人にツテでもあるのかい?」
「ま、当たらずと雖も遠からず、と言うところじゃな。」
わりといつもどおりの位置に座り始める。
「どうじゃい、新しいパーティは。きれいどころも多いし、満更でもないのではないか?」
茶目っ気たっぷりに聞いてくる。
ここで慌てては思う壺だからな。
「うらやましいならいつでも変わるよ。」
さらりと切り返す。
クルトはブルブルっと冗談っぽく震えると、
「冗談ではないわい。」
と返し、ノーラが剣呑な目つきで
「それはいったい、どういう意図かな?」
「いやいや、意図なんぞないぞい。リーダも大変じゃなと言う話じゃよ、ほんとに。」
とクルトが返したところで軽い笑い声が他から入る。
こういったところを見る限り、なかなか良いコンビだったんだろうなぁ。
まだ3日目と言うこともあるだろうけど、ウチのパーティはまだここまでの域には達していないな。まだまだと痛感するのはむしろこういった何気ない時だ。
ひとしきり笑いが収まってから、クルトが切り出す。
「さて、今日おぬしらを待っておったのは、忠告のためよ。」
「忠告?」
オウム返しにたずね返してしまう。
「ああ、そうじゃ。本来はとても珍しい事なのじゃがな。他の学園都市からの転入生が来る。」
「一人二人転入してきたところで余り変化はないと思うが・・・よほどの問題児なのか?」
確かに、転入生と言うのはかなり珍しい。基本的に新入生としてしか学生は増えないからなぁ。
とはいえ、一人二人着た位ではどうにもならないだろう。このパーティにはもう空きはいないし、今更色々説明し直したりしたくないから、よほどの事がない限り人を入れ替えたいとは思っていないし。
「能力的には優等生と言って良いじゃろうが・・・。性格と言うか育ちの面でなぁ・・・。」
ノーラがたまりかねたかのように割り込む。
「歯切れが悪いな、一体。どんな奴が来るんだ?」
「ふむ・・・。四大公爵として名高いファーランティアのボンボンが来る。」
「げ。」
ノーラがさっと表情をしかめる。
「知ってるのか?」
知っているのであれば、是非情報を仕入れたいところだ。
「・・・知っていると言うかな、絶対に会いたくない相手だ。」
ノーラが困り果てているかのような表情で言う。
「以前ちょっとしたことでノーラは目をつけられていてね。前の学校でトラブルになったとかで、自主退学してこっちを受けなおしているのよ。」
リーゼからフォローが入る。
「リーゼが元々こっちにいたことは知っていたからな。連絡を入れて、悪いが半年留年してもらったんだ。ミランもちょうど入学の時期だったからこっちで一緒に受けたんだが・・・。」
ノーラが頭を抱える。
それは困ったな。
新しくメンバーとして入ったこの三人はかなり優秀だし、ようやく意図が通じるようになってきたメンバーと分かれたくはない。
なんといっても、『まつろわぬもの』戦で見せた短剣や明らかにすばやい動作についても聞いてこないのだ。
それだけでもパーティを組み続けるのには十分なほどだ。
なんとかしたいところだな。何か使えそうなスキルはあるか?・・・『変装』とかか?でもなぁ、毎日毎日変装させに行くわけにも行かないだろうしな。
「姿を変えるようなアイテムとかが在ればいいのかもしれないが・・・。流石にフルフェイスの兜をかぶると言うわけにも行かないだろうしな。」
「正直そうしたいぐらいだよ・・・。」
ノーラはかなり沈んでいる。
「どういう風に目をつけられているんだ?そもそもそんな貴族なんかに。」
気になっていることを聞いてみる。
ノーラはため息を付くと、あきらめたかのようにつぶやく。
「3人目?だったか、奥さんにしたいんだとさ。こっちはまったくあいつなんて好きでもないのに・・。」
・・・難易度はかなり上がったな。
「どんなやつなんだ?」
「魔法使い。頭はいいんだけど、割と真剣に自分のしたいように世の中は回せると思っている。冒険者を目指すなら実力で上ってほしいところなんだが、奴の場合親の権力を自分の都合の良いように使うのも『実力』のうちだと思っている。」
倍率ドンという感じで更に難易度が上がった気がする。
「『視野』は?」
ルカがぼそりとつぶやく。
「フルフェイスの兜をつけて『視野』スキルで戦えと言うことか?なれないと難しいだろうに。」
シオンが察してくれたのか、意訳してくれた。
『視野』スキルはいわゆるパッシブスキル(所持しているだけで効果のあるスキル)で、汗が眼に入ったり、兜により視界が制限されるようなときでもそのペナルティを軽減すると言う前衛の必須スキルだ。
「いや、今は後衛から槍をメインに攻撃しているからな。それほど苦しくはないかもしれない。」
ノーラが一筋の望みを見つけたかのような表情で言う。そうは言うけど、今までやってない以上、影響はある程度出るだろうに。・・・それほどに嫌っているのか。
「私達の顔は知られてないのはある意味救いね。・・・アキラ、悪いけど今日の反省会は明日に延期してもらっても良いかしら?とりあえず早速購入して試してみましょう。服や武器もね。服装を変えて外見の雰囲気もある程度変えないと多分すぐ気が付かれちゃうと思う。」
「ああ、俺も付いていこうか?」
『変装』のスキルが何か役に立つかもしれないしな。
「それならわしも行くかの。」
クルトが立ち上がる。
ルカは一人だけあからさまにいやそうな表情だ。確実におなか減ってるんだと見た。
「ルカとシオンはここで食事して席を確保しておいてくれ。売り場が閉まってはいけないから今すぐ行くが、食事は食べに戻って、この2人にも見てもらおう。」
「そうね。」
ノーラが同意する。
シオンが困ったかのような表情で
「悪いね。」
と短く謝る。
「いいえ。希望が見えただけでもありがたいわ。」
ノーラがすばやく荷物をまとめながら立ち上がる。
学園都市だからこそ武器・防具の店は結構遅くまで開いていたりするが、何店舗か回る必要はあるだろう。
5人で慌てて店をでて、防具屋に向かった。




