パーティ再編
乾杯の後に食事が出てきたが、勧めるだけの事はあった。
こちらの世界では一般的な食事、パエリアのような主食にローストビーフのような肉料理(とはいっても牛肉ではないようだったが)、スープにサラダと量はあったが、あっと言う間に完食してしまった。
これで食後にはデザートが出ると言うのだから驚きだ。
皆あまりお酒は多く飲まなかった。これから迷宮に入ろうと思っているなら酔っ払うわけにも行かないだろうしな。
「・・・確かに美味しかった。」
しみじみとつぶやく。
「まだデザートがのこっとるぞい。」
クルトが言う。
「食べ過ぎた気がするな・・・。」
「ノーラはまだ良いじゃない~。私とかはあまり動かないから・・・。」
ノーラとリーゼがそう言い合っている。どこの世界でも女性は大変だな。
お代わりまで要求していたルカを見る。
デザートが待ちきれないのか、表情が明らかに綻んでいて、尻尾がパタパタと忙しい。
「食べるのも戦士の仕事の内ではあるが、流石に食べすぎた気がする・・・。」
深刻そうにシオンがつぶやく。
ミランを見るとちょうど視線が合う。
男性同士通じるものがあり、苦笑が帰ってくる。
「さて、と。ちょっと良いかの」
クルトが声を掛け、視線が集まる。
「今回のことで痛感したぞい。ワシはまだ死にたくはない。少し冒険者と言う仕事を考え直したいのじゃ。」
「!・・・クルト、お前もか。」
ノーラが驚いた顔でそういう。
「このパーティは良いパーティじゃった。離れるのは心苦しいのじゃがな。・・・まったくアヤツと戦おうなどと思う事ができなんだ。冒険者失格じゃよ。」
「そんなことは・・・!!」
「ある、とわし自身が思ってしまっているのじゃ。・・・そういう意味ではお前さんたちは冒険者としてはもう一人前じゃよ。逃げれぬと分かれば、勝てぬと思う敵でも一分の勝機に賭けて戦う事ができる。・・・ワシにはできなんだ。」
重苦しい沈黙に包まれる。
「ま、そう暗くなってもしょうがないのじゃがな。で、わしが抜けるとちょうど6人になる。・・・先日の戦いは実に見事じゃったよ?お前さんたち、組んでみてはどうじゃの?」
クルトが沈黙を打ち払うかのように明るい声で言う。
ちらりとノーラを見る。ノーラもこちらを見る。
「クルトの考えが変わらないなら、こちらとしては大助かりだけどな。正直、うちのパーティはバランスが悪すぎる。」
戦士2人に盗賊1人とかどう考えてもバランス悪いからなぁ・・・。
「そうだな・・・アスが抜けた段階で戦士の補充は急務だったからな。この上クルトが外れるとこちらのパーティもバランスが悪い。」
「私は賛成よ。是非に、といっても良いかな。」
「クルトさんには是非残ってほしかったのですが・・・、考えが変わらないと言うのであれば僕も賛成です。」
こちらのパーティを見る。
「・・・多いほうが・・・いい。」
「アキラの決定に従う。基本的には賛成だが。」
クルトを見るが、軽く肯かれる。
ノーラはかなり複雑そうな表情をしていたが、しばらく無言だった後に、覚悟を決めたかのように
「それならば、是非お願いしたい。」
ふう、これでリーダを変更できそうだな。やはり探索者がやると言う状態はあまり良くない。
「では、リーダは・・・」
とまで口にした瞬間、シオンが慌てた感じで声を挟む。
「これまでどおりアキラがやるべきだ!・・・いや、ノーラにその能力が無いというわけではない。アキラのやっていることは・・・今の冒険者の常識からは少し離れている。せめて、アキラのやろうとしていることを理解するまでの間は、アキラがリーダをしていたほうが良い。」
少し驚いたかのような表情で向こうのパーティの4人がこちらを見る。
「すまないが、どう特殊なのだ?」
ノーラが興味を持ったかのように聞いてくる。
またこの話か。自身ではそんなに特殊な事をやっていると思わないだけに少し困惑してしまう。
「一言で言えば『索敵』、敵をあらかじめ把握し、倒すのが困難であれば回避し、倒すしかなければ有利な状態になるようにする。・・・最悪でも『不利でない』という状況に整えるのが目的だ。」
「・・・理解できないな。」
「ま、分かりやすく言えば曲がり角の先にゴーレムがいれば、あらかじめ退魔を準備しておくとか、ミランに魔法を準備してもらうとかそういったことだな。」
「!!」
ノーラが驚く。リーゼが引き継ぐかのように質問してくる。
「・・・それをどうやって調べるのかしら?」
「俺が先行して調べるのさ。で、こういったサインで声を出さずに伝える。例えばコレは脅威なし進行、って感じにな。」
ハンドサインを軽く動かす。
「・・・見たことも聞いたこともない『概念』じゃのう・・・。」
クルトが驚いている。
正直なところ、自慢できるような内容じゃないと思うんだがなぁ。こういった事を考え付いた人がいない、と言うことのほうが驚きなんだけど。
「私も初めてだ・・・。確かに暫くはアキラがリーダのほうがいいのかもしれないな。」
ノーラがそういい、ノーラたち三人がこちらのパーティに合流することで話は付いた。
そこでデザートが到着する。
「クルト、この部屋はしばらく使えるのか?」
「ああ、当分の間は利用できると思うぞい。」
「なら、食べ終わったらこのサインやパーティでの戦い方についての話をするか。」
その後、説明や個人個人の戦い方とかを聞き取りって方針を話し合っているうちに、結局お昼、晩御飯と同じ店で食べることになってしまったのだ。
急に人が増えて意思統一の話に時間がかかったとはいえ・・・。長くなりすぎたな。少し反省。
疲れ果てたかのような顔でノーラが、
「私がリーダのほうが気楽に始めれたかもしれないな・・・。」
とつぶやき、ミランが
「とはいえ、こういった発想は僕達にはありませんでした。有利になることは疑いないですし、時間がかかるのもやむなしかと。」
と、話しながら帰っていくのが印象的だった。
・・・ルカは途中から寝てたけどね。




