激戦の翌日
翌日の朝早くから呼び出され、学園長から一人一人聞き取りを行われた。
正直なところもっと根掘り葉掘り色々聞かれると思っていたが、蓋を開けてみたら一人当たり5分~10分程度と実に短いものだった。
少し拍子抜けした感もあるんだが・・・。
追求が弱い理由が想像できないため、なんだか気持ちが悪い。
学園としても倒せていないほうが都合が良い事情でもあるのか?
それに・・・学園長は何か得体の知れない感じがする。
何もかも見抜かれているような・・・まさか、な。考えすぎだろう。
どうにもエルフの爺さんには『アキラ』として苦手意識があるようだ。
育ててくれた孤児院の院長がエルフの爺さんだったこととも関係性はあるんだろうな。
『意識して』記憶を見ようとしてもトラウマになっているのか思い出せない部分があったりするし、苦手意識があるのはしょうがない気もする。
聞き取りが終わり出てくると、学園長前の控え室に全員が残っていた。
「さて、これほど早くては誰も食事を取ってはおらんな?生還記念として、飯でも食いに行くかの?うまい飯屋をしっとるんじゃよ。」
クルトが表情を崩しながらそういう。
「良いですね、昨日食事も出来ずに休んでしまいましたし、僕は賛成です。」
魔法使い君が相好を崩す。
「そうだな。」
「そうですね。」
ノーラと、リーゼだったか、僧侶さんが賛成する。
ちらりと見るとルカが全力でうなずいている。・・・というかルカ、その格好で食べれるのか?
「まったく・・・そうするか。私も賛成する。」
シオンがそのルカを見ながら仕方ないなぁと言う感じで同意する。
確かに、腹は減ってるな。
「すまねぇが、俺は抜けさせてもらうぜ。」
アスだ。やや顔色が悪いが大丈夫なのか?
「それと、だ。悪いが俺はパーティからも抜けさせてもらう。」
「・・・そうか。」
「あばよ。」
一人足早に立ち去っていく。
「あ奴も腕前は悪くないのじゃがなぁ・・・。」
クルトがつぶやく。
「パーティで一番必要なのは協力だろ。腕前が立つといっても『合わせる』気がない奴とはうまく行かないさ。」
短い間しか見ていないが、どうも奴は『自分が強ければいい』と思っている節があるからな。
もちろん、弱いよりは強いに越したことはないが、一箇所だけが飛びぬけていてもパーティとして全体を見ればバランスが悪くなる、という位は多少考えてみれば分かることだろうに。
クルトが驚いたような顔でこちらを見ている。
「何か?」
「いや、なんでもないわい。おぬしは当然来るのじゃろ?こっちじゃよ、こっち。」
無理やりに連れて行かれる。
奥まった路地にある知る人ぞ知るといった名残の食事どころに連れてこられた。
それぞれ個室で客室が独立しており、一つの個室には10人位は入れそうな店だ。
お勧めの料理と言うのをクルトが頼んでいる。
そしてお酒も注文される。
朝からと言うことで否定的だったのだが、生存を祝うと押し切られてしまった。
そういえばこっちの世界では合法なのか。
「ルカ、食事するなら脱いだらどうだ?」
シオンがルカにそう促す。
俺はと言えばようやく性別が分かる!と一安心。いや、別にどちらでも良いのだけどね。
どっちなのか分からないって結構もどかしいんだよ。
ルカはしばらくもぞもぞとした後、フルプレートから出てくる。
ふわふわの長くて黒い耳がぺたんと垂れている、かわいらしい女の子。
「「「えええぇぇ!?」」」
イメージとまったく違う。
筋骨隆々・・・は言いすぎにしても、せめて耐久力に定評のあるドワーフだろうと思っていたが、こんな華奢な体でフルプレートを装備できるなんて信じられない。
一般的なミュウ族はネコ耳なんだが、この子は明らかに犬耳だな。尻尾も犬だし。
正直、ちょっと犬耳をモフモフしてみたいと思ってしまったのは秘密だ。
シオンは苦笑しながら、
「先日は戦闘中だったし、今一度自己紹介からといこうか。ルカのことも説明したいしな。」
「あ、ああ・・・そうだな。」
ルカ以上のインパクトは出せないと思うのですがね、シオンさん。
「まあ、まずはルカからかな。」
「ルカ。重騎士志望。」
「こらこら。」
シオンが姉でルカが妹といった感じだな。本当に。
「悪いね、口下手な奴で。こいつはルカ・ジ・スクトゥム、戦士だ。盾は一流だが攻撃にはやや難がある。フルプレートはスキルで操っているから、鎧を着てるときはほとんど喋れない。」
「珍しいですね、僕も初めてみました。ヒューイ族ですか。」
魔法使い君が口を挟む。
「よく知ってるね。そうさ。で、私はシオン・ド・シルバーソード。剣術士だ。『切る』事に関しては任せて欲しいが、防御のほうはまだ修行中と言うところかな。」
「あの一刀はすばらしい攻撃だった。」
リーゼが賞賛を挟む。
軽く微笑んでその賞賛を交わす。
「なら、次は俺かな。アキラだ。探索者。一応こっちのパーティでリーダーをやっている。」
軽く自己紹介する。
「今期入学者のうち最高の魔素不足者。54個不足は歴代最高よ。」
僧侶さんがまぜっかえす。
軽く走るどよめきの声。
「・・・その話は勘弁してくれないか。恥ずかしい。」
「あら、魔素不足者は歴代凄く有名になっているのよ?確かにあまり知られていないけど。」
くすっと微笑む。
「うん・・・?あ、もしかして転職の儀のときの僧侶さんか?」
「正解よ。と言うことで次は私ね。リーゼリッテ、リーゼと呼んでね。神聖魔法使いよ。」
銀色の髪のおっとり系美人と言う感じだな。
「あの時は迷惑を掛けた。」
「いいのよ。それが仕事なんだから。」
「なんだ、知り合いだったのか?リーゼ。なら、アキラを誘っても良かったな。」
ノーラがそういう。
「おいおい、ワシの前でそれを言わんでくれよ。」
クルトが困ったかのように発言する。
「危うく追い出されそうなクルトじゃ。探索者。アキラとは面識があるな。」
「ああ、そうだな。」
「それでは次は僕で良いですかね。ミランです。物理魔法使いで、雷が専門です。火や風も少し使えるんですが、こちらはあまり当てにしないでください。」
エルフの魔法使い君だ。
「私のイトコだよ。」
ノーラが言う。
ああ、両親のどちらかがエルフなのか。この世界には『ハーフ』はいない。必ず両親のどちらかの種族で生まれてくるからな。
とはいえ、金髪のミランと赤い髪のノーラに血縁関係があるとはちょっと信じられないけどな。
「最後になったな、私はノーラ。槍戦士だ。騎士志望と言う意味ではルカと似ているかな。」
「さて、飲み物がついたぞい。自己紹介も終わったことじゃし、先ずは乾杯としようではないか。」
相好を崩したクルトが飲み物を配っていく。
「では、生存を祝って。」
ノーラが音頭を取る。
「「「「乾杯!」」」」




