閑話 学園長視点(前編)
「が・・学園長!学園長!」
ばたばたと大声でうるさい奴め。
今は手が離せないのじゃよ。ここでこの薬剤を・・・。
「た、大変です!」
「うるさいわい、ちっとだまっとれ。」
まったく、最近の若い教諭どもは使えんのぅ。
調剤中と言うのは見ればわかろうに。だいたい、そんな慌てるような話なぞそうはなかろう。
制御された危険しかない、と言うのが売りでもあり弱点でもある学園都市内で。
「学園迷宮内に『迷宮』が発生しました!」
「なんじゃと!?」
しまった、制御が・・
ボスン!という音と共に黒い煙が試験管から立ち上る。
安くない薬剤をつかっとるんじゃがのう・・・。つまらない話ならばこやつの給料を天引きじゃな。
そう思ってぎろりと睨む。
「何番でじゃ。」
「5番迷宮です!地下への扉を確認しました!」
地下への扉じゃと?学園迷宮で?100年近く学園長をやっとるが聞いた事がないぞ。
「誰が見つけた!?・・・いや、学生か。死者は!?」
「死者、重傷者は出ておりません。気絶したものが一名、咆哮でやられたとのことです。」
「倒したのか?」
迷宮の入り口には必ず守護者たる魔物がおる筈。
学生が倒せたのであれば、さほど迷宮難度が高くないのか?そうであれば良いのじゃが。
「それが・・・」
「なんじゃ、早く説明せい。」
「手も足も出なく全滅を覚悟したところで消えたと・・・」
「なんじゃと!?」
魔物が退治していないのに消える?それも聞いたこともない。
まあよかろう原因追及は後じゃ。1期生がもぐっていた迷宮に守護者が出現していると言うのに、死者が出ていないという幸運に今は感謝しようではないか。
「まずはこの話は他言無用じゃ。発見した学生にもそういい含めよ。そしてただちに5番は閉鎖せよ!」
まごまごとして行動に移そうとしない教諭を見据える。
まったく、指示をあたえたのじゃからさっさと動かんかい。
「その・・・どのようにして閉鎖とすれば・・・?」
「緊急に対処すべき事案発生、学生の全退去を要する、とでも言っておけ。学園長命令として良い。ああ、それと発見した学生は明日ワシのところに来るように伝えよ。ではさっさと行動に移せ!」
「は、はぃ!」
またばたばたと駆けて行く教諭。やはりレベルが下がったのう、この学校も。
それはそうと、5番迷宮の責任者は誰じゃったか、至急呼び出して話を聞かねば。
その後に呼び出した若い教諭は色々と言い訳や自己保身に忙しいようじゃったが、要約するとボスを召還したまま5年近く放置したという事らしい。
まったく・・・。ばかばかしい。月に一度は魔物を再召喚する事になっておる筈なのに、それをやっておらんとは嘆かわしい。
全てのボス部屋を回らなくとも学年をあがるのに問題はないというシステムにも問題がある、と言えなくもないのじゃろうが、少なくとも今まで倒していない学生には非は無いじゃろうなぁ。
5番迷宮から学生全員の退去を確認し、信頼できる教諭数名と報告してきた教諭とで『扉』を確認する。
軽く魔術による捜索を行うが、これは学生の手には余るな。全盛期のワシでも苦しいじゃろう。
しかし、入り口を守護しているはずの『守護者』が確認できない。
学生の報告でも守っていた敵はいたと言うことになっておった筈。入り口付近に守護者がいないと言うのも不思議なのじゃが。
倒した、のか?・・・まさか、な。
封じの魔法で入り口を封鎖する。とりあえず暫くはこれで魔物が漏れ出すと言うことはなかろう。
長くは持たんのはワシが一番分かっておるが。
明日と設定してしまったのは悪手だったかもしれんな。
早く学生どもを締め上げて聞かねばならんかった。
まさかこれほどの迷宮が発生しているとは思っておらなんだ。
じりじりと焦りながら翌日を待つ。
1日が過ぎるのがこれほど待ち遠しいとは、思いも寄らん経験かもしれん。
エルフという長命な種族をやっておると、どうにも時間感覚がなくなってきてしまって行かんのう。
翌日の朝早くから教諭に呼びに行かせ、発見したという生徒を集めた。
発見したパーティは2つ、合計で8人か。
一人一人締め上げてやるのが得策じゃな。口裏を合わせられたとしても細かな食い違いが出てくるじゃろうし、と思って8人を見ると一人見知った顔がある。
やれやれ、これで虚偽の報告を受ける心配はなさそうじゃ。
そう安堵して、いかにも誰でもよさそうな顔で、まずそやつを学園長室へ招いた。




