勝負の行方は……
あの一撃で決めておかなければならなかった。
それは分かっていたことではあったのだが。
仕切りなおす、と堂々と言ったものの、もう以前のような隙を見せてはくれなくなった。
常にシオンを視界(奴が眼で見ているかどうかはイマイチ自信がないのだが・・・)に捕らえる位置取り。
それでいて奴が次に警戒しているのは俺の短剣のようで、攻撃がほとんど当たらない。
警戒度が下げられている槍攻撃は何度か当たっているのだが、たいしたダメージにはなっていない。
魔法攻撃もうまく通せてはいない。大技を打つには散開しないといけないのだが、それが危険すぎるのだ。
魔法の大技を打たせてくれたのも前の一度だけで、それ以降は警戒されたのか散開しようとすると誰かにぴったりと張り付いてくるようになった。
ルカなら良い、一人で攻撃を受けるのは慣れている。
俺もまあ、一太刀なら避けれそうだ。
しかし、ノーラ(むこうのパーティリーダ)はそうは行かない。
槍だからこそ攻撃に参加できているが、先ほど二段突きの反撃で隣接して切られたときの盾の取り回しはまだまだといったレベルだった。
(流石にルカの盾の取り回しと比べるのはかわいそうではあるが・・)
その時に横から攻撃をすることで致命的な攻撃を避けたが、このままだと最初に倒れるのは確実にノーラだ。
逆にだからこそ、敵からは優先度を下げられている。
予想はしていたけど苦しいな・・・。このパーティが急造なのが悔やまれる。
どうしても声を掛ける必要があるため、一瞬テンポが遅れがちなのだ。
また、さまざまなケースを想定していたルカとシオンはある程度こっちの意図を読んでくれているが、そういった時間を取っていない他の3人とはうまく連携できていない。
どうして3人かというと、アスはその後あっけなく気絶してしまい、クルトはアスを引っ張って隅っこに行ってしまい、そこからこちらに来る様子はない。
ま、無理にこっちで戦えとは言えないよな。むしろ、自分の能力を過信し過ぎていたアスと比べれば邪魔にならないところにいてくれるのはありがたい。
このままではジリ貧だということは分かっている。
どこかで勝負に出る必要があるのだが、勝負にでる決定的なタイミングを得る事ができない。
無理ゲー過ぎるな・・これは・・。
勝率の低い博打ではあるが、一つだけ可能性はある。さっきから気になっている事がある。
アスの3回攻撃もそうだし、ノーラの2回攻撃もそうだ。
必ず連続攻撃となる部分は避けている。アスの時は3回目に反撃、ノーラの2回攻撃は2回目に反撃した。
「博打になるが、付け込む隙はありそうだ。乗るか!?」
この博打に失敗すれば、もう次はない。格上の敵と長く戦闘していることもあり、ノーラは明らかに息が上がっているし、魔法使いくんも汗まみれだ。魔素を使い果たすのもさほど遠い話ではないだろう。
「勝ち目があるなら乗るわよ!」
迷いもなく即決でノーラが返答する。
「大技だと後2発が限度です!!打てる余裕があるうちに勝負させてください!!」
魔法使いくんが言う。
「前衛を信じるだけよ。」
リーゼ(僧侶さん)が気負わない感じで言う。
ルカとシオンに視線を転じると軽くうなずく。
心を決める。
「リーゼ、破邪魔法に切り替えてくれ。魔法使い、大技を一発準備頼む。どちらも30秒後迄に準備できるか!?」
「ええ!」
「わかりました!」
「ノーラ、二段突きを残り3秒で発動だ。シオンは残り2秒で発動!ルカ、1秒でいったん退避してスタン・スマッシュ!」
そこまで指示を出してから大声で時を刻む。
「30!」
実際は残り3秒の段階が最も重要なタイミングだ。
意図的に側面を取りつつ、敵にとって嫌らしい位置を確保する。投げナイフで軽く牽制を入れる。
「20!」
反撃を避けつつさらに接敵し、軽く胴に傷つけることに成功する。
ゲームじゃ敵をひきつける事なんて容易なんだが、現実でやるのは予想以上に難しい。
「10!5からカウントダウン!」
最も重要なタイミングが近づいてくる。掛けるのは命という最悪な博打。しかし、ちりちりとする緊張感に足りていなかったモノが充たされるかのような感触を感じてしまうあたり末期なのかもしれない。
「5!」
ただ漫然と生きてるだけなんてつまらない、そういったのは誰だったかな。
「4!」
さて、やるか。体のギアを最も早い段階にセットする。
「3!『刺突!』」
「『二段突き』」
ほとんどタイミングがずれずに二段突きがはいる。こっちも短刀系2回攻撃技『刺突』、いままで一度も打っていなかったから当然無警戒だよな!
こっちの攻撃を避けて、二段突きも避けるつもりだったのだが思惑が外れたのだろう、短刀の2回目の突きが入る。少し体勢が崩れたところに二段突きがクリーンヒットする。
今だ!
「『追加攻撃!』『刺突!』」「『一刀両断!』」
シオンの一刀両断とほぼ完全にタイミングが合う。
タイミングが少しずれるとこっちも一緒に切られかねないから怖いんだがな!
再度の2回攻撃が2回とも攻撃が命中する。シオンの一刀両断は肩口から胸辺りまでを切り裂いている。
「1!退避!」
シオンは刀が抜けないらしく、半瞬遅れたが刀を残して退避する。
「GEEEEEEEEEE!」
貯めなしで咆哮かよ!ビリビリと空気が揺れる。
「ゼロ!」
咆哮にかぶってしまい、声は通らなかったかもしれない。
ただ、リーゼと魔法使いに意図は通っていた。
「『サンダー・スパーク!』」「『破邪の光』!」
雷と破邪の光が包む。
一瞬の静寂。
光がやんだ後、体のあちこちから煙を上げながらも立っている『まつろわぬもの』。
まだ倒せないか!
・・そう思った瞬間だった。
ピシリという小さな音と共に全身に走る黒いヒビ。
突進しようとしていたルカが足を止める。
ヒビから黒いもやが煙のように立ち上り、そのまま突き立っていた刀に集まっていく。
カキンという音と共に刀が落ち、『まつろわぬもの』はまるでそこに何もなかったかのようにかき消えていく。
はらりと黒焦げになったおそらく召還用のカードが落ちるが、そのまま崩れ落ちていき、ただの粉になってしまう。
「はーーーー」
勝利したと言う喜びより、生き延びれたという達成感が全身を充たす。
一瞬も気を抜けない格上の相手だったからだろうか、気が抜けると共に急激な疲労が襲ってきて、すとんと体から力が抜け座り込んでしまう。
周りを見渡すが皆同じような感じだ。
唯一立っているのはルカだけで、ノーラは大の字に倒れているし、魔法使いや僧侶も両膝を着いてしまっている。
シオンも片ひざをついて息を整えている。
「なんとか、なったな」
万感の思いでつぶやく。
「ええ、生存に乾杯ですよ。」
魔法使いが賛同する。
「やれやれ、じゃわい。正直勝てるとは思わんかったぞ。」
後方に退避していたクルトがやってきて手を貸してくれる。
「とりあえず今日はもう休みたいな。」
「その意見には完全に同意じゃが・・・アレはどうする?」
顎をしゃくった先には、先ほどまで『まつろわぬもの』がいた地面。いつの間にかその地面に扉が出来ている。
「学園迷宮にさらに地下に向かう扉があるなんて聞いたことないぞ。」
「ワシもじゃよ。」
とはいえ、正面にあるモノを否定することも出来ない。
「とりあえず学園に報告だな・・・。俺らの手には余るよ。」
おちている刀も割と手に余る感じなんだけどな。
シオンのもっていたときとは明らかに異なる意匠になっている上、刀身の輝きも違うからつい鑑定してしまったのだが、早速後悔しそうだ。
武器名:『斬り返しの刀』 分類:刀 品質:名品 効果:『退魔』 スキル:『斬り返し』




