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閑話 シオン視点

なんだかパッとしない奴だな、というのが最初に彼に抱いた印象だ。

その印象はすぐに塗り替えられることになるのだが・・。


過去にルカと共に何度かパーティとして迷宮に入ったが、他のパーティメンバーは学生と言うことを考慮してもひどい有様だった。

攻撃にどうにも難のあるルカではあるが、その『盾』の使い方は一級品だ。

おそらく、1対1なら大半の敵の攻撃を長時間にわたり捌き続けることが出来るだろう。

にもかかわらず、敵を倒せないならば用が無いとばかりに早々と切り捨てられる。


私自身は、ルカは戦闘での運用次第では十分に使える思っていた。

単純に、最も苛烈な敵にルカを当て、他の敵を倒すまで相手にさせていれば良いだろう。

なんと言っても私自身は防御がダメだ。ルカが私への攻撃も併せて防御し、ルカの代わりに私が敵を2人分しとめる、それで当面は十分回るだろうと考えていた。

学生だと言うことを言い訳にするつもりはないが、最初から何もかも出来るはずがない。

卒業するまでの間に、ルカは攻撃を、私は防御を、ある程度できるようになっていけばよいだろう、と。

しかし、それを許容してくれるパーティはなかった。

私だけならば受け入れると言われたことはあるが、正直話にならない。

自分の能力はその限界も含め、自分が一番把握しているからな。

私はルカがいなければ戦えず、ルカは私がいなければ戦えない、その頃にはそういう戦闘スタイルがはっきりしていた。

あとはそれを許容するパーティリーダーを探すしかない。


最初は私がリーダーをすることも考えたのだが、他人を使うと言うのはどうにも苦手だったし、付いていけないと逃げられたのも一人や二人ではない。

色々と試行錯誤を繰り返しているうちに、他のパーティは大体決まり、他はこちらから願い下げのような連中を残すのみとなり、私達は新入生が来るまで迷宮に入るのをあきらめることにした。

新入生が来るまでの間、個人スキルの特訓と共に、ルカは攻撃を、私は防御を、それぞれ必死で特訓し、そうこうしているうちに日は流れ、あっと言う間に新入生が入ってきた。

何度か迷宮に入って単位を取れていたのと、個人で必要な単位を抑えていたために1期生として残ることは出来た。

ルカにも、新入生で見込みのありそうな奴がいたら無理やりにでも連れて来い、と言ってはいた。

早速連れてきた新入生が探索者だというのには驚いたが、私の不意打ちを(本気ではなかったが・・)受けれると言うのであれば、実力はそこそこあるだろう。

あとはまあ、なし崩しにこちらの思惑を受け入れさせていけば良い、そう考えて彼がリーダになることを承知したが、彼の話を聞き進めていくうちにそれは大きな間違いだと言うことに気づいた。


ルカが防御が得意で私が攻撃が得意ということまで考えたパーティの配置や、こういった敵の場合はどうするという方針、われわれのパーティにとっての「脅威度が高い」敵の判断などなど・・

私が漠然としか考えていなかった運用方法がどれだけ形になっていないかを突きつけられた気分だった。

正直、彼を侮っていた。

いや、彼だけではない。探索者と言う職業そのものを軽視していた、と痛感させられる。


探索者を身近に持つことが多い一代貴族の多くが知っているが、探索者というのはそもそもにおいてあまり割りに合わない職業なのだ。

たしかに、鍵を開けたり罠を解除したりと言ったスキルは有用ではあるが、根本的な話として、「探索者が罠や鍵を解除するのは当たり前」なのだ。

それは戦士に求められるのが敵を倒す『技』であるのと同様のことで、わざわざそれを言い立てて「特別な事」と言うのはおかしい。

罠を解除しなければパーティが全滅するかもしれない?・・・それは戦士が敵を倒さなければパーティが全滅するのと同じことだ。

そして『迷宮』の中で多いのは罠か?・・・そうではない。圧倒的に魔物である『敵』だ。


迷宮で一番活躍するのは誰か?

前線で敵を倒す戦士、魔法にて敵を倒す魔法使い、傷ついたものを回復する僧侶、と考えていくと探索者は一番最後だ。

結果として、探索結果たるアイテム配分の際にもっとも不利な立場に立つのは探索者となる。

実際、探索者で一代爵を取得した人物は戦士や魔法使いに比べると圧倒的なまでに少ない。

それは我が国だけではない。他の国でも同じだ。


また、探索者は将来性にも乏しい。

仮に一代爵に取り立てられるような功績を残せなかったとしても、戦士や魔法使いは引く手あまただ。

腕の立つ戦士はどの国も欲しがるし、貴族の家庭教師や用心棒等需要が多い。魔法使いや僧侶といった者も同様だ。

しかし、探索者はどうだろうか?学園都市などで一定の需要は確かにあるだろう。・・・だがそれだけだ。

迷宮では重宝される鍵開けの技は、迷宮を一歩出れば犯罪の技だ。

冒険者として熟年まで生き延び、パーティを解散するという幸運に見舞われたとしても、探索者だけは国からそのスキルを封じられるケースが非常に多い。

結局、最後まで光を浴びることができない職業なのだ。


かといって、探索者のなり手がいないとそれはそれで困る。

そのため、どの国も決してそういったデメリットを公表はしない。だが、歴然として差別されている、それが探索者の現状だ。


しかし、彼の言う「索敵」を探索者がこなすとすればどうなるだろう。

不利な敵と戦闘を回避できる、互角な敵に先制できる、そういった事がどれだけ大きい利点かはいまさら言うまでもない。

それが出来なかったとしても、「有利な場所で」あるいは「有利な状況で」敵と戦えるのならば、パーティ全体としての負荷が大きく下がるのは間違いない。

そういった状況に導ける探索者はそれだけでパーティのかなめと言えるだろう。


探索者の良し悪しでパーティの戦闘力が大きく変わる、冒険者にそういった時代が来る、彼の話にはそういう未来すら感じ取れた。


「ルカ、何者なんだ・・彼は?」

甲冑の中から出てきて、ふわふわの長くて黒い耳がぺたんと顔に引っ付いているルカに問いかける。

ルカはミュウ族の中でも少数の『ヒューイ族』で、大きくてふわふわな長い耳が垂れているのが特徴だ。彼女の一族に代々伝わる『操衣術』と呼ばれる特殊なスキルで甲冑を操っているため、甲冑を着ているときは単語程度しか話せない。

甲冑を脱ぎさえすればちゃんと喋れる・・・んだけど、脱いだ後も要点ばかりになりがちなのが難点だ。

「・・・ボギーキャットの攻撃を見切れる。」

「なっ!!」

よくやったでしょ、褒めて?と言わんがばかりの表情でこちらを見つめているかわいらしい妹分の頭をぐりぐりとなでる。

私の不意打ちを防げたのも納得だ。

しかし、それならそれでまた別の疑問が出る。

「探索者と言うのは本当なのか・・?とてもそんな腕前とは思えないのだが。」

「たぶん嘘。」

「なぜそういえる?」

「転職。魔素不足。」

「?・・・転職時に魔素不足を起こしたということか?」

コクコク。

「どの程度不足だったのか知ってるか?」

フルフルと首を振ってから、

「多い。」

「数は知らないが多いということか。それで探索者(下級)?それはないだろうな。」

コクコク。

そのうちこっそりと生徒手帳でも見るか?いや、話してくれるのを待つべきなのかも知れないが。

「鍵のジジ。」

鍵のジジとは祖父のパーティに参加していて、今では鍵屋として生計を立てている爺さんのことだ。

確か、探索者の上級職「財宝探索者(上級)」と本人は言い張っていたな。

「それほどか。」

どちらにせよ明日の探索である程度実力は測れるだろう。

そう考えに沈んでいた私は、そのあと呟くようにルカが言った言葉を聞き逃してしまった。

「たぶん・・・それ以上。」

どれだけ書き直してもうまく伝えれない件。

ルカの耳は毛がたくさん生えているダックスフンドの犬耳をイメージしてます。

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