四話~事情聴取と星夏と密会と~
事後処理を他の班に任せ俺たちは学園に召集されて戻って来ていた、何でも生徒会側から事情聴取をするらしい。
生徒会室で座りながら待つこと五分、十人程の生徒が入って来る、その中には見知った姿があった。
「和紀に悠里?」
「お疲れ」
「よっ」
「あ、言い忘れてた。この二人生徒会役員なんだ、しかも一歳年下」
おい怜そう言うのは最初に言おうか、年下ってことは飛び級か。ウィザード学園は実力が伴っていれば飛び級できる制度がある、生徒会に入ってるほどの実力があるんだから当然か。
最後に生徒会長と星夏さんが入ってきて正面の椅子に座る、それと同時に他のメンバーも座った。
「それではこれから報告を聞かせてもらうけど、構わないかい?」
「はい」
「では最初に、悪魔は何体くらいだった?」
会長がすぐに質問をしてくる、しかも後に報告書で伝えられるような内容を。
答えないわけにはいかないか。
「少なくても百以上二百以下ってところです」
「そうか、ではクラスは」
「下級から中級クラスでした」
茉莉が俺に続いて答える、時々力のある奴も居たしそんなものだろう。
でもあれだけの数を召喚した術師の方が気になる、あんな魔法使いは中々居ない。
「それ程の数を良く二人で押さえたね」
「いや、大体は茉莉と星夏さんがやりましたから、俺がやったのなんか十体程度ですよ」
なんて嘘を吐く、実際は五十程度狩ったけど今学校で俺の評価されているレベルではその程度だ。
横で茉莉が文句を言いたそうにする目で一瞬見てすぐにあきらめ顔に変わる、どうやらこっちの事情を理解してくれたみたいだ。
「…………」
「それは無い」
と黙っていた他の生徒が口を開く、一人は少し体つきのいい男ともう一人は少し背の高い男だ。
「秋良、大久保先輩、それはどういうことだ?」
「俺は遠くから見てたけど、少なくても五十は狩ってた」
「そうだな、近くで見てたし」
この二人援護できるくらいの距離に居てこっちを手伝わなかったのか、いい性格してるなおい。少しくらい文句言っても問題ない気がしてきた。
「あの、二人は……」
少し畏まったように沙希が質問をする、確かに誰だこの二人。
「少し筋肉なのが三年会計の大久保健太、背が高いのは二年書記の久瀬秋良よ。というか二人とも近くに居て手を貸さなかったの?」
思いっきり生徒会幹部かよ、だからあの時気配を一切感じなかったわけだ。
「行こうと思ったら星夏さんが来たんですよ」
「そうそう、俺たち昼の任務の帰りだったし」
「……そう、次からは手伝いなさい。手遅れになってからじゃ遅いんだから」
「その件は後だ」
会長が話を中断する、これ以上追及されると厄介だがどうするか。
話が止まり会長に紙の束を見始める。
「どうするの兄さん」
「どうするもこうするもない、学校での評価じゃどう考えても俺があそこまでできるとは思えないだろうし」
「学校で本気出さないでやるからだよ」
「そうそう」
茉莉と怜が厳しい、俺だって本気出そうにも色々あって学校じゃ出せないんだよ。くそう不憫だ。
「…………君の評価を改めなくてはいけなさそうだ」
「そりゃどうも」
紙束を置いて俺を真剣な表情で見る会長、あらかた紙束は書記からの報告書ってところだろう。
「そうだ、君たちは襲撃者のことをどう思う?」
「…………」
「え、そうですね……」
いきなり話を逸らした、俺の話題をする気はないのか?
「黎斗くんはどう思う?」
「魔導師、または賢者かあるいは大賢者クラスだ。あんなに軽々しくルーンを使ってくるんだ」
魔法使いにもランクがあり初等部から中等部までは魔術師見習い、高等部から卒業した者は魔法使いでその上がまだある。魔術師、魔導師、賢者、大賢者と上に行くには相当の実力や知識が必要だ。
故に魔術師以上に慣れるものは多くない。しかし大体の生徒会メンバーは既に魔術師ランク、それくらいの実力がないと生徒会には入れないのだ。
ちなみに教師たちも全員魔術師である。
「過大評価し過ぎだとは思うけど」
「あくまで俺の意見だからな、決めるのはあんただ。」
「そうだね、では……」
それから小一時間は続いた。
†
聴取が終わって、屋上で一人のんびりしていた。あの後は茉莉たちが受け答えをして俺は口を出さなかった、あれ以上会長に目を付けられるわけにもいかない。
「ふぁ~……」
「大きな欠伸ね」
しばらく涼んでいると星夏さんが後ろから話しかけてきた、いつの間にやって来たのだろう。
風で揺れる金色の髪を押えながら俺の隣にやってくる。
「疲れましたから、それと少し寝不足で」
「ちゃんと寝なきゃ、体調管理は基本よ?」
「そうですね」
不思議なことに星夏さんと話すのに違和感がない、むしろ久しぶりに出会ったような感覚だ。でも今日の今日まで会ったことはないし。
「……本当に黎斗、よね」
いきなり星夏さんが俺の事をじっと見つめてきた、さっきより表情が悲しげになっているのに気づく。
そう言えばこの人はなんで俺の事を知ってるのだろう? 特に目立つようなことはしていないし、何故俺の事を知ってるかは聞かない方がいいのだろうけど。
「そりゃそうですよ」
「ふふふっ、そうよね。変なこと聞いて悪かったわ」
俺の返事を聞くとさっきの悲しげな表情が嘘のような笑顔になる、不思議な人だな星夏さんは。
「それより銃で無茶ことするわね、レーヴァテインなんて神話級魔法何時覚えたの?」
やけに鋭いな、炎の剣の形をした魔法なんてかなりあるのに。俺がそんな超上級魔法を使えるのはやっぱり不自然か。
「なんでレーヴァテインだと思うんですか?」
「むしろ直線状に居た中級召喚魔十体を同時に一撃で葬る魔法なんかそうそうないんじゃない? 中には対魔法防御の結界を張っていたのもいたし」
おおう、それには全然気がつかなかった。なにせ銃で撃った上級以上の付与系魔法は制御できないという欠点がある、理由は俺がまだ実力不足だから。
「まあ、企業秘密で」
「企業じゃないでしょ、別にいいけどね」
やや不敵に微笑みながら俺に寄り添ってきた、風でふわっと星夏さんの髪が揺れると女の子独特の匂いが俺の鼻孔をくすぐる。
あの、近いんですが。
「せ、星夏さん」
「なに、黎斗?」
うわこの人確信犯だよ、わざとこんな至近距離にいるし。しかもこの状況誰かに見られたら最悪だ。
「近いッス」
「なによ~、文句ある?」
「それ横暴ですから!!」
マジで勘弁してつかんさい、なんか嫌な予感するんでお願いします。
「黎斗、そろそろ帰ろ……」
「……兄、さん」
がちゃっと屋上の扉が開いて錦戸姉妹がこっちを見て固まる、それだけならまだよかったんだけどね。
「副会長をたらしこんでるぞ」
「甲斐性なしだな」
「むしろ言い寄られてないか?」
上から和紀、悠里、怜の順番で三者三様である。こっちの気も知らないで言いたい放題だなおい。
「あら、みんなもう帰るの?」
「そうです、だから兄さんは借りていきますね」
「いいわよ、もう十分堪能したから」
「黎斗、行こうか」
「や、俺の言い分を……」
「「そんなのありません」」
見事な姉妹の連係プレイで俺は両脇を掴まれて警察に連行されるかのように引っ張られる、なんでこういう時の男の言い分は弱いんだろう。不憫すぎるぞ男。
「それじゃまたね、黎斗」
「ま、また……」
俺はそのまま校舎内に引っ張られていった。
「その後、黎斗の姿を見たものはいない……」
「どっかのゲームの全滅した時に出るやつだろそれ」
「多分明日はあいつのボコボコになった姿が見れるな」
と、最後に聞こえた会話はこれだった。助けたりはしないんですね、男の友情は儚い……。
「篠宮黎斗、か」
事情聴取を終えて黎斗たちが出て行った生徒会室で黒斗は一枚の紙を眺めていた、そこには黎斗の顔写真と今までの経歴などが書かれている。
一通り見終えると悠里が扉を開けて入ってきた。
「まさかあの篠宮家だなんて意外だよな」
「悠里、君は彼の事をどう思う」
「学園の評価なんか当てにならないくらい実力はあると思うな、ランクで言えば魔術師以上」
「そうか……」
確かにそうだろう、秋良たちの報告ではレーヴァテインを使ったとある。一介の学生が使えるような魔法ではない。
かなり魔術師としての素質があるのは確かだ。
「そうそう、黎斗が東京校で何調べていたかわかった、四年前の事件らしいよ」
それにしても悠里は仕事が早い、この仕事を頼んでからまだ一時間しか経っていないのだが。
「四年前……あれか」
「そう、一人の死人が出て当時の専属魔法使い五十人を二人で殲滅したやつ。首謀者は」
「しっ」
黒斗が人差し指を立てると廊下から誰かが走り去る音が聞こえる、どうやら盗み聞きされていたらしい。気配が完全になくなったのを確認してから悠里が口を開ける。
「盗み聞きなんて感心しないな」
「そうだね、まあ重要なことは話していないし大丈夫だろう」
今の話を聞いていた生徒を探そうか一瞬迷ったがそんなことをしている暇はない、スカーレットレインが横浜に居るおかげで生徒会は毎晩警備に出ている。
「ま、黎斗の監視はまだ続けるよ」
「頼む」
手を振りながら悠里が生徒会室を出て行きまた一人になる。
「篠宮家のあの力、欲しいな……」
最後にそう呟いて紙をゴミ箱に捨てた。
一ヶ月ぶりの更新です、久しぶりに書いたんでなんか微妙なんですよはい、続けて書かないと大変ですね。
これからはちょくちょく更新していこうと思います