04 その後輩、情緒不安定
情緒不安定。浮かれたり、積極的だったり、それが以前までのたかの状態だったが、今は死んだ魚のような眼をしている。
今は学年末で、私たちの活動は一番忙しくて大変な時だ。この時期にはあたしを含め、局員、おもに主力メンバーが情緒不安定になりやすくなるのだが(おもに先生との話の食い違いで)。明らかにたかのはあたしたちとは違う理由での情緒不安定にしか思えない。
(わかなか…? そういえば最近、アプローチがぱったりとなくなったな)
そんな考えはあったものの、自分の仕事で手がいっぱいいっぱいで、聞く暇もない。第一、何だってあたしは他人の恋愛にこうも熱くなるんだろう。小学生のころから他人の恋愛話を聞くことが好きで堪らない。その反面、自分の恋愛について話すのは苦手だった。だから自分の話になると早急に話を終わらせようと策略したし(実際、わかなとけいとは鈍チンだから可能だった)、ほんの少し話して置いて後は何もないと言っておけばそれで終わる。一回だけどうすればいいか分からなくなって、好きな人本人に相談するという奇行も犯したことはあるが、それは葬り去りたい過去として絶対に話したりはしない。
と、それは置いておいて。
情緒不安定は厄介だ。あたしなんか特に他人に影響を及ぼすたちの悪い情緒不安定だからどうしようもない、と片付けられもしない。だけど、この逃げ出したくなるような仕事時に情緒不安定だからって伏せっているだけいて、仕事もしないっていうのは他人に影響を及ぼしていると思いませんかね…?
「ちょっと、わかな! あれどうにかして! 見ているあたしがイライラする…!」
「ちょ、夢! 無茶言わないでよ!」
「やかましい! 無茶だと分かってるわ!」
はっきり言って今のあたしの情緒不安定な理由にはたくさんのことが積み重なってできているんだ。あたしが必死で膨大なデータを前に奮闘しているっていうのに、談笑したり、一つの数人でやるはずの仕事に皆で群がって。それは後回しでもいいはずだろ! 優先順位ってものを考えろ! あたしだってやりたくないわ! こんな仕事。
「夢が怖い~」
「…そうだったねぇ。あたし、わかなとけいとには優しくするって言ってたもんねぇ。慣れるまで時間がかかるからさぁ」
自分では見えないけれど、とびきり優しい笑みを浮かべてわかなに言ってやる。以前にあたしの“優しく接する”の意味を言ってあげたら二人は“厳しいままでいい”と言った。二人が困るように立ち振舞って、演じることが楽しくて仕方がない。理想論を並べたら、局をまとめ上げるものとして優しく接して且つ、皆のためになる運営を目指すべきなんだろうけど、皆のため―――とりあえず運営していくために常識なんかを二人に話していくとあたしの喉が壊れるという、死活問題になる。
だから、面白くなればいい。崩れるなら、崩れられるところまで崩れていけばいい。
唯一、次期局長と二人が期待しているたかがわかなと意思疎通を成功させて、恋愛なんかに走ったときには、崩れていくだけでしょう?
「知ってる? 崩壊寸前のものは、慎重に補正していくより一気に壊して直したほうが早いんだよ」
「へ?」
「だから、…」
この局を立て直したかったら、一回壊しちゃえば? 崩壊寸前なんだから。その一歩がわかなとたかの仲なんだよ。
局が崩壊寸前で、たかの心は壊れかけてる。たかの心はわかなしだいで何とでも修復可能だけれど、手遅れのもの、あるでしょう? とりあえずは、直せるものから直していけばいいじゃない。