02 その少女、非情なり
「で? わかなの振り方って?」
「告白されて、返事を先延ばしにして、振ったの」
「うわっ、最悪。鬼か!」
ちなみに扉を2枚隔てた所に話題の人物がいるため、話は小声だ。
「いや、違うよ? 一番傷つかない言葉を捜したの〜!」
「だってわかな、付き合う気なかったんでしょ?」
「うん」
「先延ばしって、ちょっとは脈ありって考えるじゃん。バカじゃないの」
以前わかなは堂々と局内で『友達でいた方が皆でワイワイ楽しいじゃん』と豪語していた。振られた本人―――たかもそれは聞いていたはずだ。
「しかもわかな、断った後に何て言ったと思う?」
信じられない、といった風にけいとは問う。
「さぁ? 何言ったの」
「納得してないみたいだったから『じゃあ、付き合って何するの?』って」
さも当たり前だと言うように、何の疑いもなく言ってのけた。
「最悪だっ! 鬼以外の何者でもない!」
自分も過去にそれなりの振られ方があったが、ここまで非道なものは聞いたことがない。しかもそれは自分にも非があった訳で。まぁ、それはどうでもよくて。
「返事を先延ばしにしておいて、『付き合って何するの?』って、バカじゃないの!? 傷つかない言葉を捜したんじゃないんかい!」
「いや、捜したよ?」
「捜してねぇよ、お前はただ傷口に塩を摩り込んだだけだ。塗ったんじゃない。摩り込んだ、だ」
振り方、ってものがあるだろう。
「でもね、わかなはね、今まで通りにって言ったんだよ? でもたかが意識し過ぎて行動が…」
「何」
「わかなが氷で滑って転んだとき、手を差し延べてきたの! 気付かないふりして自分で立ったけど!」
「手を、って…。さすがにそれはないわ。どこのマンガの世界だよ。てか今時そんな描写のあるマンガなんか見たことないわ」
だんだん後輩が痛い子に見えてきた。
「たかってそんな子だったんだ…。何かショックだ。っていうか、今まで通りになんて行く訳無いでしょ」
「わかなは今まで通りだもん」
「たかが今まで通りにできる訳無いでしょ。告白された側より告白して振られた側の方が気にするの。分かる? 気にする時点でもう今まで通りじゃないの」
何も付き合え、って言っている訳じゃない。ただ本当に相手を傷つけないように、相手の気持ちを汲もうと思っていたなら、傷口に塩を摩り込むような言葉は出ないはずだ。
「確かにたかの行動にもびっくりだけど、わかなも相当、酷い」
「う〜…」
何が「う〜…」だ。それで傷つかないと思ったあたりがどうかしてる。
「でも夢のも結構…」
「何が?」
「ほら、小学生のときの…」
「友里、余計なことはいいから」
そんな思い出したくもない。もう何年も前のことだ。それに確かにあれはわかな以上に酷かったかも知れないな、って思ったけど、あれは前々からの相手の対応の方が悪かった。
「で、そんなことも放っておいて。とりあえず、わかなと友里の言う通り、たかの言動を観察してみるわ」