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元社畜、異世界転生ギルドで過労死寸前。 それでも「普通じゃない」と言わずにいられなかった  作者: naganaga


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第6話 温かいものは、判断を鈍らせない

主人公は特別な才能もチート能力もありません。

ただの、どこにでもいる普通のサラリーマンです。

ブラックすぎる異世界ギルドで、

「それ、普通じゃないですよね?」と

思わず口にしてしまったら、どうなるのか。


ギルドの昼前は、朝ほどの混雑はない。

だが、気を抜ける時間帯でもなかった。


「次の方、どうぞ」


ナーミは、いつもより落ち着いた声でそう言った。

喉が痛くない。

頭も、ぼんやりしていない。


(……あれ)


それだけで、少し驚く。


以前なら、この時間にはもう集中力が切れていた。

無意識にため息が出て、

書類の文字がにじんで見えていたはずだ。


冒険者が差し出した依頼書を確認しながら、

ナーミは自然に質問を重ねる。


「野営は何日目ですか?」

「食事は、取れています?」


冒険者は一瞬きょとんとしたが、正直に答えた。


「乾パンと干し肉ばっかりでさ。

 火は使ってるけど、まあ……適当だな」


「でしたら、これを」


隣のカウンターから、レイが小さな袋を差し出した。

布袋の中には、乾燥した葉と香草、少量の塩。


レイは一瞬だけ、手を止めた。

(……前の職場なら、

 こういうのは「余計なこと」って言われてたな)


それでも、引っ込める気にはなれなかった。


「鍋に入れるだけです。

 味も変わりますし、体も温まります」


「……それだけで?」


「それだけで」


冒険者は半信半疑のまま袋を受け取り、

数日後――再びギルドに顔を出した。


「なあ、受付さん」


声に、張りがある。


「今回、引き返す判断が早くできた。

 腹が冷えてなかったからか、

 妙に頭がはっきりしてたんだ」


レイは、その言葉を聞いて小さく息を吐いた。

(……やっぱりだ)


無理をする人間ほど、

「止まる理由」を外から与えないと止まれない。

ナーミは、思わずレイを見る。


(判断が……変わる)


早く進むこと。

無理をすること。

それが正解だと思い込んでいた。


でも、温かい食事ひとつで、

“引き返す”という選択肢が見えるようになる。


「助かったよ」


そう言って去っていく冒険者の背中は、

どこか余裕があった。


昼休憩。

ナーミは、保温されたスープを口に運ぶ。


(……あ)


体の奥に、じんわりと熱が広がる。

さっきまでの疲れが、すっと引いていく感覚。


以前の夕方は、

「まだ終わらないのか」と時間ばかり見ていた。


今は違う。


「ナーミ、最近どうしたの?」


同僚の女性職員が、ひそっと声を落とす。


「顔色いいし、

 動きも軽いよね」


「え、そう?」


「うん。

 前より……健康的」


ナーミは、思わず笑ってしまった。


制服は、少し前にサイズを替えたばかりだ。

無理な暴食が減り、

体がちゃんと動くようになった。


そのとき、足元で小さな気配がした。


「……?」


黒と白の猫が、受付台の影に丸くなっている。

誰の猫でもない。

いつの間にか入り込んでいたらしい。


「こら、ここはだめ」


追い払うつもりで言ったのに、

猫は一度こちらを見ただけで動かない。


「……まあ、静かならいいか」


レイが小さく呟いた。


それを聞いた上司が、眉をひそめる。


「余計なことを増やすなよ」


レイは何も言わなかった。


反論する言葉はいくらでも浮かぶ。

だが今は――

“結果が出ている最中”だと分かっていた。


ナーミは、言い返さなかった。


今日の仕事は、ちゃんと回っている。

処理も、対応も、判断も。


小さな改善は、

もう“気のせい”では済まされなくなっていた。


⚡次回、第7話⚡

仕事が終わり、ギルドを出たその先で――

ナーミは「自分の時間」を取り戻し始める。


********************

※更新は1日〜2日に1話を目安にしています。

是非感想などありましたらお願いいたします。

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