第1話「それ、普通に回ってないですよね?」
【過労で一度、死んだ。
だから次は、黙らない。】
異世界のギルドはブラックだった。
だが主人公は気づいてしまう。
「それ、普通じゃないですよね?」
改善が、波紋を呼ぶ。
前の職場で、俺は死んだ。
医者は過労だと言っていたらしい。
だが本当は違う。
「言えなかったこと」だ。
無理だと思いながら黙り、
壊れそうになりながら笑い、
全部、自分の中で処理しようとした。
結果、体が先に終わった。
だから次は決めている。
気づいたことは言う。
たとえ異世界でもだ。
冒険者ギルドの朝は、戦場だった。
怒号。足音。金属音。
依頼の張り紙を奪い合う冒険者たち。
血のついた袋を担いで戻る者もいる。
石造りの広間に、熱気と臭いがこもっていた。
その中心で――
受付は、ひとつしか開いていなかった。
「次の方、どうぞ」
カウンターに立つ彼女は、
一人で全てを回していた。
依頼受付。報告処理。精算。登録。確認。
書類の山は肘の高さを超えている。
(これは、一人の業務量じゃない)
少なく見積もっても三人分。
いや、ピーク時間帯なら四人分だ。
彼女は微笑んでいる。
だが目の下の影は隠せていない。
インク壺が三つ空。
記録札の束が未処理。
昼の鐘が鳴っても、水すら飲んでいない。
少なくとも三日は、まともに休んでいない。
「まだか?」
「報酬が違うぞ」
「急ぎだって言ってるだろ」
「少々お待ちください」
反射のように繰り返している。
背後の机では、男が腕を組んでいた。
現場を見ない上司の顔だ。
「受付は座ってるだけだろ」
「気合で回せ」
手伝う気はないらしい。
(典型的だな)
前の世界でも見た構図だった。
俺は列の後ろから見ていた。
全体の流れ。
詰まり箇所。
処理遅延の原因。
頭の中で分解する。
そして確信する。
回っていない。
「すみません」
声をかける。
彼女が振り向く。
「この受付、今ひとりですか?」
「はい。……何か?」
業務用の笑顔。
防御の表情でもある。
「普通に回ってないですよね?」
一瞬、表情が止まった。
「だ、大丈夫です。通常運転です」
嘘だとすぐ分かる。
上司が怒鳴る。
「おい! 何を勝手に話している!」
だが、今回は引かない。
「昨日の報告処理、遅れてましたよね」
「……なぜそれを」
「受付処理が詰まると、出発が遅れる。
依頼成功率が落ちる。
上への説明、困りますよね」
沈黙。
周囲が静かになる。
俺は続けた。
「五分、休憩を入れましょう」
「は?」
「結果的に早く終わります」
理屈は通る。
反論しづらい言い方を選んだ。
数秒。
「……五分だけだぞ!」
上司は去った。
彼女は呆然としていた。
「……ありがとうございました」
「いえ」
気まずい。
出しゃばるつもりはなかった。
「前の職場と、同じだったので」
それだけだ。
五分後。
処理速度が明らかに変わった。
筆が走る。
確認が正確。
判断が早い。
(やっぱりな)
人間は機械じゃない。
「どうして言えたんですか?」
彼女が聞いた。
俺は少し考えて答えた。
「言えなかった後悔があったので」
それだけだった。
かつて“美人受付嬢”と呼ばれた彼女は、
その日初めて――
人として扱われた顔をした。
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