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回想1 誘拐

王都の端にあるのどかな孤児院のある日の昼下がりのことである。


春麗らかな陽気。

庭では子供たちが楽しげに鬼ごっこをしており、シスターや神父が掃除の合間にその様子を微笑ましげに見ていた。


そんな中、目が血走ったひとりの男が乱入してきたのだ。はぁはぁと血でも吐きそうな息遣いと、遠目からでもわかるような汗の量。

整然とした装いは王城の近衛兵のそれであったが、異様な雰囲気をまとう男の視線は、一人の少女へと向いていた。


和やかな空気が一変して、孤児院には緊張感が漂う。

男は歩みを一歩進めた。その足がかすかな砂ぼこりを上げると同時に、子供たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。子供を守ろうと、神父とシスターが走ってくる。だが、一歩遅く、ひとりの少女が男に拘束された。


マリーダである。


「探しましたぞ!姫!どうやって、このような場所に!」


必死の表情と怒声に近い声量で言葉をかけられたマリーダの心臓が跳ね上がった。ぶわりと冷や汗が吹き出し、恐怖に体が震えだす。


「わっ、わたし、姫じゃない」

「何を申しますか!そのような嘘を!”あなたが姫でないはずないでしょう!”ほら!!帰りますぞ!」


喉から絞り出すような震える声での反論に、男は唾を吐き捨てるように叱咤をした。


「な、なにかの勘違いだ。どうかその手を離してくれませんか!」

「どうかどうか、おやめください」


荒れ狂わんばかりの男に神父とシスターは必死に縋り付く。

その声に追撃するように小石や棒きれが近衛兵に向かって飛んでくる。孤児院の子ども達である。


「は、離せよ!」

「そうだ!マリーダを離せ!」

「あっちいけーー」


「やめろ!やめないか!」


四方八方から攻撃を受けていた近衛兵だが、相手は所詮老人と女と子どもである。

男は彼らをいとも簡単に振り払った。

足に縋り付く神父を振りほどき、腕にしがみつくシスターを払いのけた。涙に濡れた子どもたちが渾身の力で投げつける物も、男は無情にすべて叩き落とした。マリーダは孤児院のみんなに必死になって手を伸ばしたが、その手は誰の手にも掠ることはなかった。すべてが男のすさまじい力で引きはがされ、マリーダは馬車へ押し込められた。


木の扉が、バタリと風を立てて締まる。


飛ぶように走り出した馬車は、追いかけてくる子どもらの泣き叫ぶ声を、あっという間に遠くへ置き去りにしてしまった。

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