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回想8 淑女の嗜みスリングショット

マダム・ミリーの授業から抜け出し、王宮内の庭の木の上で警備をやり過ごしている時のことだ。マリーはいつになく真剣な面持ちでマリーダに話を切り出した。


「マリーダ。ごめんなさい。あなたが努力をおこたっているとは微塵も思わないけど、あなたには剣の才能はないと思うわ」


マリーダは目を張り驚く。マリーダはマリーと同時期に剣の稽古をつけられていたが、マリーほどの上達はしていない。まだ三男兄さんからは一本もとることはできていない。


「えぇ、マリー。その通りね。私もそう思うわ」


こくりとお互いに頷き合う。そうしてしばしの間があってから、マリーはドレスの隠しポケットから、二股に割れた先端に紐が括りつけてある棒切れを取り出した。




スリングショット




マリーダの脳裏に同じものをにぎっていた下町のガキ大将がよぎる。


「でも、マリーダ。あなたは私より目がいいわ。あの窓の中は何が見える?私には見えないわ」


マリーダはマリーが指差した方向にある窓へと目をやる。


「マダムミリーが暖炉に焚べた薪のように顔を真っ赤にして眉尻を吊り上げてるわ。今日のお説教は長そうよ。」


マリーはクスクスと笑いながら、スリングショットと赤い果実を手渡してきた。


「あの窓を目掛けて打ってみて。目がいいから、いけるはずだわ。スリングショットは腕力もない女性でも扱える武器よ。ドレスにもこっそり仕込めるし。淑女の嗜みね」


腕力が人並み以上にある姫が何を言っているのだろう。スリングショットが淑女の嗜みとは初耳だった。

だがマリーダはその思考を飲み下す。


背筋を伸ばすと窓へと目をやりスリングショットを構えた。

目標は、窓の右下だ。あそこなら汚れがついても内側から拭き取れる。


すーっと深く息を吸い心拍を落ち着けると、実が潰れないくらいの細心の力加減でつまんでいた指先をパッ、と離す。



ビュッ、とスリングショットゴムが音を立てた。


間髪入れずに、狙い通りの窓の右下に赤い実がべしゃりとつく。小さく鈍い音がした。マダム・ミリーは怒りのあまりに窓に実が投げつけられたことなど気がついていない様子だった。


あの赤い実は甘酸っぱくて美味しいが口や指先が血塗られたように赤く染まるのだ。マリーとマリーダがはじめて王宮裏の森へといった時にご馳走してくれた。顔と手とドレスを赤く汚して帰り、王妃を卒倒させ、医療班が慌ただしく駆けつけ、マダム・ミリーに泣きながら怒られたのはいい思い出だ。


「当たったわ。マリー」


マリーダが落ち着いた声で言うと、マリーは花が咲くような微笑みを浮かべた。


「やっぱり。マリーダにはスリングショットの才能があるのだわ。剣でなくてスリングショットを極めてちょうだい。何があった時は、それで身を守るのよ。」


マリーダは頷きながらマリーの優しさに胸を熱くした。

ゆっくりとまばたきをすると、そっとスリングショットを握りなおした。

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