朝起きたら
掲載日:2025/12/01
朝起きたら、富士山の頂上にいた。
私は布団の中で目を覚ましたはずだった。
けれど、まぶたの先に広がっていたのは、雲の海と、静かな太陽だった。
ここがどこか違う山の山頂だとは、見紛うはずもない。
この景色を私は、何度見ても飽きることがなかった。
息を切らして辿り着いた者だけが見る、あの絶景がそこにあった。
ふわふわと沸き上がる雲が太陽の光で輝く。
遥か彼方に見える地球の稜線は地平線でも、水平線でもない。
空と雲によって地球が区切られている。
私はそれを「雲平線」と名付けた。
ここはまるで夢のよう。
寒くもなく、息苦しくもなく、陽の光が痛くもない。
心地よい風が、私をこの世界とひとつにしていく。
そう感じるほど、優しかった。
しかし、手足を動かそうとしても、まるで深い水の中にいるかのように重い。
さらに、まぶたの裏が、白く焼きつくように光っていて、心臓の鼓動がやけに静かだ。
それはまるで、自分の身体ではないみたいだった。
ふと、消毒液の香りが鼻を刺した。
そのとき、私は悟った。
死してなお、私はここに昇ってしまったのだということに。
──私は時間を忘れて、この美しい景色を眺め続けた。
雲平線のさらに上に、まだ知らない風景がある。




