気になるあの人
ふっと目が覚めて、まず見えたのは、天板の綺麗な細工。のっそりと身体を起こすと、周りは水色の清楚で可愛らしい部屋が広がった。細部までこだわり抜かれた豪奢な作りのベッド。その上で先程まで寝ていた自分に驚く。え、ここはどこ?そう考えているうちにだんだんと記憶がよみがえってくる。そして1番気になることは──
「セレスティアはどうなったのかしら…?」
堂々と押し込んだ本人が言えることではないけど、やっぱり気になる。あの時は必死すぎて後のことをあまり考えてなかった。まあ、どうにかなるはず!そう前向きに考えていると、ドアがノックされた。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
声が良い。少し高めなその声は、幼さを感じるが、誠実さと色気が混じったような。どストライクなイケボに変な声が出そうになる。そこは、意地で耐えたが。
(誰だろう…何故か聞いた事のあるような声。倒れる前に聞いたんだったっけ…?あ、考えてないで返事しないと)
「ええ、起きているわ。」
すると、躊躇いがちに扉が開く。
「…失礼します。」
そう言って入ってきたのは、執事服を着た黒髪の少年。
入ってきた瞬間にわかった。彼を知っている、と。体全体でそう示すように、鳥肌がぶわりとたった。でも、どうしてか靄が掛かったように何も思い出せない。じーっと不躾ながら眺める。思い出せそうで思い出せない。
「お嬢様、具合はどうですか?」
ドアから数歩歩いたところで止まった彼は、心配そうに、美しい宝石のような赤い瞳こちらに向けた。
「っ……!!」
その瞬間、稲妻のような衝撃が全身に駆け巡った。
(ん!?まってまってまって!?この子すごい似てない!?え!?うそでしょ!?
あっ…興奮で目眩が…)
「っ…!姫様!」
クラっと、よろけた拍子にベッドから落ちそうになる。ぎゅっと目をつぶり、衝撃のために身構えた。が、体が暖かいもので包まれた。
恐る恐る目を開けると、彼は私を抱きしめるような形で受け止めてくれていた。体中から彼の体温がダイレクトに伝わってくる。少し、きついと感じるほどの締めつけに、必死に守ってくれようとしたことが伝わってくる。
(まってまって顔が近いよ!?心臓がっ!止まるっ…!!)
あまりの状況に呼吸の仕方が分からなくなる。
「大丈夫ですかっ!?」
「………ええ、ありがとう」
顔から火が出そうだ。完全に茹でだこのようになっているだろう。なんならたこに赤さ勝負を申し込んでもいいくらい、赤くなっていると思う。
息絶え絶えに何とか返事をすると、彼はほっとしたように息をはいた。そして、密着していた体をゆっくりと離した。いまさっきまで呼吸すらままならなかったのに、無くなってしまった体温が恋しく感じる。
「体調が悪そうですし、顔色も悪いです。ゆっくりお休みになって下さい。お嬢様が倒れたら、屋敷の者達が皆悲しみます。話は、またお話し致しますね。」
そう言って私を、軽々と抱き上げた。
………お姫様抱っこで!!
(ヲタクなら誰もが妄想するシチュエーションを!!私が今!!!行われて…っ!?もう我が人生に悔いは無い…っっ!!うああ、いい匂いする。え、なに、え、あ、え!?)
床からベッドに乗せるだけなため、お姫様抱っこはほんの数秒だった。だが、しかし、イケメンの破壊力を舐めてはいけない。数秒で気絶しそうな攻撃力を持つのである。
あまりの過剰摂取に意識を飛ばしかけるのを必死に耐える。今意識を飛ばしたら明らかに変だ。しかも、今はセレスティアの体。彼女を変人扱いにはさせたくない!そう思い、必死に耐える。
ゆっくりとベッドの上に降ろして、丁寧に布団を掛けてくれた。そして、彼は、柔らかく微笑む。
「おやすみなさいませ。お嬢様…良い夢を」
(~~~っっ!!!!)
彼はそう言って綺麗にお辞儀をして、部屋を出た。パタン扉が閉じる音がする。
数十秒沈黙が落ちる。そして、耐えた諸々を解き放った。
「~~っ!!な、に、あれ…っっ!!!!ねぇ!?ちょっと、さぁ!?顔が良すぎではございませんか!?ええぇ…執事服…似合ってた…イケメンすぎる、目が幸せ、声綺麗すぎないか、優しすぎないか、可愛すぎないか、かっこよすぎないか…っっ!!!」
イケメンすぎて語彙力が皆無になっている。行儀悪く、大きいベッドの上でじたばたする。本当に、よく耐えたと思う。何がとは言わないが。夢のシチュエーションすぎて、爆発するのではないかと思った。比喩も何もなしに。本当にやばかった。
ひたすら湧き出る興奮をひとしきり零して、悶える。ようやく少し気持ちが落ち着いてきた。
私はぼふんっと勢いよく枕に突っ込んだ。そして、抑えきれない興奮を誤魔化すように大きなベッドの上でころころと転がった。
「……格好良すぎる…」
倒れてばかりで、心配を掛けてしまっている。でも、申し訳なく思うのもあるけれど、“かっこいい!!”という感情の方が大きい。
今後のために考えなければならないことも沢山あったのに、感情がごちゃごちゃと渦を巻いて、思考が働かなくなった。
「……もう考えないでおこう!」
いっそもう寝てしまって、色々なことを一旦忘れよう。今日は、考えないといけないことが起きすぎている。考えすぎて頭が痛いほどに。
決して現実逃避でも、推しに似た少年に当てられたわけでもない。多分!色々なことがあったから疲れただけなのです!おやすみなさい!!
通常は、「お嬢様」呼びなのですが、ふらついた時に咄嗟に出た「姫さま」呼びは、使用人の間で愛着を持ってそう呼ばれているからです。公爵令嬢なので、普通は姫さまと呼ばないのですが、母方が王女であり、父方にも王族の血が入っているため、姫と呼んでもいいなと思いまして。あと、単純に姫さまと呼んで欲しくて…笑




