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生きて欲しいと願う



───でもね…


セレスティアは、決意に満ちた瞳を揺らす。よく見るとその瞳は悲しみに溢れていた。


『やっぱり思ってしまうの。もしもわたくしの体が弱くなかったら、もしもわたくしのお母さまが王女じゃなかったらって。

何度も…何度も考えたわ。』


胸が詰まった。こんな小さな子に似つかわしくない、想像もつかないような悪意に晒された環境の中で、彼女はどんな思いで生きてきたのか。セレスティアは、こちらを見て困った顔をした。


『ごめんなさいね。貴女にそんな顔させて』


と言って、私の頬をその小さな手で包み込んだ。彼女の手はとても暖かくて、泣くのを堪えていたのに思わず涙が零れそうになった。なんて強い子なんだろう、この子は。


「っ…セレスティア」


私がそう名前を呼ぶと彼女は、キョトンとした。その顔はいまさっきまで大人びた顔で話をしていた時と違って、年相応で──


『えっ?』


彼女の戸惑った声が聞こえたが、もう止まれなかった。


彼女は、こんなに小さいのに家の事、自分のことについて大人より、いや、私よりしっかり考えている。そんな風になるしか無かった状況が、どれほど酷なのか、私には分からない。でも、そんな状況で必死に前を見据えて、大切な物を守ろうとして生きてきたセレスティアのことを、

そんな彼女のことを私は──…



───抱きしめた。



それはもう力いっぱい。もちろんそれだけで、今まで辛い想いをしてきて、大人びたセレスティアが無邪気に笑えるようになる訳ではないこともわかってる。でも、ただただ抱きしめたかった。


「っ…ふ……」

『セレナ?』


っ…せっかく我慢してたのに、堪えてた涙が零れてきてしまった。


「っ…ごめんね……私が泣いても何もっ…変わらないのにね。ごめんね。辛かっ…たよね。1人で耐えてきてっ…偉いね…」

『っ……』


セレスティアが息を吸った音が聞こえた。どうしたのだろうと思って、彼女の顔を見ようとした瞬間ーーー


『なんでっ…そんなこと言うの?』


先程とは違う、年相応な、少し幼い声で彼女は言い放った。少し驚いたが、やはり彼女はまだ幼く、大人に守られるべき女の子だと思った。


「セレスティア…今までよく頑張ってきたね。」


今私にできるのは、彼女の今までの辛かった記憶を想像して、抱きしめることだけ。自分を責め続けるセレスティアを少し慰めることだけーー


小さ体は震え、微かな泣き声が響く世界にぽつりとこぼした


『…わたくし頑張ったのよ』


私は静かに彼女の声に耳を傾けた。


「そうだね。よく頑張ったね。」


もっと思い切り泣いていいのに、声を抑えながら泣いていた。高貴な身分の彼女に、失礼にあたるかもしれないけれど頭を優しく撫でた。そうすると、彼女は嬉しそうに泣きながら笑った。


『…努力を認めてもらえることって、こんなに嬉しいものなのね。』


彼女は涙を貯めた目で真っ直ぐに私を見据える。


()()()()()()()()前に少しだけ話そうと思っていたのだけれど、セレナなら何も心配は要らないわね。』


そう言って彼女は、心から笑った───







この世のものではないかのように微笑む彼女に見惚れた。だが、思考が段々とクリアになっていく。


「え…それどういういう?」


セレスティアの意味深な言葉の意味を聞こうとした時、彼女の体がうっすらと消えはじめた。


「!?」


驚く私をよそに、彼女は自分の体を見て穏やかに微笑んだ。


『…もうそろそろ時間なのね』


「セレスティア…!?どういうことなの!?」


『…ごめんなさいね、セレナ。わたくし、もうこの体にはいられないの。短い時間だったけれど、貴女とお話できてとても嬉しかった』


彼女は笑っていた。でも、私の顔を見て困った顔で言う。


『大丈夫よ。そんな顔しないで。貴女は、この体に残るから…』

「っっそんなこと心配してるんじゃないっ!!」


思いっきり怒鳴った。彼女は驚いている。けれど、それどころじゃない。私は、セレスティアに消えて欲しくない。そして何より、こんな良い子を犠牲にしてまで、私は生きたくない。


「セレスティア!!あなたが消えさせないためになにか方法ってある!?」

『えっ…ええ…と……』


彼女は私が急に怒鳴ったせいか涙目でおろおろしてる。

たぶん、彼女の様子からして方法を知らないのだろう。そして今は、どうしようと慌てふためくよりも、冷静に解決策を見つける方が絶対に良い。

頑張れ自分。やれば出来るから。そう自分を奮い立たせながら、ただひたすらに頭をフル回転させる。人の命がかかっている。そう焦る気持ちを深呼吸して何とか落ち着かせる。


そして、導き出した答えは───…


「…小説では、依代があれば憑依できるんだよね……」

『え…?』


この方法は正直不安がある。だけど、このままだと、セレスティアが消えてしまう。それならば、何か手を尽くした方が絶対にいい。私たちに、迷っている時間は、ない。


──覚悟を決めた。


「ここがファンタジー世界なら、依代くらいあるはず…!お願いっ!」


私がそう言うと、何も無かったはずの場所に光が集まっていく。この光が、セレスティアをどうにかしてくれる確証は持てない。けれどやるしかないっ…!


「…一か八か!えいっ!」


『え…!?きゃっ!』


私は、セレスティアの背中を押して、彼女を光の中に押し込んだ。その途端たくさんの光が溢れんばかりに零れ出し、セレスティアを優しく包み込んでいく。そして時間切れだと言わんばかりに私の意識はまた遠くなっていった。









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