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不思議な夢



──倒れてからの記憶がない。


そのまま意識が途切れたのかな。そんなこと考えてみるけれど、ここが何処かすら分からない。ただ分かるのは、懐かしいような、始めて来たような、ふわふわした不思議な場所にいるということだけ。




***




どのくらい時間が経ったんだろう。何も考えられないから分からない。立っているか座っているかすらもわからない。でも、怖さは全くないから不思議。靄がかかったような纏まらない思考の中でぼんやりしていると、少し離れた所に人影が見えた。

無性に気になって、じっと見つめてみる。すると、あちらも私の存在に気づいたのかこちらに近づいてきた。


ゆっくりだが確実にこちらにやってくるその人、いや身長差的に子供かな。その子の顔は、全く見えない。ホラーな感じじゃなくて、ただ霧のようなモヤのようなものがその子の顔を隠しているみたい。


私とその子の距離が1m程になって、やっと顔が見えた。


「っ……!?」


思わず息を呑む。彼女のことを、()()知らないのに、自分がもう1人いるような感覚がする。彼女も少し驚いたように目を見開いた。けれど、


『あなたが、()()()()()()()()()ね。ごきげんよう』


そう少し悲しげに言って、儚く笑った。


──そこから、何故か自己紹介が始まって…


『わたくしの名前は、セレスティア・フォン・ソルステラ。貴女の名前は?』


(…こてりと美少女が可愛らしく首を傾けたらもう答えるしかないよね!?)


「わ…私の名前は、東条 芹那です。」


彼女は目をぱちぱちして


『セレナ?』


( …美少女って何しても可愛いのですか。可愛いけれど、すごい可愛いけれど、今の私にはダメージが大きすぎるっっ…!そして私の名前せりなだけど、せれなでもいっか、なんて言ったって美少女に呼ばれてるんだから)


「はい。なんでしょう?」


ここは大人の意地で、余裕なフリを…し……


『わたくしの弟可愛すぎじゃないかしら?』


「っそれはもう!!天使のように…いえ、天使以上に可愛いです!!」


…ようと思ったら、大人の意地がどこか遠くに行ってしまった。あれ。おかしい。


『そうでしょう!』


彼女は嬉しそうに、はにかんだ。ローレンへの愛情がひしひしと伝わってくる。いい姉弟だ。


けれど、彼女の表情に影がさす。


『……わたくしあの子に随分酷なことをしてしまったの』


悲しげに伏せられた長いまつ毛の陰が、瞳に落ちた。そして、何か考え込むように目を閉じる。その表情はとても辛そうで、苦しそうで。どうすればいいか分からず、ひたすら彼女を見つめた。

セレスティアは、決意したように目を開いて、私を見た。彼女のその決意に満ち溢れた瞳に吸い込まれそうになる。あまりにも強い輝きに、目を奪われた。


『急にここに来てしまって、驚かせたでしょう。これからのために、良いお話ではないけれど、わたくしの事情を聞いてくれないかしら?』


美少女の上目遣い頂きました。私には、聞くという選択肢しかない。そもそも、あの決意に溢れた瞳を見て、聞かない以外の返事はできない。了承の意味を込めて頷くと、セレスティアはゆっくりと話し始めた。


『わたくしはね、生まれた時から不治の病を患っていたの』


彼女は軽く言ったけれど、内容はとても重いものだった。彼女が言われなければ、病に罹っていると分からないほどに、彼女は明るかった。でも、その明るい笑顔だったのが一変し、ゆっくりと穏やかに話している。そこには、諦めや悲しみが僅かに見えた。嘘偽りないことだと分かる。


『わたくしが生まれたソルステラ公爵家は、ルーフェリア王国の3大公爵家のひとつで、由所正しい家柄でね。』


『しかもわたくしのお母さまは、他国の王女なの』

「すごいお嬢様なんだ…」


そんな私の言葉に、セレスティアは可笑しそうに笑う。


『ふふ、そう…ね。そんな高貴な血筋を辿ったわたくしは産まれる前から期待が高まっていたんですって。国交の証であり、血筋も王の血が混じっている。男児でも女児でも、上手く取り込めれば利益しかないもの。』


セレスティアは諦めたように苦笑した。


『でも、生まれたわたくしは体が弱く、病を患っていた…』


悲しげに。でも、仕方なさげに彼女は無理やり笑った。


『…お母さまは、私を産んだ数年後に亡くなってしまった。そして、お父さまは、侯爵家から新しいお母さまを連れてきたの。

その新しいお母さまとお父さまとの子が、ローよ。私の大切な弟。』


セレスティアは、ローのことを話す時すごく優しい顔をする。本当に大切に想っていることが伝わって胸が痛くなった。


『でもね、貴族というものは、母親の出身も大切でね…身分の高い母を持つが、体の弱い私。わたしのお母さまより身分が低い母を持つ元気なロー……』


私は勘づいてしまった。彼女が何を言おうとしているのかを──


『わたくしがいる(生きている)せいであの子に、たくさんの悪意が向いてしまったの』

「っそんなこと!」


…ないと言おうとした。しかしその言葉は、セレスティアの言葉にかき消された。


『あの子はね、勉強も剣術も凄く頑張って、優秀な成績を収めている。欠点があるとすれば姉の私のことくらい。「なんでも出来るのに何も出来ない病弱な姉より身分が低いなんて」「役に立たないお姫様の弟」「可哀想な子」などね。

わたくしのせいでローに、本当に…たくさんの迷惑をかけてしまっているの』


「…っ!?」


酷すぎて言葉が出なかった。そんな私を見てセレスティアは、苦笑いをする。


「…病気を患ってるだけのまだ小さい子にそんな事…っ!」


セレスティアは、私を見て綺麗に微笑んだ。



『優しいのね。セレナは』



『でもね、貴族社会はそういうものなの。』









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