涙のあとには
何度も何度も訴える。セレスティアには、私みたいな思いをして欲しくないから。
溢れる涙の中、一生懸命言い続ける。何を言ってるのか分からないまま、ひたすら必死に。
そうじゃなきゃ届かない。言葉で言わないと伝わらない。行動も、贈り物も、もちろん大事。けれど、「言葉」は、それらよりも遥かに気持ちが伝わる。そう、知っているから。
伝わって欲しい、この想いが、独りの寂しさを知るお父様に。
「1人で泣かないで…家族だからっ…!悲しいことも一人で抱え込まないで…っ…悲しみを抱え込むよりっ…分け合おうよ…っ!!」
あぁ、涙で顔が凄いことになってしまっている。それだけではなくて、お父様の服に涙がついてしまっている。けれど、暖かな体温を抱きしめ続ける。おねがい、どうか伝わって。
「…セレ」
名前を、呼ばれた。涙でぼやけた視界の中で、お父様の顔を見ようとした。
「なぁに?お父さま」
すると、ぎゅうぎゅうにきつく抱きしめられた。
「ごめんな……ごめんなっ…!こんな父親で本当にごめんな」
…凄く謝られた。ちがうの、謝って欲しいわけじゃないの。
「おとーさま……ごめんなさいよりありがとうのがほしいな…」
すると、彼はぎゅうぎゅうに抱きしめた手を緩めた。そして、自然とお互いに目を合わせた。綺麗な蒼色の瞳は潤っている。お父様も泣いていた。
「ありがとう…は?」
泣いている人には少し酷かもだけれど、私は、お父様の感謝の言葉が聞きたかった。じっと彼を覗き込む。力強く噛んでしまっていた形のいい唇が震えている。少し血が出ていた。
「ありがとうっ…!生まれて来てくれてっ…!俺と、ティファの元に来てくれてありがとう…っ!セレ…っ!」
…今度は凄い言葉が来た。びっくりして目をぱちくりしてしまう。そして、お父様を見ると、泣きながら、けれど確かに心から笑っていた。
その笑顔が、気持ちが伝わった証が、何よりも美しく、嬉しいものだった。
伝えられた安心感と、包み込まれる優しさに涙腺が緩んでしまって、いっそこのまま気の済むまで泣こうと、思いきり声を出して泣いた。こんなに泣いたのは初めてで。でも、嫌ではなかった。
少しだけ一緒に泣いていたけど、さすがに大人のが正気に戻るのが早くて。お父様が先に泣き止み、とめどなく溢れる私の涙を1粒1粒不器用ながら丁寧に掬ってくれていた。
***
泣き止んでしばらく経った頃
「…落ち着いたか?」
そう聞かれながら、お父様は私のおでこにコツンと彼のおでこをくっつける。小さい子扱いされているみたいで少し抵抗があるが、実際まだ小さいのでしょうがないと諦める。
「うん…」
目がしょぼしょぼする。泣きすぎたかな。でも、すっきりした。
「……なんで、戻ってきてくれたんだ?」
戻って来た?執務室にってことかな。そんなこと決まってるでしょう
「…家族だから」
彼はこちらを見る。
「家族だから……泣きそうな顔してるお父さまを、1人にしておけない、ううん、1人にしておきたくなかったの」
これで伝わったかな。私だってお父様のことを大切に想ってること。
「…そうか」
泣きそうな、嬉しそうな顔でお父様は笑った。そっと彼の顔に手を伸ばす。手のひらから感じる温かさに、ちゃんと居るってことがわかる。
ふわぁと欠伸が出る。彼はそれに気づいて、トントンと優しく背中を叩いた。
「ソファで寝るか?」
「うぅん…」
ソファよりも落ち着く場所があるの。
「おとーさま…だっこ……」
目の前にいるお父様に手を伸ばす。ソファよりも自分のお父様の方が絶対に落ち着く。お父様は、伸ばされた手を見て、凄く嬉しそうな顔をした。宝物を触れるように大切に私を抱っこしてくれる。
「おやすみ。愛しいセレスティア」
そう言って額にキスを落とされた感覚を最後に、暖かな体温に守られながら意識を落とした。
──セレスティアを抱くテオドールの手は、数時間前まで緊張で震えていた。しかし、しっかりと守るように娘を包み込んでいる手は、もう震えてはいなかった。
今の2人の姿は、誰から見ても父娘だった。




