愛と哀しみ
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また会うことをお父様と約束した後。お父様は、シルたちを呼んでくれた。部屋を出る時、お父様に手を振った。しっかりと手を振り返してくれた。それで用事は終わった、はずなのに
その時の表情が、どうしても頭から離れない。
───今にも泣くのを我慢しているような
「……シル、ラヴェル」
お父様は、私の前で泣かないように耐えてくれたんだと思う。その頑張りを無駄にすることはしたくない。
けれど
「もういっかい、お父さまに会ってくるから、お仕事戻っていいよ」
1人で泣くのは悲しいよ。凄く凄く悲しくて、辛くて、自分がどうしようもなく嫌になる……でもね、そんな時、誰かがそばに居てくれるだけで、凄く凄く心強いの。
「畏まりました」
「…分かりました」
聡い2人は何かを察していると思う。でも、了承してくれた。
「ありがとう…いってくるね」
今まで彼はきっと、ずっと1人で泣いていたんだと思う。でも、私は…セレスティアは家族だから、一緒に悲しみを分け合いたいの……どうか1人で抱え込まないで。
とととっと廊下を走る。そして、あっという間についた。そこまで離れていなかったから。
扉から何も聞こえない。何時でも来ていいと言われたから今度はノックせずに背伸びして扉を開ける。お父様は先程までいた部屋のどこにもいなかった。
(泣いてるところ、誰にも見せたくないよね)
部屋を見渡す。すると執務室の入口の扉よりも少しシンプルな扉を見つけた。仮眠室だろうか。
廊下に出ても、会わなかったということは、執務室にまだお父様がいるということ。でも、ここにはいないということは、この扉の先に…
少し呼吸置いて、高い位置にあるドアノブに小さな手をかける。
開いた瞬間、聞こえてきた。
「っ……っあ"ぁあっ……っっ!!!!」
耳を劈くような悲痛な叫びを……必死に押し殺したような声が。
お父様は、泣いていた。怒るような、泣き叫ぶような激しい感情が入り乱れた声で。唸るような、喉を掻きむしるような辛い、苦しい、痛い感情が伝わってくる。
その痛々しい姿は、お母様への愛が、苦しみとなって彼を突き刺しているようで。
お父様は、私が入ってきたことに気付いたのか、慌てて涙を拭いて隠す。
「…っどうか、したのか?」
お父様は掠れた声でそう聞く。隠しきれなかった瞳の奥の悲しさは、深く深く吸い込まれてしまいそう。
この人はきっと、娘の私に心配させない為に弱いところを隠してくれる。今だってそう。頭ではわかっている。彼の配慮を、無下にしてはいけないって。でも、私は、答えることができなかった。
彼の姿が、あまりにも悲痛で
ぽたぽたと柔らかい頬に水滴が落ちてきた。彼の打ちのめされた姿を見ていたら、悲痛な叫びを聞いていたら、物凄く、悲しくて。苦しくて、痛くて。
私の様子を見て、慌ててお父様が駆け寄ってくる。辛いのは、悲しいのは、彼なはずなのに。
「っ…!?セレっ!!」
(ごめんね…困らせてるね。こんなつもりじゃなかったんだけどな…)
そう思っているのに、水滴は止まってくれない。
「どこか苦しいのか?痛いのか?」
心配そうに私の顔を覗き込んだ。いまさっきまで苦しそうに泣いてたのはお父様なのに。そんなことなんて忘れたかのように、私のことを心配してくれる。なんて優しい人なのだろうか。駆け寄ってきてくれたお父様を衝動的にぎゅうっと抱きしめる。
「…っおとーさま……悲しかったよねっ…くるしかったよね…っ……」
ぽたぽた止まる気配のない涙を流しながら一生懸命伝える。
「ごめんね…おとーさまがつらいのに、家族なのに、気づけなくてごめんなさいっ…!」
“気づけなくてごめんなさい”無知は罪だと誰かが言った。
だってそれは、ほんの少しだけでもその事を気にかければ、わかったことだから。でも、私は気づけなかった。前も、今も。
だけどね
「でもね、わたしが守ってあげるからっ!!だからっ!!」
お願いだから…
「泣かないで…っっ」
心からそう願った。




