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父親



大きな執務室の扉を開けた。


思っていたよりも眩しくて、思わず目を細める。明るさに慣れて、見た先。そこに居たのは、シルと、美しい男の人だった。シルはこちらを見て少し驚いた顔をしていたが、スっと綺麗な所作で頭を下げた。

そしてもう1人は、蒼色の美しい瞳をこちらに向けて、固まっていた。けれど、私はそんなことなど気付かず、彼に見惚れていた。


誰もが振り返るほどの顔の良さ。艶やかなシルバーグレーの髪に、深い蒼色の瞳。品のいいスーツに身を包み、立ち姿だけでも伝わる上品さ。そして滲み出てくる色気。


(イケメン、だ……)


思わず細かいところまでまじまじと見てしまう。あまりの美しさに圧倒されていた時、彼はぽつりと零した。


「…ティファ」


(……?人の名前、かな。誰のことを言っているんだろう。)


そう思ってちらりとシルを見る。すると、シルは痛ましげに固く目を瞑っている。これは、どういう状況なんだろう。


「…あの」


訳が分からないまま、とりあえず話しかけてみる。すると、固まっていた男の人の肩が跳ねた。ちゃんと聞こえてはいるみたい。


「わたくしのお父さまですか?」


そう問いかける。すると、皆ピシリと固まり、部屋の中が沈黙に包まれた。


(…なんか無言になってしまった!?聞いちゃいけないことだったのかな。でも、お父様を間違えたらダメでしょう!?)


慌てる内心を落ち着かせながら、ほかの人たちを伺う。でも、誰も動こうとはせず、固まってしまっている。どうしよう、と困り果てていた時。気まずい沈黙を破ったのは、意外にもラヴェルだった。


「…旦那様。この御方は、貴方の娘のセレスティア様です。」


ラヴェルがそう言っても、旦那様と呼ばれた人は、私を見たまま固まっている。そんな状態のお父様を見て、ラヴェルは呆れたように大きなため息をついた。


「はぁ、もう!!……旦那様が勇気がなくて、会わなかった歳月もお嬢様は成長されているんです。小さな赤ん坊のままではないのですよ!」


彼がそこまで言い切ると、お父様と思われる人は、はっと目を見開いた。


「…そうだな…そうだったん…だな」


うわ言のようにそう呟くと、虚ろだった目が、意志を持って私を見た。そして、恐る恐るこちらに近付いてくる。

その様子に、扉の外から感じた威圧感や怒気はなかった。少し離れたところにゆっくりとしゃがみ、目線を合わせてくれた。


「……久しぶり、だな。いや、はじめましてか。」


お父様が、想像していたよりもたどたどしく挨拶する。驚きながら、見つめてみる。よく見ると、彼の顔が緊張で強ばっているのが分かった。


「セレスティア。俺は君の父親で、テオドール・フォン・ソルステラという者だ。……父親として名乗っていいかも分からないが…な…」


そう言って、笑った。笑ったと言っても、無理やり笑顔を作ろうとして失敗したような切ない表情だった。

最後に何か呟いた気がしたが、あまりにも小さな声に、聞き取ることが出来なかった。


(ちゃんとお父様で合っていたのね、良かった。)


「お父さま!」


呼んでみる。セレスティアのお父様が分かり、少しづつセレスティアのことを知れていると実感できて、とても嬉しい。思わず笑みがこぼれる。


「………ああ」


短い返事が返ってきた。2つの溜め息が聞こえた。絶対シルとラヴェルのものだ。公爵様の目の前で堂々と溜め息なんてして、大丈夫なのかな。


「…セレスティアと2人で話したいのだが」


お父様がそう言う。すると、シルとラヴェルが心配そうにこちらを見た。


(お父様なんて見えてないかのような態度だなぁ…そんなに露骨に心配しなくてもいいのに。というか、セレスティアのお父様なのだから、セレスティアのことを色々知れるんじゃないかな。)


「わたくしもお父さまとお話したいです」


にっこにこで頷く。すると、シルは驚いた顔ような顔をしたが、私がいいのならと“かしこまりました”と言ってくれた。

でも、ラヴェルはずっと難しい顔をしていて、中々手を離してくれない。


そう、今の今までずっと手を繋いでいたのである。


(こんなにかっこよくてイケメンで、優しくて美しくて推しに似た人と…!心臓バックバクで、呼吸も止まりそう。むりだ、今の状況を冷静に判断してはいけない。普通に気を失ってしまう気がする。そして、右手の!!繋いでいる方の手汗が気になって仕方がない…!!)


「分かりました…」


彼はお父様と数秒見つめ合うと、しぶしぶと手を離してくれる。ほっと安心した気持ちと、


(もっと繋いでいたかったなぁ)


そう、思った。彼は、推しととても似ていて、近くにいるだけで胸が高鳴るような、緊張するような感情を覚える。手を繋いでくれた時の温かで強い手に、確かに緊張もした。


でも、"大丈夫"と言ってくれてるかのような安心感や背中を押してくれるような、そんな頼もしさも感じた。手汗はとても気になったけれど、勇気をくれたし、何より守られているように感じて。その優しさが嬉しかった。



とりあえず、手を繋いでくれてありがとうという気持ちで、笑って手を振る。

すると、ラヴェルも笑って手を振り返してくれた。


(ふぐぅっ…癒し……もう一生、手を洗えないかも。いや、洗わない!!あ、お父様とお話するんだった!)


緩みっぱなしの頬を何とか引き締める。パタン。扉が閉まる音によって、2人きりになったのがわかった。これから始まる会話に思いを馳せながら静かにお父様と視線を交わした。





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