執事の勇気
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スタスタと長い廊下を歩いていく。見れば見るほどため息がでそうなほど美しい造りをしていた。まるでどこかのお城のように細部まで美しい造形に圧倒される。さすが公爵家、お値段が違う。周りを眺めながら歩いていた。
…と言ってもシルに抱き抱えて貰っている私が自信満々に"歩いていた"だなんて言えないと思うけれど。
*
永遠のように続くと思っていた執務室への道。シルに抱き上げてもらって行ったら想像以上に早く着いた。私のこの小さな足で来るとどれだけの時間がかかっただろうか、そう考えると恐ろしい。本当にシルに感謝だ。そして、ラヴェルも一緒に居てくれて、目の保養…じゃなかった、目が会う度に勇気づけてくれるように微笑んでくれる。イケメンすぎる…
目的地である執務室の扉は、今でなければゆっくり眺めたいほど綺麗で繊細な彫刻が施してあった。
「…お嬢様、私が先に、遅れた経緯を話しますので、しばらくお待ちください」
…シルも感じたのかな。不機嫌なオーラが溢れ出ている目の前の扉に。ここは魔王の部屋か!!ってツッコミたくなるほど暗雲が出ているように見える。感じ取ったのは私だけじゃないのね、それは良かった。
ここに一人で立ち向かえるシルは凄すぎる。改めてシルを尊敬した。 隣にいるラヴェルをちらっと盗み見る。すると、彼もいつも通りだった。この不機嫌なオーラにあてられてないのも凄い。
そうこう思っているうちにシルは私をそっと下ろした。目が合うと、安心させてくれるように穏やかに微笑んだ。
そして彼は、慣れたようにノックして扉の向こうに消えていった。
セレスティアのお父様って、どんな人だろう。ふと思った。もうすぐ会えるであろう、扉の先の人物に思いを馳せる。セレスティアがこんなにも美少女だから、かなりな美丈夫なのではないかとは思う。けれど、この扉の先までわかる不機嫌オーラを放つ人物だ。凄く怖いかもしれない。改めて緊張が高まってくる。
そして、セレスティアとの関係も気になる。周りの人の様子から、セレスティアとお父様の関係はあまりいいものではないこと見えた。そんな関係の中で、呼ばれた理由が分からないまま、お父様がいる扉の前に立つ今の状況は、かなり危ないことなのかもしれない。鼓動が早くなっていくのを感じる。
シルは大丈夫だろうか。遅れたのは私のせいだから彼が怒られるのは嫌だな。
様々なことを考えながら待つ……つもりだった。けれど、よく耳を済ませれば会話が微かに聞こえた。思わず聞き耳を立てる。
『…セレ……の……は?』
シルとは違う声。きっとセレスティアのお父様だろう。分厚い扉を挟んでいるからかあまりはっきりとは聞こえない。
『…ん………す』
今度はシルの声。一体何の話をしてるんだろうか、そう考えながら、あまり聞こえない会話を盗み聞きして数十秒ほど経った頃だった。
『っ……!!……!』
大きな声が聞こえた。怒鳴り声だろうか?扉越しでもわかる迫力に思わず身震いする。よく聞き取れはしなかったが、シルの声ではなかったからお父様の声だ。
(もしかしてシル怒られてるの!?助けにいかなくちゃ…っ!)
手はガタガタと震えているし、出来るなら行きたくない。けれど、私のために行ってくれたシルのためにも、勇気を出して入るしかない。ゆっくりと扉に近付く。
深呼吸して、扉ををノックしようとした時──
ふいに手に暖かいものが触れた。思わず動きが止まる。
驚きながら手を見てみる。暖かいものの正体は、ラヴェルの手だった。彼の手が、小さな私の手を優しく包み込んでいた。
「…ラヴェル…?」
思わず声をかける。先程まで無言だったのに、急にどうしたんだろうか。
「一緒に行きましょう」
何故かそう言われて、微笑まれた。
(推しが、かっこい……)
じゃなかった…!!放心状態になった体を叱咤し、現実を受け入れられなくて、魂が飛んでいきそうなところを根っこを掴んで連れ戻す。
急に手を繋いでくれたから、私何かしたかな、と疑問に思ったけれど、今はそれどころじゃない。今の状況も、心の状態も。けれど、推しと手を繋いでいられるのならなんでもできる気がする。
「えぇ」
ラヴェルの手をギュッと握って、扉をノックする。推しがいれば恐れるものはない。中から何も返事がない。勝手に入ってもいいのかな、とりあえず開けてみよう!
大きく、立派な扉の前に立つ。よいしょっと背伸びしてドアノブを下げ、力強く前に押す。そして、ラヴェルの手を引きながら部屋の中へ入っていく──
いよいよお父様とご対面…!!




