惹かれるドレス
もうすぐお父様と約束の時間なのだけど
「お嬢様の白い肌にはやっぱりこの青色のドレスです!」
「いいえ!お嬢様の艶やかな御髪にはこの赤いドレスです!」
「貴女達…」
ドレス選びが絶賛難航中です。侍女長が呆れて溜め息をつくくらいには。お父様には、さすがに遅れそうなので、その旨を伝えて貰った。何度も往復させてしまって申し訳ない。
そう思っていると、仲良く言い合いをしていた2人は突然ぐるんと私を見る。しかも、とても期待の籠った、キラキラした眼差しで。前にも似たような事があった気が
「「お嬢様!どちらのドレスをお召しになりたいですか!?」」
(ひえっ圧が…どうしよう…どっちも可愛い……困った…!)
困りすぎて、思わず侍女長の方に助けを求めてしまう。侍女長は、私と目が合うと苦笑いして、ふぅと息をついた。
「あなたたちっ!!」
あまりの声量に私までびくりと肩を揺らした。もちろん、私よりも呼ばれた本人たちの方が、びくりと飛び跳ねるくらい驚いていたけれど。
「お嬢様を困らせるんじゃないと言ったでしょう…?」
「「申し訳ございません…」」
凄い。圧がすごい。そして分かりやすく、しゅんとする2人が可愛らしい。
侍女長さんが2人を諌めてくれたからドレス選びの戦いは収まったけれど、結局どのドレスにしようか。私だけでは、どれも素敵に映ってしまって、決められない。どうしようかと悩んでいると
「お嬢様、こちらは如何でしょう?」
侍女長が1着のドレスを持ってきてくれた。
「「「わあっ…!」」」
思わず侍女達と私の感嘆の声が揃った。それ程美しいドレスだった。
「すごく、きれいなドレスね」
ベールのような透き通った白から綺麗な深い紺色へと変化する生地に、動けば上品に広がる程度に重ねられたスカート。星が散らされたかのように、宝石が美しく縫い付けられているドレス。
そこにあるだけで、上品な雰囲気が漂っている。思わず、見惚れた。年相応な子供のようなドレスを着ることに抵抗があったため、とても理想的なドレス。しかも、好み的にもドストライクだった。
「これにするわ!」
そう言うと、侍女長は一瞬眩しそうな顔をして、嬉しそうに笑った。
「かしこまりました。旦那様が喜ばれそうですね」
「?」
何故お父様が喜ぶのかは分からないが、美しいドレスに勇気を貰う。
袖を通してみると、少し大きいように感じたが、とても着心地の良いドレスだった。デザインもこだわり抜かれており、着心地までも気遣いが伺える。着替え終わった頃、ドレスの言い合いをしていた侍女達が近付いてきた。
「お嬢様、目元が赤くなってしまっているので、少し白粉を塗りますね」
そう言って、優しく白粉を塗ってくれた。泣いてしまったから、赤くなってしまったのね。
「気づかなかったわ…ありがとう」
彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
「滅相もございません。今から旦那様に会うのですから、目いっぱいお洒落しましょう!」
そう、今からお父様に会うのだった。忘れていた。ふぅと息を吐いて腹を括る。
綺麗なドレスに身を包み、緊張の父娘の対話に向かおうと意気込んだ。
*
「姫様、準備が終わりました」
そう侍女長が声をかけてくれた。
「ありがとう」
「では、執事長とラヴェルを呼んでまいります。」
シルとラヴェルが部屋に入ってきた。
「…お美しいですセレ様。旦那様もさぞお喜びになるでしょう」
シルは、嬉しそうに私を見つめて褒めてくれた。綺麗な格好をしているという自覚があるため、誉められることが嬉しかった。
「では、参りましょうか」
そうシルが言って、部屋を出ようとするのを、慌てて引き止める。
「ごめんなさい、ちょっと待って」
きちんと止まってくれる。私は、侍女達の顔を改めて見た。
「貴女達のお名前聞いても良いかしら?」
そう言うと、彼女達は驚いた顔をしたが、嬉しそうに笑った。侍女長が一番最初に名乗ってくれる。
「ソルステラ家筆頭侍女を任されております。ライラと申します。」
彼女は、美しいお辞儀をしてくれた。つぎに、髪を乾かしてくれた侍女が名乗る。
「ティナと申します。」
最後に、白粉を塗ってくれた侍女が名乗った。
「ロゼッタと申します。ぜひロゼとお呼びください!」
「ライラ、ティナにロゼね…今日は可愛くしてくれてありがとう。これからもよろしくお願いね」
そう言って笑う。すると、3人がまた涙目になってしまった。私、今日だけで何回も泣かせてしまっているな、思わず苦笑いが零れる。
「セレスティアお嬢様、これ以上遅れるのは…」
(はっ!そうでした。シルに言われて思い出す。お父様に会うのでした…!!何回も存在を忘れてごめん…まだ顔も知らぬお父様…)
「わかったわ。では…行ってきます」
そう言って、ライラ達に手を振る。
「「「行ってらっしゃいませ」」」
そう言って彼女達は笑顔で見送ってくれた。同じ家の中にいるのに“行ってきます”は変だったかな、とは思ったけれど、まあいいかと思い直した。
さぁ、お父様のもとへ!




