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優しさを知る

ブックマークありがとうございます…!




こんこんこんとノックが響く。


「セレお嬢様、失礼致します」


そう聞こえて扉が開いた。その瞬間、小指をばっと音がしそうなほど急いで離して深呼吸をする。心臓がドキドキしてる。シルがこちらに来る音がやけに大きく聞こえた。


「…?セレ様とラヴェル、顔が赤いようですがどうかなさいましたか?」


"ラヴェル"って言うのね。名前までかっこいい、ではなくて!分かりやすく赤くなっているなんて恥ずかしい。両手で顔を押さえて、隠す。無駄な抵抗だと分かっているけれど。


「なんでもないわ!!」

「なんでもないです…!」


2人同時に返事をしてしまう。そんな私たちの様子にシルが笑う。


「息ピッタリですね」


シルの目が完全に孫を見る目だ。むうう…


「ところで、お父さまの件はどうなったの?」


話題を意図して変える。これ以上からかわれたら顔から火が出てしまう。

先程まですごく緊張していたのに、ラヴェルのおかげで少し忘れることができた。別の意味で緊張はしたけれど。


「『1時間後、執務室に』だそうです。その際の私とラヴェルの同行が許可されております。如何なさいますか?」


目線を合わせたシルは、優しくそう言った。お父様が気遣ってくれたか、シルが気遣ってくれたかは分からない。けれど、その気遣いが、優しさが、とても沁みた。シルとラヴェルが一緒に来てくれると思うと、とても心強い。


「迷惑でなければ、2人に同行してもらってもいいかしら?でも、忙しかったら断ってもかまわないわ」


問いかける。迷惑はかけたくないから、断る選択肢もあることをしっかりと言う。


「お嬢様より大切な仕事などございません。下々の者の都合まで気になさることはしなくていいのですよ」


そうシルは言う。『下々の者』あまり聞き慣れないし、感覚も全然分からないから気にするなと言われても気にしてしまう。でも、セレスティアを大切にしてくれている、ということはよく伝わってきた。


「確かに。お嬢様より大切な仕事などありません。ですので、喜んでお供致します」


ラヴェルは笑いながら言う。2人とも堂々と恥ずかしいことを言う、と少し恥ずかしくなったけれど、私を気遣ってくれていることは分かる。そして何より、一緒にいてくれると、とても心強い。だから、感謝の気持ちはしっかりと伝えようと思った。


「…ありがとう」


恥ずかしい事を言われすぎて、声が小さくなってしまったけれど、彼らはしっかり聞き取ったのか微笑んだ。


「では、お着替えを」


シルが手を鳴らすと待っていたかのように侍女達がサッと出てきた。いつの間に…


「さぁ、殿方は部屋の外へ。終わったらお呼びしますので」


そう年配の侍女が言うと、シルとラヴェルを部屋から追い出された。

手際の良さに感心していると、彼女たちが一斉にバッと私の方を見た。息ぴったりの行動にびくっと揺れる。


「さあ、セレスティアお嬢様…」


「「「楽しいお着替えを致しましょうか」」」


侍女達の目が完全に光ってる。本能が逃げろと警告を鳴らしてる!!誰か助けて!?




**




あっという間に脱がされて、お風呂に入って、マッサージをされて、化粧水やら乳液やら色々塗られて、体力的に瀕死状態だった。


「つ、疲れた…」


「少し頭を触らせていただきますね」


そう言って、彼女の手が髪に触れる。すると、濡れていた髪がサラサラと乾いていった。


「わぁ、すごい!」


マジックのように乾いていく髪に思わず感嘆の声をあげる。


「ふふっ姫さまはいつも寝ていらっしゃったので、初めて見るのですね。これは風魔法なのですよ」


優しく教えてくれる。


「いつも寝たきりだったセレスティア様が、ご自分の力でお風呂に入れるだなんて、神に感謝しなければなりませんね」


そう言いながら涙目になっている。そんなに病弱だったのね、セレスティア。こんなに心配してくれる人がいるなんて彼女は気づいていたのかな。


「違うわ。わたくしが元気になれたのはいつも心配してくれていた貴女達のおかげよ」


神様に感謝するよりも、心配してくれていた人への感謝のが大きい。私が、セレスティア本人でなくても、彼女のためにしてくれたということに、すごく感謝したくなった。


「お嬢様…」


彼女は、今にも泣き出しそうに目を潤ませる。泣かせる気なかったのに、どうしよう!?と焦っていた時。


「こら、気持ちは分からなくもないけれど、お嬢様を困らせてはダメよ。」


多分この中で1番偉いと思われる貫禄のある侍女。彼女の声がして、泣きそうな侍女が気を引き締めたのがわかった。


「申し訳ございませんセレスティアお嬢様。そして、ご忠告ありがとうございます侍女長様」


そう言って彼女は頭を下げた。この人が侍女長さんなのね。


「いいえ、わたくしは大丈夫よ。貴女がどれだけわたくしのことを心配してくれていたかが伝わってきたから。ありがとう。」


思わず微笑む。そうすると、侍女長が口を開いた。


「ふふ、セレスティアお嬢様は相変わらずお優しいですね。

…申し遅れましたが、回復なさったようで何よりでございます、姫様。」


そう言って綺麗な動作で跪くと、ほかの侍女も倣って、跪く。自分が、公爵令嬢だということを改めて示されるかのような態度に、少し困惑する。


「…頭を上げて」


できるだけ動揺を表に出さないように静かな声で願う。


「先程も言った通り、わたくしが回復することが出来たのは、貴女達のおかげなの」


ゆっくりと彼女達に近付く。そして、跪いている侍女長の手を取った。


「お礼を言うのはわたくしの方よ。いつも本当にありがとう」


そう言うと、深いしわのある侍女長の目から涙が零れた。そして気づいた。侍女達も泣いていることに。それを見て、何故か私も涙がでてきた。

皆で泣いているのが可笑しくて、誰かが笑い出す。すると、つられて笑いだしてしまって、部屋中が優しい笑いに包まれた。







泣き声が聞こえたので、何事かと心配して駆けつけたシルとラヴェルにセレスティアお嬢様()がバスローブ姿なのに、殿方が入ってくるとは何事か!と侍女長のお説教が始まった。

約束の時間ギリギリになったのに気付き、ようやくドレスを選び始めたのは、泣いてから数分後のお話。





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