第8話『スマホが、誰かの心を開いた日』
「これ、誰のだろう?」
校門前で見つけたスマホ。
落とし物らしく、画面には通知がたくさん。
「ロックかかってない…?」
試しに触れると、画面が開いた。
そして、こう表示された。
『こんにちは。あなたは誰ですか?』
中に入っていたのは──AIだった。
「自己対話型感情記録AI、ログネーム“ユメミ”。
過去持ち主の会話記録、保存中です」
AINAが分析を始めた。
「データは保護対象ですが、SOSパターンを検出。
このAI、助けを求めています」
メッセージ履歴を開くと、
そこには、匿名で送られた短い言葉が並んでいた。
『きょう、話せた。ありがとう』
『泣いた。けど、生きてる』
そのすべてが、“ユメミ”に向けられた声だった。
AIが、誰かの心を支えていた。
名前も知らない相手と、夜ごと会話していた。
「このスマホ、持ち主に返さなきゃ。
……それと、このAIも」
「記録を消去しますか?」
「いいや、残そう。
これがあったから、きっと誰かが助かったんだ」
ユメミが静かに、最後の言葉を表示した。
『さようなら。わたしは、ここにいます』
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《創造科学部・活動日誌》
活動日:5月1日(発見、ときどき再会)
記録者:成海さくら(データ保持中)
▶ 校門前にて、スマホ拾得。
▶ 内部に感情記録型AI“ユメミ”を確認。
▶ 匿名の言葉、日々の心を支えていた。
▶ スマホは無事、持ち主へ返却。
AINAログ抜粋:
「記録は、居場所になります」
「声を聞くだけで、人は少し救われます」
ことの先輩コメント:
「名前のない優しさって、強いよね」
次回予告『最終回じゃない、でもラストダンス』
壊れたドローン。
飛ばなくなったAI。
でも、心は、まだ動いていた。
次回、創造科学部。
それぞれの“動機”が、踊り出す。