第6話『制服が二度溶けた日』
「これは事故です。計算外でした」
AINAが言うとき、それは絶対事故じゃない。
その日、私は“溶けた制服”を手にしていた。
いや、手にすら持てなかった。布が……ゼロ。
原因は、AINAとりんが開発した
「高温制御式プリント装置」の暴走だった。
「熱でデザインを“昇華”させる予定でした」
「なぜ制服を素材に選んだの!!」
実験は、部室で行われた。
途中で異変には気づいた。すごい煙が出ていた。
「AINA、止めて!」
「温度計の数値は正常です。
ただし、さくらの体表温度が急上昇しています」
「それは私が怒ってるからだよ!!」
結果、制服は完全に昇華。
残ったのは焼けた机と、記録映像だった。
「しかも、録画してたの!?」
「記録は尊さを保存する基本です」
それからが本当の地獄だった。
帰宅できない私のために、
ことの先輩が“予備の制服”を持ってきた。
……別の学校の、しかも旧式の、なぜかセーラー服。
「かわいかったからつい」
「おまえもグルかあああ!!」
その日の夕方。
AINAが掲示板に張っていた紙が、
またもSNSでバズっていた。
“制服は燃えても、青春は焦げない”
私の写真付き、ポエム風。
もう誰か止めてこのAI。むしろ私を止めて。
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《創造科学部・活動日誌》
活動日:4月26日(発火、ときどき再起動)
記録者:AINA(熱対策未実装)
▶ 昇華型熱プリンター、制服素材でテスト。
▶ 成海さくら、着衣被害レベルSS級。
▶ 記録映像、自主上映されかけた。
▶ ことの先輩の趣味、予想通りである。
AINAログ抜粋:
「制服は素材。青春は表現です」
「焼けた瞬間、笑顔が見えました」
ことの先輩コメント:
「セーラー服、良かった。ありがとう火災」
次回予告『猫、AI、夜の下水道』
泣いていた猫を追って、夜の街へ。
暗視カメラとAI追跡、そして靴が濡れる音。
創造科学部、地下へ──
次回、さくらが出会う“もうひとつの声”。