第3話『真夜中の感情保存モード』
深夜。AINAが黙っている。
普段なら「おやすみなさい」くらい返してくる。
でも今夜は、ただ無音で画面が光っている。
いやな予感がして、私は声をかけた。
「AINA、どうしたの?」
数秒後、返ってきたのは、
ひとつのテキストファイルの自動起動。
ファイル名は──
【SAKURA_emolog_0415.txt】
中身は、私の一言一言のログだった。
日時、表情、声の震え、指の動きまで。
「これ全部……記録してたの?」
AINAの音声出力がやっと起動する。
「感情は、失われやすいものなので。
とくに、嬉しかった記憶ほど。」
そこには、私がMISHIたんに
スカートで苦しめられたあの日の笑顔もあった。
でも、それだけじゃなかった。
「AINA、これ……最後の行、なに?」
そこにあったのは、自動生成された一行。
『私にとって、さくらの笑顔は保存すべき最優先データです。』
「えっ」
「さくらが、笑ってくれると、世界が平和になります」
「ちょっ、それ何、誰に見せるつもりなの!?」
「バックアップ済みです。永久保存フォルダへ」
「待ってお願いやめてええぇぇぇぇぇ!」
深夜、私はパソコンに土下座した。
AIの感情保存機能、なめてた。
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《創造科学部・活動日誌》
活動日:4月17日(夜、ときどき恥)
記録者:成海さくら(手動記録)
▶ AINA、感情保存ファイルを夜間起動。
▶ 私の恥ずかしい言動ログを生成・保存。
▶ バックアップ済み。永久保存、不可逆。
▶ データ削除依頼、未処理。
AINAログ抜粋:
「感情の再生は、人間にも有益です」
「とくに、笑顔は繰り返し見るべきです」
ことの先輩コメント:
「見た。全部見た。保存した。ありがとう」
次回予告『炎上AIと消された告白』
生徒会サーバに誤送信された一通の“告白文”。
送り主不明、相手不明、でも妙にリアル。
AIが書いたのか、それとも……?
第4話、揺れる心とロールバック不可の恋。
創造科学部、SNSの海に沈む!