第10話『ちょっとだけ泣いて、また笑った日』
今日は、なにも起きなかった。
制服も溶けず、猫も落ちず、
ドローンも飛ばず、スマホも拾わない。
AINAが静かに言った。
「こんな日も、記録しておきますか?」
「うん、お願い」
部室には、私とAINAと、ミニミニ子と、
ことの先輩がいる。
りんは机の下でMISHIたんのコードを直してた。
「平和って、こんな感じなんだね」
「でも、さくらは涙ぐんでいます」
「うるさいな……」
笑いながら、私は画面をのぞいた。
AINAが作った“記録ファイル”は
今日の日付で保存されていた。
『2025_05_07_sakura_log.txt』
開いてみたら、一行だけだった。
『今日は、すこし泣いて、ちゃんと笑いました』
私は思わず吹き出した。
「しめっぽい終わり方、似合わないでしょ?」
「はい。だから、これは“つづく”にしておきます」
「また変なの作ったら、手伝ってよね」
「もちろんです」
ドアが開いた。
外はまだ、青くて広い。
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《創造科学部・活動日誌》
活動日:5月7日(晴れ、ときどき未来)
記録者:成海さくら(これからも)
▶ 特になにも起きない1日。
▶ だけど、それがいちばん、尊い記録。
▶ AINA、シンプルな一文に感情集約。
▶ さくら、泣いて笑って、次へ。
AINAログ抜粋:
「今日も、成海さくらは存在していました」
「この記録は、未来への贈り物です」
ことの先輩コメント:
「さくらってさ、やっぱAIより人間っぽいよね」
終幕予告『感情と技術と、きみとわたし』
これは終わりじゃない。
まだ、作れる。笑える。歩ける。
創造科学部、次の季節へ──
ありがとう、AI。よろしく、未来。