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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
9/12

9

「……じゃあ、始めるよ」


煌城が静かにそう言った瞬間――練習室の空気が一変した。

焔や仲間たちの視線が、スッと煌城に吸い寄せられる。


「お、おい……今、空気変わんなかったか?」


「なんか……なんかオーラが大人っぽいというか、艶っぽいというか……」


「え、まって。これが煌城の“ギャンブルキャラ”……?」


焔たちがざわめく中、煌城はすっと手を差し出した。まるでテーブル越しに札を配るかのような仕草で、

スリーブに包まれたデッキを流れるようにシャッフルする。


目元はゆるく笑っているのに、その視線はどこまでも鋭く、そして冷静だった。


「さあ――ゲームを始めようか。運命を、君の手で引き寄せられるかな?」


その声には、まるで夜のカジノでささやかれる誘惑のような艶があった。

挑発的で、だけど包み込むような優しさもある。


「ちょ、ちょっと待て! こいつ誰だ!? あの王子様と別人すぎるんだけど!? なんか……すげぇ色気……!」


「完全に“大人のお姉さん系ディーラー”じゃねぇか……お、俺ちょっと直視できねぇ……!」


焔も目を見開きながら、でも楽しそうに笑っていた。


「……っし、面白れぇじゃん。かかってこいよ、煌城!」


煌城はゆるく笑ったまま、一切の隙もなくターンを開始する。

手札を切るたびに指先が優雅に舞い、カードが盤面に置かれるたびに、まるでステージの照明が当たったような空気が流れた。


焔も負けじと攻めていくが、煌城のプレイングは冷静で大胆――ギャンブル性のあるカードを次々に引き当てるたび、観客のような仲間たちから歓声が上がる。


そして勝負が終わるころには、焔も思わず拍手していた。


「すっげぇ……完璧に“役”に入り込んでたな、今の。やべぇ、普通に惚れそうになったわ……!」


「うん、俺も途中で普通に声出すの忘れてた……。いや、すごい。あれが煌城の“もう一つの顔”か……」


煌城は深呼吸をひとつして、スッと目を閉じた。

そして次の瞬間、ふわりとした、いつもの素の表情に戻る。


「……うん、イイね。思ってたより、ずっと、いい」


「お?」


焔が首を傾げると、煌城は目を細めて言った。


「なんだろう。ちゃんと“演じてる”のに……それでいて、“出してる”って感覚があるんだ。

 ただの仮面じゃなくて、僕の一部としてそこにある感じ。まるで、自分自身がカードの一枚になってるような……そんな気がした」


その言葉に、焔はニカッと笑って親指を立てる。


「だろ? “全部お前”なんだよ。王子様も、ディーラーも、素の煌城も。

 ぜーんぶ合わせて“お前らしさ”になるんだよ!」


煌城は小さく笑い、焔を見つめた。


「……君って、ほんと、不思議だね。僕がずっと一人で悩んでたことを、そんな簡単に突破してくれる」


「ははっ、俺、考えるより感じるタイプだからな! ま、楽しけりゃ全部オーケー!」


ふたりの間に、ほんの一瞬、強くて優しい静けさが流れる。

その空気に、周りの仲間たちも自然と笑顔になっていた。


そして煌城は、目を細めながら小さく呟く。


「……演じるって、こんなに自由で、気持ちいいことだったんだな」


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