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自己紹介も終わり、みんながカードの準備を始める。
練習室に並ぶテーブルには、カードケースやスリーブ、コインにサイコロ──
それぞれが愛用のデッキを取り出しながら、自然と会話が始まる。
「なあ……そういやさ」
ふと、タクミがカードをシャッフルしながら口を開いた。
「煌城ってさ、さっき『王道スタイル』以外のデッキも使ってるって言ってたじゃん?」
……その言葉に、煌城の手がぴたりと止まる。
ほんの一瞬だけ。
けれど、その動きの硬さに焔は気づいた。
(……構えたな)
無意識に、防御を張ったような空気。
煌城の目が、ほんの少しだけ伏せられる。
「それって……どのくらいあるの? デッキ」
低く、静かに尋ねるタクミの声。
その先が、いつかどこかで聞いたような否定の言葉になるんじゃないか──
そんな予感が脳裏をよぎったのだろうか。煌城は、返答に迷った。
でも。
「スゲーなって思ってさ」
──その言葉に、煌城のまぶたがふるりと揺れた。
「オレなんて、ひとつのデッキ回すのがやっとだよ。構築変えるだけでめっちゃ苦労するし。
なのに複数のデッキ使い分けるって、普通に尊敬なんだけど……って、アレ? なんかオレ、地雷踏んだ?」
「いや……違うんだ。ただ、ちょっとびっくりしただけ」
煌城はゆっくりと顔を上げる。ぱちくりと、まばたきを二つ三つ。
その目は、素直に“予想外だった”と言っていた。
「複数デッキ使うのってさ、なんかズルいとか言われがちじゃん? 『キャラがブレる』とかさ」
「えっ、言われるんだ。まじか……でも逆に、どんなデッキ使うのかめっちゃ気になるけどな。
だって、もう一つのデッキ使ってるとしたらさ……」
タクミが身を乗り出す。
「縛りプレイでトップ取ってるってことじゃん!? ひえ〜、ちょっと伝説感あるんだけど!?」
「それな! 王道で結果出してて他にもデッキあるとか、絶対エグい!」
「嫉妬してるやつらが勘違いして文句言ってるだけっしょ」
「うわー、その構築で対戦したい〜!」
煌城は、その言葉の渦の中に飲み込まれていた。
けれど、不快でも戸惑いでもない。
まるで、予想外に晴れた空を見上げるみたいに、ぽかんと口を開けていた。
焔がにししと笑って、煌城の肩を小突く。
「な? 言っただろ。こいつらなら大丈夫ってさ」
その瞬間、煌城は焔の顔を見て──ふわりと笑った。
それは、あの“王子様”でも、“気を張った仮面”でもない。
ただ、肩の力が抜けたような、自然な笑みだった。
「うん……ほんと、そうみたいだね」
静かに、でも確かに、そう呟いた。
カードを構えるその手が、ほんの少し、あたたかくなったようだった。