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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
7/12

7

自己紹介も終わり、みんながカードの準備を始める。

練習室に並ぶテーブルには、カードケースやスリーブ、コインにサイコロ──

それぞれが愛用のデッキを取り出しながら、自然と会話が始まる。


「なあ……そういやさ」


ふと、タクミがカードをシャッフルしながら口を開いた。


「煌城ってさ、さっき『王道スタイル』以外のデッキも使ってるって言ってたじゃん?」


……その言葉に、煌城の手がぴたりと止まる。


ほんの一瞬だけ。

けれど、その動きの硬さに焔は気づいた。


(……構えたな)


無意識に、防御を張ったような空気。

煌城の目が、ほんの少しだけ伏せられる。


「それって……どのくらいあるの? デッキ」


低く、静かに尋ねるタクミの声。

その先が、いつかどこかで聞いたような否定の言葉になるんじゃないか──

そんな予感が脳裏をよぎったのだろうか。煌城は、返答に迷った。


でも。


「スゲーなって思ってさ」


──その言葉に、煌城のまぶたがふるりと揺れた。


「オレなんて、ひとつのデッキ回すのがやっとだよ。構築変えるだけでめっちゃ苦労するし。

 なのに複数のデッキ使い分けるって、普通に尊敬なんだけど……って、アレ? なんかオレ、地雷踏んだ?」


「いや……違うんだ。ただ、ちょっとびっくりしただけ」


煌城はゆっくりと顔を上げる。ぱちくりと、まばたきを二つ三つ。

その目は、素直に“予想外だった”と言っていた。


「複数デッキ使うのってさ、なんかズルいとか言われがちじゃん? 『キャラがブレる』とかさ」


「えっ、言われるんだ。まじか……でも逆に、どんなデッキ使うのかめっちゃ気になるけどな。

 だって、もう一つのデッキ使ってるとしたらさ……」


タクミが身を乗り出す。


「縛りプレイでトップ取ってるってことじゃん!? ひえ〜、ちょっと伝説感あるんだけど!?」


「それな! 王道で結果出してて他にもデッキあるとか、絶対エグい!」


「嫉妬してるやつらが勘違いして文句言ってるだけっしょ」


「うわー、その構築で対戦したい〜!」


煌城は、その言葉の渦の中に飲み込まれていた。

けれど、不快でも戸惑いでもない。

まるで、予想外に晴れた空を見上げるみたいに、ぽかんと口を開けていた。


焔がにししと笑って、煌城の肩を小突く。


「な? 言っただろ。こいつらなら大丈夫ってさ」


その瞬間、煌城は焔の顔を見て──ふわりと笑った。

それは、あの“王子様”でも、“気を張った仮面”でもない。

ただ、肩の力が抜けたような、自然な笑みだった。


「うん……ほんと、そうみたいだね」


静かに、でも確かに、そう呟いた。


カードを構えるその手が、ほんの少し、あたたかくなったようだった。


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