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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
6/12

6

焔の家のカードショップ──その奥、練習室。


白熱灯の下、カード専用の広いテーブルが並んでいるその空間に、今日はいつもとちょっと違う空気が流れていた。


「なぁ……ちょっと、見てこいよ……」 「え?マジ? あの“煌城レオ”が?」 「焔のヤツ、何企んでんだよ……!」


ざわざわと囁き合いながら、焔の友人たち──常連メンバーがソワソワしていた。

なぜなら今、焔が「友達を連れてくる」と言っていたその人物が……まさかの“煌城レオ”だったからだ。


……とはいえ。


「えっ……え? ……えぇぇ?」


その人物が、まさかこんな姿で現れるとは思ってなかった。


ショップの裏口からひょこっと顔を出したのは──

帽子を目深にかぶり、だぼっとしたパーカーを着た、どこか少年めいた雰囲気の青年。

華やかさも王子様らしさも感じられないその姿に、一瞬、誰もが固まる。


「ども、こんにちはー……って、あれ、思ってたリアクションと違う?」


パーカーの裾を軽く揺らしながら、煌城が口角を上げた。どこか悪戯っぽい笑み。

「王子様」のような上品な微笑みとは真逆の、ちょっと茶目っ気のある表情だった。


「ちょっ、お前、ほんとに煌城レオなのか!?」


「まあ、いろいろあってね」


くしゃっと帽子を脱いで髪を軽くかき上げると、たしかにそこには煌城レオの顔があった。

でも、その立ち振る舞いも、空気も、テレビの中で見た“煌城レオ”とはまるで違った。


「……これから、ちょくちょく来ると思うから。よろしくね?」


煌城は無邪気に、でもどこか含みのある笑みで言った。


「な、なんか……“王子様”っぽくないな……」 「ていうか、ギャップがすげぇ……」 「俺、ちょっと脳が追いついてねえんだけど……」


あちこちで混乱の声が上がる。


焔は「うわああああ」と頭を抱えて、みんなの方を振り返る。


「あっ……あーっ! えっと、説明してなかった!! ごめん!!」


慌てて煌城の肩をポンポンと叩くと、煌城は肩をすくめて小さく笑った。


「言ってなかったっけ? “王子様”はね、僕の一部。けど……こっちが素だよ」


その言葉に、場が一瞬、静まり返った。


でも、そのあと──


「へえ……」 「マジか。でも、なんかその方が好きかも」


ざわざわとした空気が、少しずつ柔らかく変わっていく。


焔が口を開いた。


「じゃ、せっかくだし──自己紹介、してもらっていいか?」


「うん、もちろん」


煌城が、すっと姿勢を正して、にこりと笑った。

王子様風ではない、けれどまっすぐで、少しだけ照れの混ざった笑みだった。


「煌城レオ。今までは、王道スタイルで知られてたと思うけど……本当は色んなデッキを使ってきたんだ。

焔に誘われて、ここに来た。……まだ慣れてないけど、よろしくね」


その言葉に、メンバーのひとりがポンと手を上げた。


「お、じゃあ俺からも。俺は椎名ユウト。守備重視のデッキがメイン! でも、ギャンブル系も好き!」


「同じく! オレはタクミ! 攻撃ゴリ押し型だけど、逆に変則デッキにはめっぽう弱い!」


次々に自己紹介が飛び出す。

焔も笑って、胸を張るように言った。


「俺は焔! 全属性バランス型! 攻守も戦略も、全部混ぜた“焔スタイル”! よろしくな、煌城!」


煌城は──その光景を静かに眺めながら、ぽつりとつぶやいた。


「……ふふっ。こういうの、悪くないね」


テーブルの上、カードの山が少し揺れた。

新しい風が、静かに吹き始めていた。


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