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焔の家のカードショップ──その奥、練習室。
白熱灯の下、カード専用の広いテーブルが並んでいるその空間に、今日はいつもとちょっと違う空気が流れていた。
「なぁ……ちょっと、見てこいよ……」 「え?マジ? あの“煌城レオ”が?」 「焔のヤツ、何企んでんだよ……!」
ざわざわと囁き合いながら、焔の友人たち──常連メンバーがソワソワしていた。
なぜなら今、焔が「友達を連れてくる」と言っていたその人物が……まさかの“煌城レオ”だったからだ。
……とはいえ。
「えっ……え? ……えぇぇ?」
その人物が、まさかこんな姿で現れるとは思ってなかった。
ショップの裏口からひょこっと顔を出したのは──
帽子を目深にかぶり、だぼっとしたパーカーを着た、どこか少年めいた雰囲気の青年。
華やかさも王子様らしさも感じられないその姿に、一瞬、誰もが固まる。
「ども、こんにちはー……って、あれ、思ってたリアクションと違う?」
パーカーの裾を軽く揺らしながら、煌城が口角を上げた。どこか悪戯っぽい笑み。
「王子様」のような上品な微笑みとは真逆の、ちょっと茶目っ気のある表情だった。
「ちょっ、お前、ほんとに煌城レオなのか!?」
「まあ、いろいろあってね」
くしゃっと帽子を脱いで髪を軽くかき上げると、たしかにそこには煌城レオの顔があった。
でも、その立ち振る舞いも、空気も、テレビの中で見た“煌城レオ”とはまるで違った。
「……これから、ちょくちょく来ると思うから。よろしくね?」
煌城は無邪気に、でもどこか含みのある笑みで言った。
「な、なんか……“王子様”っぽくないな……」 「ていうか、ギャップがすげぇ……」 「俺、ちょっと脳が追いついてねえんだけど……」
あちこちで混乱の声が上がる。
焔は「うわああああ」と頭を抱えて、みんなの方を振り返る。
「あっ……あーっ! えっと、説明してなかった!! ごめん!!」
慌てて煌城の肩をポンポンと叩くと、煌城は肩をすくめて小さく笑った。
「言ってなかったっけ? “王子様”はね、僕の一部。けど……こっちが素だよ」
その言葉に、場が一瞬、静まり返った。
でも、そのあと──
「へえ……」 「マジか。でも、なんかその方が好きかも」
ざわざわとした空気が、少しずつ柔らかく変わっていく。
焔が口を開いた。
「じゃ、せっかくだし──自己紹介、してもらっていいか?」
「うん、もちろん」
煌城が、すっと姿勢を正して、にこりと笑った。
王子様風ではない、けれどまっすぐで、少しだけ照れの混ざった笑みだった。
「煌城レオ。今までは、王道スタイルで知られてたと思うけど……本当は色んなデッキを使ってきたんだ。
焔に誘われて、ここに来た。……まだ慣れてないけど、よろしくね」
その言葉に、メンバーのひとりがポンと手を上げた。
「お、じゃあ俺からも。俺は椎名ユウト。守備重視のデッキがメイン! でも、ギャンブル系も好き!」
「同じく! オレはタクミ! 攻撃ゴリ押し型だけど、逆に変則デッキにはめっぽう弱い!」
次々に自己紹介が飛び出す。
焔も笑って、胸を張るように言った。
「俺は焔! 全属性バランス型! 攻守も戦略も、全部混ぜた“焔スタイル”! よろしくな、煌城!」
煌城は──その光景を静かに眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ふふっ。こういうの、悪くないね」
テーブルの上、カードの山が少し揺れた。
新しい風が、静かに吹き始めていた。