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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
5/12

5

アイスコーヒーの氷がカランと鳴ったあと、しばらく沈黙が落ちた。

煌城の言葉は重かった。焔は、それをどう受け止めればいいのか迷っていた。


「あー……えっと、うーん……」


グラスの水滴を指先でなぞりながら、焔は何かを言いたそうに口を開いては閉じ、また開いては閉じ──

いつもの勢いが、少しだけなりを潜めていた。


「……んー……よしっ!」


小さく拳を握りしめて、焔は何かを決心したように顔を上げた。


「なあ! お前、俺ん家に来ないか!?」


煌城が目を見開いた。予想外すぎるその一言に、一瞬、言葉が出ない。

グラスを持つ手が、ぴたりと止まる。


「……え?」


「あっ、ご、ごめんっ! 言葉足りなかった!」


焔は慌てて手を振って付け加える。


「えっと、俺ん家さ、カードショップやってんだ。

 で、俺はいつもそこで友達と練習してるんだよ。大会前とか、他人に見せたくないときは、奥の練習室でやっててさ!」


焔の瞳がまっすぐ煌城を見つめる。その目は──まるで、あのバトルの時のように、揺るぎがなかった。


「どうだ? 俺とか、俺の友達なら……お前のこと、受け止められると思うぜ!

 王道でも、ギャンブルでも、お姫様でも、呪いのカードでも、何でも来いだ!」


その言葉には、嘘がなかった。飾りもなかった。

ただ、目の前の誰かを「そのままでいい」って受け入れようとする、焔らしい、まっすぐな想いがあった。


煌城は──そんな焔を、しばし無言で見つめた。

その瞳の奥で、何かが静かにほどけていくように。


「……まだ、ただの“知り合い”だよ?」


静かに、でもどこか試すような口調で、煌城は言った。


焔はキョトンとして──すぐに、満面の笑みで答えた。


「じゃあさ、今から友達になればいいじゃねーか!」


笑った。いつもの調子で、まっすぐに。


「それに! 一緒にゲームしたんだぜ? “ただの知り合い”なんかじゃない。

 あの熱さを、同じフィールドでぶつけた仲間だろ!」


煌城は、その言葉に──思わず、ふっ……と微笑んだ。


小さく、けれど確かに緩んだその表情は、今まで焔が見てきた“王子様の微笑み”とは違った。


もっと、素直で。

もっと、人間くさくて。

もっと……“煌城レオ”ではない、“本当の彼”の顔だった。


「……そんなこと、初めて言われたな」


言葉が零れる。


少しだけ頬を染めて、煌城はグラスを置いた。

そして、右手をすっと差し出す。


「……ああ。よろしく。焔」


焔は一瞬ぽかんとした顔をして、それから嬉しそうにニシシと笑った。


「ははっ、今のその笑顔の方が、ぜっっったいイイぜ!」


カラン、と音を立てて、二人のグラスが軽く触れ合った。


その音が、ふたりの新しい関係の、はじまりの音みたいに響いた。


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