5
アイスコーヒーの氷がカランと鳴ったあと、しばらく沈黙が落ちた。
煌城の言葉は重かった。焔は、それをどう受け止めればいいのか迷っていた。
「あー……えっと、うーん……」
グラスの水滴を指先でなぞりながら、焔は何かを言いたそうに口を開いては閉じ、また開いては閉じ──
いつもの勢いが、少しだけなりを潜めていた。
「……んー……よしっ!」
小さく拳を握りしめて、焔は何かを決心したように顔を上げた。
「なあ! お前、俺ん家に来ないか!?」
煌城が目を見開いた。予想外すぎるその一言に、一瞬、言葉が出ない。
グラスを持つ手が、ぴたりと止まる。
「……え?」
「あっ、ご、ごめんっ! 言葉足りなかった!」
焔は慌てて手を振って付け加える。
「えっと、俺ん家さ、カードショップやってんだ。
で、俺はいつもそこで友達と練習してるんだよ。大会前とか、他人に見せたくないときは、奥の練習室でやっててさ!」
焔の瞳がまっすぐ煌城を見つめる。その目は──まるで、あのバトルの時のように、揺るぎがなかった。
「どうだ? 俺とか、俺の友達なら……お前のこと、受け止められると思うぜ!
王道でも、ギャンブルでも、お姫様でも、呪いのカードでも、何でも来いだ!」
その言葉には、嘘がなかった。飾りもなかった。
ただ、目の前の誰かを「そのままでいい」って受け入れようとする、焔らしい、まっすぐな想いがあった。
煌城は──そんな焔を、しばし無言で見つめた。
その瞳の奥で、何かが静かにほどけていくように。
「……まだ、ただの“知り合い”だよ?」
静かに、でもどこか試すような口調で、煌城は言った。
焔はキョトンとして──すぐに、満面の笑みで答えた。
「じゃあさ、今から友達になればいいじゃねーか!」
笑った。いつもの調子で、まっすぐに。
「それに! 一緒にゲームしたんだぜ? “ただの知り合い”なんかじゃない。
あの熱さを、同じフィールドでぶつけた仲間だろ!」
煌城は、その言葉に──思わず、ふっ……と微笑んだ。
小さく、けれど確かに緩んだその表情は、今まで焔が見てきた“王子様の微笑み”とは違った。
もっと、素直で。
もっと、人間くさくて。
もっと……“煌城レオ”ではない、“本当の彼”の顔だった。
「……そんなこと、初めて言われたな」
言葉が零れる。
少しだけ頬を染めて、煌城はグラスを置いた。
そして、右手をすっと差し出す。
「……ああ。よろしく。焔」
焔は一瞬ぽかんとした顔をして、それから嬉しそうにニシシと笑った。
「ははっ、今のその笑顔の方が、ぜっっったいイイぜ!」
カラン、と音を立てて、二人のグラスが軽く触れ合った。
その音が、ふたりの新しい関係の、はじまりの音みたいに響いた。